7月9日、NL Timesが「AI use at Dutch law firms reduces demand for routine legal services」と題した記事を公開した。法律AIプラットフォームLegoraが固定サブスクリプションを廃止し使用量課金へ移行したことを一つの象徴として、オランダの大手法律事務所においてAI活用が進み、ルーティン業務の需要が急速に減少している実態が浮かび上がっている。クライアントはコスト削減を期待し、事務所側はAIコスト上昇に苦しむ——その板挟みの構造を、オランダの主要経済紙Financieele Dagblad(FD)が大手6社への取材をもとに報じた。
AIが奪い始めた「標準的な法律業務」
オランダの企業が、基本的な法律業務をAIで処理するケースが増えている。Freshfields Bruckhaus Deringer、CMS、Houthoff、DLA Piper、NautaDutilh、Loyens & Loeffといった大手6社への調査をもとにFDが報じたもので、契約管理・標準的な文書レビュー・シンプルなコンプライアンス対応といった業務の依頼が減少しているという。
FreshfieldsのM&A弁護士でイノベーション担当のSaloua Ouchan氏は「影響が最も顕著なのは反復的な法律業務だ。契約管理、標準的な文書レビュー、シンプルなコンプライアンスがその典型だ」とFDに語った。
Loyens & Loeffも「クライアントは、どの法律業務を外部に委託し、何を自社で処理できるかを、これまで以上に意識的に判断するようになっている」と述べている。
この傾向は昨年末の時点でHouthoffが実施した67社への調査ですでに示されていた。回答企業の3分の2が、2〜3年以内にAIを活用した法律業務が増えると予想していたが、複数の大手事務所は「その想定が予想より早く現実になった」としている。
売上は下がっていない、ただし構造は変わりつつある
需要が減少しているにもかかわらず、今のところ各事務所の収益は落ちていない。2025年の業績では、複数の大手事務所が増収を記録した。Houthoffは売上が2024年の1億3,600万ユーロから2025年の1億5,200万ユーロに増加しており、同社はその要因を「単価の引き上げと、より複雑・高付加価値案件へのシフト」に帰している。
法律事務所各社は今後の役割を「専門的知見の提供・戦略的アドバイス・複雑な法的問題への対応」に集約させていく方向だ。Loyens & Loeffは、社内法務チームと外部弁護士の連携が引き続き重要になるとしている。
クライアントはコスト削減を期待、事務所側はAIコスト上昇に苦しむ
一方で、AIの普及はクライアント側のコスト期待にも影響を与えている。Houthoffの調査によれば、企業の3分の2が将来的に法律事務所への支出を減らせると期待している。「AIが一部の業務を速くこなせるなら、なぜ法律サービスは安くならないのか」という問いがクライアントから上がっている。
しかし皮肉なことに、事務所側も自社でのAI活用においてコスト上昇に直面している。法律AI向けサブスクリプションが、月額固定費から使用量ベースの課金モデルへ移行しつつあるためだ。
法律専門家向けAIプラットフォームの**Legora**(スウェーデン発のリーガルテックスタートアップで、欧州の法律事務所を中心に広く導入されている)は、最上位製品の固定サブスクリプションモデルを廃止し、使用量に応じてコストが増加する仕組みへの移行を発表している。
HVG LawのテクノロジーヘッドでIT弁護士のElgar Weijtmans氏はFDに対し「様々な法律事務所からパニック状態で電話がかかってくる。このコストをどうやって賄えばいいのかと」と語った。
「ルーティン業務の消滅」が示す構造変化
今回の動きは、AIによる法律業界の業務代替が「起きるかもしれない」という段階を超え、実際に進行中であることを大手事務所自身が認めた点で具体的だ。ただし短期的な収益への影響は限定的で、高付加価値業務へのシフトによって事務所は生き残っている。
問題は、AIコストの上昇とクライアントのコスト削減期待という二つのプレッシャーが同時に存在していることで、この両者の板挟みが今後どう解消されるかが焦点となる。
詳細はAI use at Dutch law firms reduces demand for routine legal servicesを参照していただきたい。