7月14日、Matthias Bastianが「Turing Award winner Rich Sutton founds Oak Lab to build AI agents that learn on their own」と題した記事を公開した。強化学習の父として知られるRich Suttonが、現在のLLM中心のAI開発を「弱くて非効率」と断じ、20ワットの消費電力で動作する1兆パラメータの自律学習エージェントという野心的なビジョンを掲げてスタートアップ「Oak Lab」を設立した。
チューリング賞受賞者がスタートアップを創業
Richard Suttonは、現代の強化学習(Reinforcement Learning)の基礎を築いた研究者であり、David SilverとともにAndrew Bartoと並ぶこの分野の第一人者だ。その功績が認められ、2024年に発表されたチューリング賞(コンピュータ科学のノーベル賞とも呼ばれる最高権威の賞)を受賞している。そのSuttonが、Khurram Javedとともにカナダ・トロントで新スタートアップ**Oak Lab**を立ち上げた。
両者はともに、John Carmack(『Doom』『Quake』を生んだid Softwareの共同創業者であり、元Oculus CTO)が立ち上げたAI企業「Keen Technologies」に在籍していた経歴を持つ。Keen Technologiesは人工汎用知能(AGI)の実現を目指して2022年に設立されたが、その後活動を縮小・終了しており、SuttonとJavedはその経験を踏まえてOak Labの創業へと踏み切った形だ。
「現在の深層学習は弱くて非効率だ」
創業にあたってSuttonは、X(旧Twitter)上で現在の深層学習(Deep Learning)手法を「弱くて非効率(weak and inefficient)」と断言し、次のように述べている。
「これ以上の調整ではなく、根本的に新しいアイデアと徹底的な再構築が必要だ。そうしなければ、AIのより野心的な目標を達成するための確固たる基盤は築けない。」
この発言は、現在のLLM(大規模言語モデル)中心のAI開発トレンドへの真っ向からの批判として受け取れる。
Suttonのこうした立場は、突然生まれたものではない。2019年に発表した論文『The Bitter Lesson』においてSuttonは、「人間の知識をシステムに組み込もうとする研究者の努力は、長期的には計算量のスケールアップに常に敗北してきた」と論じ、汎用的な学習アルゴリズムと計算資源の拡大こそがAI進歩の本質だと主張した。この論文はAIコミュニティで広く議論され、スケーリング則を支持する立場からも批判する立場からも頻繁に引用される重要な文書となっている。Oak Lab設立は、その哲学をさらに推し進め、「経験から継続的に学ぶ」エージェントという形で実装しようとする試みと見ることができる。
Suttonは2025年6月にも、生成AIは模倣は得意だが自身のアウトプットを評価できないため、真の発見・発明は不可能だと主張している。静的なデータセットで一度だけ学習する現在のパラダイムに対し、Suttonが長年主張してきた「経験から継続的に学ぶ」アプローチを実装するための組織が、Oak Labというわけだ。
Oak Labが目指すもの
Oak LabのコンセプトはKeen Technologiesと同様、強化学習と「AIは静的データセットで訓練するのではなく、稼働中の経験から学ぶべき」という信念を軸に据えている。
具体的にOak Labが目指すのは、以下の能力を持つAIエージェントだ:
- 環境から継続的に学習する
- 内部の世界モデルを自律的に構築する
- 変動への対応、自己評価、選択を自律的に行う
そして長期的なビジョンとして掲げているのが、「20ワットの消費電力でリアルタイムに学習・計画を行う1兆パラメータのエージェント」だ。現在のLLMが推論だけで数百ワット〜数キロワット規模の電力を消費することを考えると、これは相当に野心的な目標である。スケールよりも効率と自律性を優先するこの方向性は、現在の主流であるスケーリング一辺倒のアプローチとは根本的に異なる設計思想に基づいている。
Suttonほどのキャリアと実績を持つ研究者が、主流への批判を実際の創業という形で体現したことは、AIコミュニティに対して一定のメッセージを発している。Oak Labの動向は、強化学習・エージェントAI研究の観点からも注目に値する。
詳細はTuring Award winner Rich Sutton founds Oak Lab to build AI agents that learn on their ownを参照していただきたい。