7月13日、Daniel Leviが「European AI defense startup Helsing raises $1.8 billion at $18 billion valuation」と題した記事を公開した。ミュンヘン拠点のAI防衛スタートアップHelsingが18億ドル(約2.7兆円)の資金調達を完了し、企業評価額が180億ドル(約27兆円)に達した。ウクライナ戦争を背景に欧州各国が防衛支出を急拡大する中、同社は欧州防衛テック分野における最大級の調達案件として注目を集めている。
欧州最大級の防衛スタートアップが巨額調達
出資者にはJPMorgan Chase、Lightspeed Venture Partners、ICONIQが名を連ねる。ICONIQは超富裕層や機関投資家向けのウェルスマネジメント・VC機能を持つ投資会社で、FacebookやAirbnbへの早期投資でも知られる。同社によれば、投資家からの引き合いは募集枠を大幅に超えたという。
今回の調達は、昨年のラウンドから約1年しか経ていない。前回はSpotify創業者のDaniel Ekが主導した6億9400万ドルの調達で、当時は欧州の防衛スタートアップとして過去最大の投資額だった。今回はその約2.6倍の規模になる。なお「欧州最大級」という表現については、前回ラウンドが欧州過去最大と記録されており、今回はそれをさらに大幅に上回る規模であることから、同等以上の位置づけと見られる。
欧州防衛支出拡大という追い風
Helsingの急成長を理解するには、欧州の安全保障環境の変化を押さえておく必要がある。2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻以降、NATO加盟国はGDP比2%以上の防衛費目標への対応を迫られており、ドイツをはじめとする主要国が防衛予算を大幅に積み増している。ドイツは2024年に憲法上の債務ブレーキを事実上棚上げし、数千億ユーロ規模の防衛・インフラ投資基金を設立するなど、政治的な転換が急速に進んでいる。こうした欧州全体の防衛支出拡大が、民間の防衛テックへの資本流入を加速させており、Helsingはその最大の受益者の一つとなっている。
ソフトウェアからドローンへ:Helsingの事業展開
Helsingは2021年にTorsten Reil、Gundbert Scherf博士、Niklas Köhlerの3名によって設立された。当初はAIソフトウェア企業として出発し、センサー・監視プラットフォーム・兵器システムからのデータを処理して、戦場でのリアルタイム意思決定を支援するシステムを開発してきた。
その後、防衛ハードウェアにも進出。昨年はHX-2打撃ドローンを発表した。HX-2はAI誘導を組み込んだ自律型の無人攻撃機であり、同社のAIソフトウェア基盤と統合されているのが特徴だ。AIソフトウェア・水中監視技術・自律型防衛プラットフォームに加えて無人航空機システムもポートフォリオに加えた形になる。HX-2はウクライナにも供給されており、実戦環境でのデータ取得と製品改善というサイクルを回せる立場にある点も、投資家の評価を高めている要因の一つとみられる。
同社は「株式の大部分を欧州が保有しており、欧州への深いコミットメントを体現している」と述べている。調達資金は「パートナー国の防衛能力に新たなAIプラットフォームを開発・統合するミッションの加速」に充てるとしている。欧州の防衛産業において、米国資本への依存を避けつつ戦略技術を自国管理下に置くという政治的要請が強まる中、Helsingの「欧州ファースト」の株主構成はそのまま同社の競争優位に直結している。
米国勢との比較で見る規模感
欧州での調達規模拡大は著しいが、米国の競合との差はまだ大きい。米Anduril Industriesは今年5月に510億ドル(約7.7兆円)の評価額で50億ドルを調達している(CNBCが報道)。Shield AIやSaronic Technologiesも直近で大型調達を行っており、AI防衛分野への資本流入が続いている。
Helsingの180億ドル評価額は欧州の文脈では突出しているが、米国の主要プレイヤーと比べると評価額で3分の1程度の規模にとどまる。欧州各国政府が軍事支出を拡大し、戦略技術の自国管理を強める中、Helsingの立ち位置が今後どう変化するかが焦点になる。
詳細はEuropean AI defense startup Helsing raises $1.8 billion at $18 billion valuationを参照していただきたい。