7月10日、Techstrong.aiが「NVIDIA, LangChain Introduce NemoClaw Blueprint to Support Enterprise AI Agents」と題した記事を公開した。NVIDIAとLangChainが共同でエンタープライズ向けAIエージェント構築・運用を支援するオープンブループリント「NemoClaw」を発表したもので、同等のタスク性能を維持しながら推論コストを競合比で約10分の1に抑えた点が注目を集めている。
推論コストを約10分の1に抑えた構成
NemoClaw for LangChain Deep Agentsは、以下の3コンポーネントを組み合わせたフレームワークだ。
- Nemotron 3 Ultra:NVIDIAが提供するオープンウェイトモデル。企業が特定ドメイン向けにカスタマイズ可能
- LangChain Deep Agents:計画・メモリ管理・ツール利用・長時間タスク実行のオーケストレーション機能を担う
- NVIDIA OpenShell Runtime:AIエージェントが企業システムやデータとやり取りする際のアクセス制御ポリシーを定義できるガバナンス環境
コスト面では具体的な数字が示されている。LangChainのDeep Agentsベンチマークにおいて、このチューニング済み構成は集計スコア0.86を達成しつつ、1回あたりの推論コストは4.48ドルだったという。同ベンチマークで次点のモデルのコストは43.48ドルとされており、同等のタスク性能を維持しながら推論コストを約10分の1に抑えた計算になる。
なお、Nemotron 3 Ultraは「オープンウェイト」モデルとして公開されている。「オープンウェイト」とはモデルの重みファイルが公開されていることを指し、ソースコード全体や学習データまで公開する「オープンソース」とは厳密には異なる。ライセンス条件や利用範囲の確認は導入前に行うべき点として押さえておきたい。
モデルの重みは変更しない設計
コスト削減の手法として特徴的なのは、LangChainがNemotron 3 Ultraそのものを再学習させていない点だ。代わりに、Deep Agentsベンチマークのパフォーマンスデータを分析した上で、システムプロンプト・ツールの説明文・ミドルウェア・実行トレースをチューニングした。開発者はモデルの重みを一切変更することなく、このハーネスプロファイルをそのまま採用できる。
「チューニング」という言葉はファインチューニング(重みの再学習)を連想させるが、ここで行われているのはあくまでプロンプトやオーケストレーション層の最適化であり、モデル本体の変更は伴わない。いわば「モデルの使い方を洗練させる」アプローチだ。
この設計がエンタープライズ現場で意義を持つのは、評価コストとの関係による。エンタープライズ現場ではプロンプト変更・ワークフロー変更・データセット変更のたびに評価を繰り返す必要がある。評価1回あたりのコストが下がれば、より大規模な評価スイートを回すことが現実的になり、特定業務向けにカスタマイズしたエージェントの運用コストも抑えられる。※この評価コストへの波及効果は元記事の主旨に基づく編集部の考察であり、元記事に明示されているわけではない。
ガバナンスとIP管理を企業の手に
両社がオープンアーキテクチャを採用した背景には、知的財産の帰属問題がある。エージェントのメモリ・ワークフロー定義・評価データセット・チューニングデータには、企業固有のビジネスデータが含まれる。クローズドな外部サービスに依存すれば、これらのデータや知見を自社でコントロールできなくなるリスクがある。NemoClawはこれらのコンポーネントを企業側の管理下に置くことで、特定ベンダーへのロックインを避ける設計だ。
NVIDIA OpenShell Runtimeはこのガバナンス機能の中核を担い、AIエージェントが「何にアクセスし、何ができるか」をポリシーで制御する役割を持つ。エージェントが企業の内部システムやデータと連携する局面では、アクセス範囲の明示的な定義とポリシー管理が不可欠であり、推論コスト削減と並ぶもう一つの訴求ポイントになっている。
NVIDIAのソフトウェアポートフォリオ拡張の一手
今回の発表は、NVIDIAがGPUベンダーとしての立場を超え、エンタープライズAI向けのソフトウェアスタック全体を提供するプロバイダーとしての位置づけを強化する動きの一環でもある。NVIDIAはここ数年でAIモデル・オーケストレーションソフト・推論プラットフォーム・デプロイツールを相次いで揃えてきており、NemoClawはその延長線上に位置する。
エコシステムの拡張も進んでおり、Abridge・Amdocs・BoxがNemoClaw対応のAIエージェントを自社プラットフォームに統合しているほか、EYが導入支援サービスを提供している。Nemotron 3 Ultraのホスティングアクセスは、Baseten・Crusoe Cloud・DeepInfra・Fireworks・Nebius・Together AIなどのクラウド推論プロバイダー経由で利用可能で、自前でインフラを管理せずにチューニング済みフレームワークを使える環境が整っている。
詳細はNVIDIA, LangChain Introduce NemoClaw Blueprint to Support Enterprise AI Agentsを参照していただきたい。