7月9日、Los Angeles Timesが「Starbucks bets on AI to replace Microsoft and IBM software」と題した記事を公開した。スターバックスがMicrosoftやIBMなどから購入しているソフトウェアをAI活用の内製ツールで置き換えようとしている取り組みについて、同社CTOの発言や内部資料をもとに詳しく報じている。
年間580億円のソフトウェア費用を内製で削減へ
スターバックスのCTO(最高技術責任者)Anand Varadarajanは社内フォーラムで、同社がソフトウェアだけで年間約4億ドル(約580億円)を支出していることを明かし、「ソフトウェア支出を削減する明確な機会がある」と述べた。
現在、具体的な内製化の対象として挙がっているのは以下の2つだ。
- Microsoftの在庫管理システムの代替ツール
- IBMのメンテナンス管理ツールの代替ツール
内部プレゼンテーションによれば、一部のスターバックス製ソフトウェアはテスト結果次第で来年末までにリリースされる可能性がある。IBMツールの代替開発には、AIアシスト型コーディングが重要な役割を果たしたという。AIアシスト型コーディングとは、GitHub CopilotやCursorなどに代表される、AIがコード補完・生成を支援する開発手法を指す。スターバックス規模の企業がこうしたツールを業務システムの置き換えに本格活用する事例は、業界内でも注目度が高い。
さらに同社は、レジシステム(POS)についても数年前から独自開発を進めており、現在採用しているOracleのSimphonyを置き換えることを目指しているという(事情を知る複数の関係者による情報)。
削減目標:今期30億円規模
内部資料によれば、スターバックスのエンタープライズ技術チームは2025年9月末までの今会計年度に約3,000万ドルの予算削減を目標としている。主な内訳は次のとおりだ。
- ソフトウェア支出の削減:約1,000万ドル
- 外部コンサルタントの削減と自社スタッフへの切り替えなど:約1,300万ドル
上記2項目の合計は約2,300万ドルであり、目標の3,000万ドルとの差分については元記事に詳細な記載がない。残り約700万ドル分の内訳は現時点では不明だ。
この取り組みは、スターバックスが進める20億ドルのコスト削減計画の一環だ。同社は昨年2月以降、テック部門を含む約2,300人を削減しており、ナッシュビルとインドにも新たなテックオフィスを設置している。
この報道を受けソフトウェア株が下落
この報道を受け、Microsoftの株価は時間外取引で約1.5%下落、IBMは約4%下落した。
背景にあるのは、業界全体に広がる懸念だ。AIによってアプリケーション開発のコストと難易度が大きく下がったことで、かつては技術ベンダーへの依存を余儀なくされていた企業が、自前でソフトウェアを構築できるようになりつつある。MicrosoftもIBMも、今年に入ってS&P 500の上昇率を下回っており、「大手ソフトウェア企業が自社顧客に市場を侵食される」というシナリオへの警戒感が株価に織り込まれてきている。
AIへの推進と、現実の失敗
スターバックスは社内でAI活用を強力に推進しており、テックワーカーのボーナス評価にAI利用状況を組み込んでいると報じられている。
一方で現実は単純ではない。同社は最近、店舗在庫を追跡するAIシステムを撤回し、手作業での在庫確認に戻したという経緯もある。大規模小売・飲食チェーンにおけるAI在庫管理の難しさは業界共通の課題でもあり、スターバックスだけの問題ではないが、内製化を進める同社にとっては慎重さを求められる実績だ。引き続きMicrosoftを含む外部ベンダーのソフトウェアも使用中であり、「AIがどれだけ迅速に業務を自動化できるか」については、社内外で懐疑的な見方も根強い。
内製化は短期的にはコスト削減になる一方、長期的には保守コストや人件費が膨らむリスクもある。大企業が既製ソフトウェアからの脱却を図る動きは今後も続くとみられるが、その成否はまだ見えていない。
詳細はStarbucks bets on AI to replace Microsoft and IBM softwareを参照していただきたい。