7月12日、Futurismが「AI Is Pushing Older Employees Straight Out of the Workforce, New Report Finds」と題した記事を公開した。ボストン・カレッジの退職研究センターが発表した研究によれば、ChatGPT登場後にAIへの露出度が高いホワイトカラー職でコンピュータープログラマーの離職が25%超、会計士・監査役が**22%**増加しており、その多くは早期退職ではなく「失業への移行」だという。
「AIに奪われる仕事」の主な被害者は新卒者ではなかった
AIと雇用をめぐる議論では、「新卒者が真っ先に職を失う」という見方が主流だった。低レベルのルーティン業務を自動化するLLM(大規模言語モデル)が、オフィスキャリアへの入口となる仕事を奪うという図式だ。
ところが、ボストン・カレッジの退職研究センター(Center for Retirement Research at Boston College)が発表した新たな研究は、異なる実態を示している。同センターの経済学者ジェフリー・サンゼンバッハー(Geoffrey Sanzenbacher)が政府の雇用統計とAI露出指数を照合し、ChatGPTがリリースされた2022年前後で55歳以上の労働者の離職動向を比較した。
ここでいうAI露出指数とは、特定の職種がAIに代替可能なタスクにどれだけ依存しているかを定量化した指標で、Felten・Raj・Seamans(2021)らによる研究(Occupational, Industry, and Geographic Exposure to Artificial Intelligence)など複数の先行研究で用いられてきた手法を踏まえている。本研究ではこの指数をもとに、職種ごとのAI代替リスクと実際の雇用動向を突き合わせている。
コンピュータープログラマーは25%増、会計士は22%増の「退場」
研究の核心となる数字は重い。2014年から2025年にかけて、AIへの露出度が高い職種を離れた55歳以上の労働者の割合は、職種によって以下のように増加した。
- コンピュータープログラマー:25%超の増加
- 会計士・監査役:22%の増加
- 塗装工などの肉体労働系:約2%の増加(比較対象)
この差は歴然だ。肉体労働の離職増加が微増にとどまる一方、コーディングや税務申告といった高度知識労働での離職が急増している。
ChatGPT登場以前、AIに露出しやすい職種の従事者は、肉体労働者と比較してより長く働き続ける傾向があった。いわば「キャリアの長寿命性において相対的な優位性」があったとサンゼンバッハーは述べている。しかしChatGPT登場後、その優位性は大きく削られた。
「自発的な早期退職」ではなく「失業」への移行
見逃せないのは、この離職の中身だ。サンゼンバッハーは、AI露出度の高い職種でChatGPT登場後に増加したのは、「労働市場からの自発的な退出(早期退職)」ではなく、「失業への移行」だと指摘している。
つまり、定年を前に自ら辞めているのではなく、準備ができていないまま職を失わされているケースが増えているということだ。再就職の難しい年齢層にとって、これは深刻な問題となる。
ただし、サンゼンバッハー自身も「AIが労働者、特に退職間近の層に与える影響はまだ未解決の問題だ」と慎重な留保を置いている。因果関係の確定には、さらなる研究が必要な段階だ。
両端から絞られる労働市場
この研究が突きつける問いは構造的だ。エントリーレベルの採用が鈍化し、ベテラン層が早期に職場を去るなら、中間に位置する一般的な労働者はどこへ向かうのか。
同じ構図はエントリーレベルのソフトウェア開発でもすでに観測されている。労働市場がAIによって「上下から同時に圧縮されている」状況は、個人のキャリア設計だけでなく、社会保障・年金制度にも波及しうる問題だ。米国ではSocial Security Administration(社会保障局)が早期離職者の受給開始年齢引き下げに伴う給付額の減少を警告しており、「準備なき離職」が老後の経済的安定を損なうリスクは制度的な観点からも無視できない。また、OECD「Pensions at a Glance」などの国際統計も、高齢労働者の早期退出が年金財政に与える影響を継続的に追跡している。
詳細はAI Is Pushing Older Employees Straight Out of the Workforce, New Report Findsを参照していただきたい。