7月11日、The Decoderが「Apple sues OpenAI for allegedly running a "coordinated campaign" to steal trade secrets through poached employees」と題した記事を公開した。AppleがOpenAIを相手取りカリフォルニア連邦裁判所に提訴した——訴状が描くのは、400人超の元Apple社員を組織的に引き抜き、採用プロセスそのものを情報収集の場として悪用したというシナリオだ。OpenAI側は疑惑を全面否定しており、あくまで訴状上の主張であることには留意が必要だが、その内容は法廷戦略として異例の具体性を持つ。
AppleがOpenAIを提訴——元Apple社員400人超という規模が訴状の核心
Appleはカリフォルニア連邦裁判所でOpenAIを提訴した。訴状によれば、OpenAIは「組織的なキャンペーン」を通じてAppleの営業秘密と機密情報を盗み取ったと主張している。
訴状には次のように記されている。
「技術スタッフから最高ハードウェア責任者に至るあらゆる階層で、そしてビジネスパートナーと連携しながら、OpenAIはAppleの営業秘密と機密情報を盗み続けてきた。その結果、OpenAIの新興ハードウェア事業は、不正に流用した営業秘密への違法な依存によって根腐れし、最も脆弱な基盤の上に成り立っている。」
訴状が強調する事実として、現在OpenAIには400人を超える元Apple社員が在籍しているという点がある。これはOpenAIのハードウェア部門が事実上Appleの人材で構成されていることを示す数字だ。
本件はAppleが米国のDefend Trade Secrets Act(DTSA)に基づいて提訴したものとみられる。DTSAは2016年に制定された連邦法で、営業秘密(Trade Secret)——企業が秘密として管理し、経済的価値を有する技術情報・ビジネス情報——の不正取得・使用・開示を民事上の請求原因として認める。従来は州法(カリフォルニア州であればCUTSA)による保護が主流だったが、DTSAにより連邦裁判所での提訴が可能となった。今回のAppleの提訴がカリフォルニア連邦裁判所を舞台としているのも、その枠組みに沿ったものだ。
OpenAI側は疑惑を否定。広報担当者は「他社の営業秘密に関心はなく、自社技術の構築に注力している」と述べた。
訴状が名指しする人物たち
訴訟の中心人物はTang Tan(タン・タン)、OpenAI最高ハードウェア責任者だ。TanはAppleのVP of Product Designとして、iPhone・Apple Watch・AirPodsの開発を率いていた人物で、2024年にAppleを退職。その後、元Apple主任デザイナーのJony IveやEvans Hankeyとともに、AIデバイス系スタートアップ「io Products」を共同創業した。OpenAIは昨年このスタートアップを65億ドルで買収している。
訴状によれば、Tanは採用面接の場でAppleの未発表製品に関する情報を共有するよう社員たちに促したとされる。
もう一人の被告、元iPhoneハードウェアエンジニアのChang Liuは今年1月にOpenAIへ移籍。移籍から数週間の間に、未発表製品・技術仕様・独自プロジェクトデータを含む数十件の機密ファイルをダウンロードしたと指摘されている。
さらに先月(6月)には、AppleのSmart GlassesおよびVision Pro部門を率いていたPaul MeadeもOpenAIに転職した。
Appleの訴状で際立つのは、OpenAIが退職予定の社員に対して「新しい雇用先を明かさないよう」「すぐに退職せず、2週間の通知期間中も機密データにアクセスし続けるよう」指示していたとする主張だ。組織的な情報収集の意図があったと示唆している。
皮肉な背景——かつての協力関係と方針転換
この訴訟には皮肉な文脈がある。2024年6月のWWDCで、AppleとOpenAIは緊密な協力関係を発表。ChatGPTがApple Intelligenceに統合された。しかしその後、パートナーシップの成果は芳しくなかったとされる。Appleは現在GoogleのGeminiとの連携を強化する方向に舵を切っており、OpenAIとの関係は実質的に後退しつつあるとみられている。そうした文脈の中で、かつての協力相手を連邦裁判所に訴えるという展開は、両社の関係が単なる競合を超えた局面に入ったことを示す。
OpenAIのハードウェアは2027年以降、訴訟の標的は未発売製品
訴訟の対象となっているOpenAIのハードウェア事業は、まだ製品を出せていない。当初の計画から遅延し、最初のデバイスの出荷は2027年2月以降とされている。
OpenAI社内では複数のフォームファクターが検討されており、カメラとマイクを搭載したペン型デバイス(コードネーム「Gumdrop」)、スマートヘッドセット、スクリーンレススピーカーが挙げられている。アナリストのMing-Chi Kuoによれば、最初の量産品はスマートフォン型になる可能性があり、MediaTek・Qualcomm・Luxshareと協力して2027年前半の量産を目指しているという。音声コマンドで操作するAIエージェントが制御する端末として想定されている。
Appleは今回の訴訟でOpenAIに対し、以下を求めている。
- 当該行為の即時停止
- すべての独自技術資料の廃棄
- Apple技術を含まない製品への再設計
- 陪審裁判の実施
詳細はApple sues OpenAI for allegedly running a "coordinated campaign" to steal trade secrets through poached employeesを参照していただきたい。