7月13日、PlayCode.ioが「The Same TypeScript Costs 73% More Tokens on Claude Than GPT」と題した記事を公開した。同一の2,888文字TypeScriptファイルをClaudeの新トークナイザーに通すと1,178トークンになるが、GPT-5.xでは681トークンにしかならない。差は1.73倍(+73%)——料金ページの単価比較では絶対に見えてこない「隠れた乗数」を、実測と請求書の両面から解明した記事だ(なお本記事で言及されるモデル群はいずれも2026年7月時点の最新世代である)。
「1Mトークンあたり◯ドル」は比較にならない
AIモデルの料金ページに並ぶ数字、「$5.00 / 1M input tokens」。横に並べれば安い方が分かる——そう思われているが、この比較には根本的な欠陥がある。
コストの計算式はシンプルだ。
cost = (コンテンツが変換されるトークン数) × (トークン単価)
料金ページが見せているのは後者だけだ。前者、つまり「同じテキストが何トークンになるか」はモデルのトークナイザー(テキストをトークンと呼ぶ単位に分割するコンポーネント)によって異なる。たとえばOpenAIのo200kトークナイザーはウェブ開発で多用されるJavaScript/TypeScriptを大量に学習しており、camelCaseの識別子やJSXパターンを1トークンに圧縮できる(約4.24文字/トークン)。AnthropicのトークナイザーはそこまでTypeScriptに特化していないため、同じコードを処理するとトークン数が膨らむ。同じ「$5.00 / 1M tokens」を掲げていても、トークナイザーが異なれば同じファイルの請求額は変わる。PlayCode.ioはこの「隠れた乗数」を実測した。
核心:同一TypeScriptファイルで1.73倍
実験では2,888文字のTypeScriptファイルを各モデルの実際のトークナイザーでカウントした。

- GPT-5.x(o200k):681トークン
- Claude新トークナイザー:1,178トークン
- 差:1.73倍(+73%)
しかもこれはTypeScriptだけの話ではない。コード全体で見ると:
| コンテンツ | GPT-5.x | Grok 4.5 | Gemini 3 Flash | Claude(旧) | Claude(新) |
|---|---|---|---|---|---|
| TypeScript | 1.00x | 1.05x | 1.16x | 1.32x | 1.73x |
| Rust | 1.00x | 1.05x | 1.19x | 1.22x | 1.58x |
| JavaScript | 1.00x | 1.11x | 1.23x | 1.26x | 1.52x |
| Python | 1.00x | 1.09x | 1.20x | 1.22x | 1.50x |
| 英語散文 | 1.00x | 1.00x | 1.01x | 1.05x | 1.40x |
AIコーディングエージェントが終日生成するのは散文ではなくコードだ。そのコード全カテゴリーで差が顕著に出ている。TypeScriptで差が最大になるのはGPTのo200kがTypeScript構文に強く最適化されているためであり、TypeScript固有のバグではない。
二つの「隠れた床」
記事は実質コストの乖離を二層に整理している。
第一の層:同一料金表での静かな値上げ。 Claude Opus 4.6と4.8は同じ$5.00 / $25.00の料金表を持つ。しかし4.8は新しいトークナイザーを搭載しており、同じコードを約29〜39%多くのトークンに変換する。「同じ価格、新モデル」が実質約30%超の値上げになっているが、料金表には一切記載がない。
| コンテンツ | 旧トークナイザー(Opus 4.6) | 新トークナイザー(Opus 4.8) | 変化 |
|---|---|---|---|
| 英語散文 | 476 | 636 | +34% |
| TypeScript | 898 | 1,178 | +31% |
| Rust | 1,019 | 1,312 | +29% |
| JSON toolスキーマ | 2,631 | 3,306 | +26% |
| エージェントシステムプロンプト | 10,761 | 14,953 | +39% |
| 中国語散文 | 435 | 433 | ±0% |
注目すべきは最終行だ。中国語では新旧トークナイザーでほぼ変化がない。この増加はEnglishとコードに特有の現象である。裏返せば、英語でコードを書くAIエージェントのワークロードが最もこの影響を受けやすい。
なお「+31%のコスト増」の内訳を具体的に示すと、Opus 4.6(旧)で1,000トークン消費するコンテンツをOpus 4.8(新)で処理した場合、トークン数が1,310に増加する。単価は同一の$5.00 / 1Mトークンだから、コスト増加率=トークン増加率(+31%)とほぼ一致する。Sonnet 5($2.00)のように単価も変わるモデル間では、この計算に単価比も掛け合わせる必要がある。
第二の層:コードで最大化するベンダー間格差。 これが冒頭の1.73倍だ。同一コンテンツでClaudeの新トークナイザーはGPTの最大1.73倍のトークンを生成する。
「2〜4倍」という誇張への反論
「ClaudeはGPTの2〜4倍トークンを使う」という主張をSNSや比較記事で見かけることがある。本記事はその数字を実測値で否定している。実測値の範囲は以下だ。
- 英語散文・HTML・JSON:約1.36〜1.42倍
- コード(Python/JS/Rust/TypeScript):約1.50〜1.73倍
- 中国語・記号:約1.44〜1.53倍
73%というトップラインの数字をTypeScriptに絞って提示しているのは「AIコーディングエージェントが終日処理するのがまさにTypeScriptだから」であり、全コンテンツで1.73倍という主張はしていない。「2〜4倍」のような過大な数字が広まると、逆にユーザーが実態を正確に把握できなくなる。実際の請求額に直結する数字を正確に示すことが本記事の趣旨だ。
請求書で確認した
トークンカウンターの数字が本当に請求に反映されるかも検証している。同一コンテンツでmax_tokens: 1の実リクエストを発行し、Anthropic APIのusage.input_tokensフィールドを確認した結果:
- Opus 4.6:2,541トークン請求
- Opus 4.8:3,191トークン請求
count_tokensエンドポイントの予測と1トークンの誤差もなく一致。この検証コストは約**$0.08**だった。また最高価格モデルのFable 5($10/$50)も3,191トークンでOpus 4.8と完全一致しており、隠れたトークン割増はない。
Sonnet 5の割引は「移行期限定」
Claude Sonnet 5は$2.00 / $10.00でローンチされ、前世代Sonnet 4.6の$3.00 / $15.00より安く見えた。しかしこの価格は2026年8月31日までの期間限定だ。
新トークナイザーで約32%多くトークンが生成される中、$2.00の単価は1/3安く設定されているため期間中はわずかに有利になる計算だ。だが期間終了後は$3.00の標準価格に戻り、+32%のトークン増加はそのまま残る。結果として同一コードの処理コストはSonnet 4.6比で約32%高くなる。割引は移行期のクッションであり、恒久的な値下げではなかった。
詳細はThe Same TypeScript Costs 73% More Tokens on Claude Than GPTを参照していただきたい。