7月11日、MarkTechPostが「Ant Group's Robbyant Unveils LingBot-VA 2.0: A Causal Video-Action Model Built Natively for Physical AI」と題した記事を公開した。Ant GroupのロボティクスユニットRobbyantが発表した「LingBot-VA 2.0」は、推論チャンク遅延を927msから142msへ約6.5倍高速化し、非同期制御周波数35Hzから225Hzへ引き上げたロボット操作向け基盤モデルだ。その鍵は、動画生成向けアーキテクチャの「流用」を完全に捨て、物理AIのためだけにCausal DiTをゼロから事前学習したことにある。
「動画生成モデルの流用」からの脱却
近年、物理AI(Physical AI)と呼ばれる、現実世界で動作するロボットや自律エージェント向けの基盤モデル開発が急速に進んでいる。その中で有力なアプローチの一つがVideo-Actionモデル——映像として未来の状態を予測しながら、同時にロボットの動作(アクション)を生成する手法だ。映像予測によって物理的な因果関係を暗黙的に学習できるため、汎化性能が高いとされる。
ところが、このカテゴリの多くのモデルは、デジタルコンテンツ生成向けに設計されたVAE(変分オートエンコーダー)と双方向ビデオ拡散バックボーンを流用し、そこにアクションモジュールを追加するアーキテクチャを採用してきた。この設計には根本的な不整合がある。
- ピクセル再構成向けの潜在表現は外見を保存するが、物理的構造の情報が薄い
- 双方向Attentionはコンテンツ生成には向くが、時間的に前向きに展開するロボット制御とは噛み合わない
- 反復的なデノイジングはリアルタイム制御には遅すぎる
LingBot-VA 1.0はその双方向モデルをCausal(因果的・前向き)に変換することで対処した。2.0はその上位互換ではなく、Causal DiTをゼロから事前学習した点が本質的な違いだ。
アーキテクチャの核心:Sparse MoEビデオストリーム
2.0のバックボーンは1.0のMixture-of-Transformers構造を引き継ぎ、ビデオエキスパートとアクションエキスパートが単一のCausal Self-Attentionを共有する設計だ。
ビデオエキスパート側のFFNは128個のルーティングSwiGLUエキスパート(top-8ルーティング + 1つの共有エキスパート)を持つSparse MoEに置き換えられている。Sparse MoEはトークンごとに一部のエキスパートのみを活性化する構造で、総パラメータ数を増やしながら推論コストを抑えられる点が特徴だ。ロードバランシングには補助ロスを使わないLoss-Free Balancing戦略を採用。アクションエキスパートは隠れ次元768のDense FFNを維持する。
パラメータ規模は以下の通りだ:
- 総パラメータ数:約15.3B
- 推論時のアクティブパラメータ数:約2.5B/トークン(ビデオバックボーン単体では約13.0B中1.9Bがアクティブ)
なお、後述するセマンティック視覚-アクショントークナイザーは、動画生成モデルWANの再構成専用VAEを置き換える形で導入されている。WANはAnt Groupが開発したオープンソースの動画生成基盤モデルであり、LingBot-VAシリーズはその知見を土台としつつも、ロボット制御向けに設計を刷新している。
Foresight Reasoning:予測と実行の非同期化
推論速度のボトルネックを解消する仕組みとして、Foresight Reasoningが導入されている。ロボットがアクションチャンク a_t を実行している間に、ビデオエキスパートがその結果を「想像」し、アクションエキスパートが次のチャンク a_{t+1} をデコードする。
ただし、想像した潜在表現と実際の観測がズレるリスクがある。これを防ぐため、実際の観測が返ってくるたびに、想像した潜在変数 z_hat を真の潜在変数 z_{t+1} で上書きして再グラウンディングする。
# 非同期ロールアウトの疑似コード(論文 Sec. 2.3.7, Eq. 29)
C = init_kv_cache(encode(obs_0)) # フィードバックでグラウンディングされたキャッシュ C_t
a = policy.action_expert(C) # コールドスタート:最初のアクションチャンク a_0
while not done:
executor.start(a) # 実行ストリーム(ノンブロッキング)
C_tmp = C + [a] # 予測ストリーム
z_hat = policy.video_expert(C_tmp) # 順方向ダイナミクス → 想像上の z_{t+1}
a_next = policy.action_expert(C_tmp + [z_hat])
obs = executor.wait() # a_t の実観測が返る
C = overwrite(C_tmp, z_hat, encode(obs)) # 再グラウンディング:z_hat ← 真の z_{t+1}
a = a_next
ベンチマーク性能
評価には**RoboTwin 2.0**が使用されている。RoboTwin 2.0はロボット操作タスクのシミュレーションベンチマークで、50タスク・2,500件のクリーンデモと25,000件のランダム化デモを含む、汎化性能の評価に適した構成を持つ。結果は以下の通りだ:
| 手法 | Clean | Randomized | Avg. |
|---|---|---|---|
| X-VLA | 72.9 | 72.8 | 72.9 |
| π0.5 | 82.7 | 76.8 | 79.8 |
| Motus | 88.7 | 87.0 | 87.9 |
| LingBot-VA | 92.9 | 91.6 | 92.2 |
| LingBot-VA 2.0 | 93.8 | 93.4 | 93.6 |
推論速度の最適化積み上げも示されている:
| 最適化手法 | 推論時間(ms/chunk) | 非同期制御周波数 |
|---|---|---|
| BF16 PyTorchベースライン | 927 | 35 Hz |
| + Consistency distillation | 466 | 69 Hz |
| + 低精度コンパイル実行 | 369 | 87 Hz |
| + 長期Attentionの最適化 | 272 | 118 Hz |
| + ランタイムオーバーヘッド削減 | 142 | 225 Hz |
チャンク遅延が927msから142msへ(約6.5倍)、非同期制御周波数が35Hzから225Hzへ改善された。Consistency distillationでビデオサンプラーのステップ数を5→2に、アクションサンプラーを10→2に削減し、FP8 TensorRTエンジンとFlashInfer attentionを組み合わせた成果だ。FlashInferはGPU上のAttention演算を高度に最適化するライブラリで、長いKVキャッシュを扱うロボット制御の推論シナリオと相性が良い。
その他の技術的ポイント
Multi-Chunk Prediction(MCP)は訓練の近視眼的な監督を修正する。通常のTeacher Forcingでは次の1チャンクしか監督しないため、モデルが外見をコピーするだけで損失を下げられてしまう。MCPは次の3チャンクを予測する軽量モジュールを3つ追加し、ベースラインが45,000ステップで達する精度を20,000ステップで達成(2.3倍の学習高速化)した。
セマンティック視覚-アクショントークナイザーも重要な改善だ。WANの再構成専用VAEをこのトークナイザーに置き換えるだけで、1.3Bモデルのスコアが78.0から86.6へ向上したことがアブレーションで確認されている。
デプロイ面では、以下の特徴的な機能も報告されている:
- Few-shot適応:1タスクあたり10〜15件のデモから新タスクへ対応
- Human-Robot Co-training:人手動画(65,400エピソード)を仮想グリッパーとして再利用
- デモ条件付き制御:テキスト指示の代わりに人手のデモ動画をin-contextで渡す
論文PDFはGitHubで公開されており(リンク)、プロジェクトページはtechnology.robbyant.com/lingbot-va-v2で参照できる。
詳細はAnt Group's Robbyant Unveils LingBot-VA 2.0: A Causal Video-Action Model Built Natively for Physical AIを参照していただきたい。