7月12日、Olivia Tauberが「Apple v. OpenAI lawsuit: 8 key allegations explained」と題した記事を公開した。この記事では、AppleがOpenAIを商業秘密窃取で提訴した訴訟の8つの核心的な主張について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
「面接」を情報収集の場として使ったという疑惑が最大の焦点
2026年7月10日、AppleはOpenAIとその関連法人、ハードウェア子会社のio Products、OpenAIのChief Hardware OfficerであるTang Yew Tan、そして元Appleエンジニアのチャン・リウ(Chang Liu)を提訴した。提訴先はカリフォルニア北部地区連邦地方裁判所。Appleの主張を一言で言えば、「OpenAIは社員を引き抜く権利はあったが、Apple社内のファイルやハードウェアを持ち出させる権利はなかった」というものだ。
なかでも最もインパクトのある疑惑が、OpenAIの採用面接が情報収集セッションとして機能していたという主張だ。
Tanは元AppleのVP(バイスプレジデント)で、iPhoneおよびApple Watchのプロダクトデザインを24年以上担当した人物。訴状によれば、Tanは現役のApple社員を面接する際に、未公開プロジェクトの社内コードネームを使って質問したという。そのコードネームはApple外部には意味をなさないが、そのプロジェクトに携わる社員には何を聞かれているかが一目でわかる。
さらに候補者には「Technical Deep Diveプレゼン」の作成が求められ、その内容には「どの部品をどのベンダーから調達しているか」「サプライヤーとのやり取りで使うソフトウェアは何か」といった詳細な質問が含まれていたとされる。通常の技術面接にも見える内容だが、Appleの主張は「現役社員が秘密プロジェクトについて答えるよう誘導されていた」という点にある。
Appleが特に問題視しているのが、Tanが候補者に「実際の部品を面接に持参するよう」指示していたという疑惑だ。バッテリー、ロジックボード、システムインパッケージ(SiP)、シールドといった物理コンポーネントを「show and tell」のために持ってくるよう求めたとされている。ある候補者はその依頼に驚き、「そんなものをオフィスから持ち出せるとは知らなかった」とメッセージで返したと訴状に記載されている。
また訴状には、ある社員がOpenAI面接の数時間前に機密プロジェクト関連のファイルをスクリーンショットしてダウンロードし、その面接中にTanが同じプロジェクトについて質問したという事例が記されている。Appleはこの行為をアクセス記録とサーバーログの照合によって発見したという。Apple支給のPCを使ってファイルを取得したため、取得元のシステムに証跡が残った形だ。
退職手続きの「抜け穴指南」疑惑
Appleはさらに踏み込んだ主張もしている。OpenAIが退職手続きを回避する方法を採用候補者に教えていたという疑惑だ。
訴状によれば、Tanは「Need to Know」と記された社内限りのApple文書を社外の採用候補者に共有した。この文書はAppleの退職時セキュリティ手続きを説明するものとされており、候補者はAppleを辞める前から「何が検査され、何を聞かれるか」を把握できた状態だったという。
また、OpenAIへの転職が決まった社員は退職先を告げないようアドバイスされ、Apple側の書類へのサインを促された場合はすぐにOpenAIに連絡するよう指示されていたとされる。訴状ではOpenAI転職組の間に「exit interviewをスキップする」「セキュリティチームのメッセージを無視する」「事前通知をほとんど出さずに離職する」という共通パターンが見られたとAppleは主張している。
元エンジニアの「ログイン残存」疑惑
もう一人の被告、リウはAppleで8年以上シニアシステム電気エンジニアとして勤務し、2026年1月にOpenAIへ移籍した人物だ。
Appleの主張では、リウは退職時にApple支給のラップトップを返却せず、さらにAppleのクラウドストレージへのアクセスが退職後も継続できる認証の脆弱性を発見した。彼はそれをAppleに報告せず、OpenAI在籍中もAppleのエンジニアリング資料へのアクセスを続けたとされている。
訴状にはリウがApple社員に送ったメッセージが引用されており、そこには「LOL、まだサーバーにアクセスできるのわかった、笑える」という内容が含まれていたという。Appleはこれを「意図的な不正アクセス」の証拠として位置づけている。偶然ログインできてしまうのと、それを認識した上でファイルをダウンロードし続けるのは法的に異なる行為だ。
リウはさらに別のApple社員のOpenAI面接準備を手伝い、機密フォルダへのアクセス方法を教えるとともに、Appleのセキュリティチームに察知されずにファイルをコピーする方法を助言したとされる。また途中からApple端末での連絡をやめ、LINEに切り替えるよう促していたという。
なぜ今、この訴訟が起きたか
そもそもAppleとOpenAIは2024年に協業を発表した仲だ。iPhoneやMacからChatGPTに直接アクセスできる統合機能がリリースされ、両社は表向き友好的な関係にあった。
関係が変わったのは、OpenAIがソフトウェアの領域を超え、ハードウェア事業へと踏み込んだことが直接の引き金だ。2025年、OpenAIは元AppleのチーフデザインオフィサーであるJony Iveらが設立したio Productsを約65億ドルで買収した。iPhoneやiMacのデザインを手がけたIve自身は今回の訴訟で被告に名前は挙がっていないが、OpenAIのAIデバイス開発に深く関与している。
OpenAIの最初のハードウェア製品は2026年末にもリリース予定とされており、「スクリーン・アプリ・キーボード・スマートフォンという従来の構造を超える新しいAIデバイス」として位置づけられている。Appleの主張は「ChatGPTの改善に使われた」という話ではなく、「自社の物理製品と競合するハードウェアの開発に機密情報が使われた」という点が核心だ。
なお、OpenAIの広報責任者Drew Pusateriは、Appleの機密情報を求めたり使用したりしたことを否定するコメントをXに投稿している。また、訴状はAppleの主張を記したものであり、裁判所による事実認定ではない点も留意が必要だ。
訴状ではOpenAIに400人超の元Apple社員が在籍していることも言及されているが、これ自体が違法行為の証拠ではないとAppleも認めている。問題は、その移籍の過程でAppleの保護情報が持ち出され、OpenAIがそれを知りながら受け取り・利用したかどうかだ。
詳細はApple v. OpenAI lawsuit: 8 key allegations explainedを参照していただきたい。