7月13日、Cloudflareが「Introducing Precursor: detecting agentic behavior with continuous client-side signals」と題した記事を公開した。AIエージェントの急増によりCAPTCHAを突破するボットが常態化するなか、Cloudflareはボット検知の対象を「チャレンジの瞬間」から「セッション全体」へと根本的に拡張する新機能「Precursor」を発表した。
AIエージェントによるWeb自動操作は2025年以降急増しており、スクレイピング・チケット転売・アカウント乗っ取りといった悪用が深刻化している。これらの高度なボットはフルブラウザ環境を持ち、単発のCAPTCHAチャレンジを難なく突破する。問題の本質は「瞬間的なチェックをくぐり抜けること」に特化して進化してきた点にある。時間をかけて一貫した人間らしい行動を模倣し続けること——それこそがボットにとっての難題であり、Precursorはこの盲点を埋めるために設計された。
ボット検知の「盲点」とは何か
Cloudflareの既存サービスTurnstileは、ログイン・サインアップ・チェックアウトなどの重要な瞬間に人間かどうかを検証するCAPTCHA代替として機能し、1日約30億回(元記事公開時点)実行されている。しかしその性質上、チャレンジをパスした後のセッション全体の行動は監視できない。
ボット開発者がマウス移動を人間らしく見せる際によく用いるのが、ガウスノイズ(正規分布に従うランダムなばらつき)や一様ランダムな遅延の付加だ。しかし人間の動きには、ノイズだけでなく物理的・生理的制約がある。
- 手首の回転軸:人間のマウス移動は手首・前腕の可動域に制限された弧を描く
- 認知負荷:チェックボックスを視認してからクリックするまでに計測可能な遅延が生じる
- 生理的振戦:筋肉の微細な収縮によって、どれだけ安定した手でも人間は常に微振動している(生理的振戦とは、意図せず生じる周期的な細かい震えのこと)
ボットはこれとは対照的に、線形補間や数学的に理想的なベジェ曲線(滑らかな曲線を描くための数式)で動き、人間には不可能な精度でクリックする。個々の動作は一見もっともらしく見えても、セッション全体を通じてパターンの差異が浮かび上がる。
Precursorの仕組み:4層構成
1. インジェクション・収集層
PrecursorはCloudflareのネットワークを通過するHTMLレスポンスに、追加設定なしで軽量スクリプトを自動注入する。スクリプトはコンパクトかつ難読化され、レスポンスごとに動的に組み立てられる。ポインタ移動・キーボード操作・フォーカス変化・ページ表示状態などのイベントを収集し、定期的に評価層へ送信する。
2. 評価層
エッジサーバー側では、受信したペイロードを複数の評価器(evaluator)が処理する。各評価器はシグナル同士をクロスリファレンスする。「ポインタの動きとページ表示時間が相関しているか」「テキストフィールドにフォーカスがある場合のみキーボードイベントが発火しているか」といった検証が行われ、文脈に沿わない挙動を捉える。
3. セッション統合
Precursorのデータはセッション単位で蓄積される。ボットがページを再読み込みしたり新たなチャレンジをやり直したりしても、行動シグナルはリセットされない。収集された情報はボットスコアの調整にリアルタイムで反映される。
4. プライバシー設計
キーボード操作は押したキーそのものではなく、タイミングとリズムとして記録される。行動シグナルは集約パターンとして評価され、顧客ダッシュボードには公開されない。ユーザーアカウントやログイン情報、永続的なプロファイルとも紐付けられない。
セッションベースのSecurity Analytics
Precursorの導入に合わせて、Security Analyticsにセッションベースのビューが追加された。従来のリクエスト単位の分析では見えなかった「リクエストとリクエストの間の行動」を可視化し、次のような問いに答えられる。
- サイト上での典型的なセッションはどのようなものか
- どの時点でセッションが期待される行動から逸脱するか
- 時間をかけて自動化の兆候を示すセッションはどれか

今すぐ無料で試せる
PrecursorはCloudflareダッシュボードから有効化でき、既存のアプリケーションへの変更は不要だ。すでにBot ManagementやTurnstileを使用している場合、Precursorはそれらの保護をチャレンジポイントを超えたセッション全体に拡張する。動作モードは2種類用意されている。
- フリクション低モード:バックグラウンドで行動を観察するのみ
- 強制検証モード:セッションが未検証の場合にチャレンジを要求
GA(一般提供)リリースまでは無料で利用でき、GA時期は2026年後半を予定している。GA後はEnterprise Bot Managementの機能として位置づけられ、Turnstileの補完オプションとして提供される予定だ。
詳細はIntroducing Precursor: detecting agentic behavior with continuous client-side signalsを参照していただきたい。