7月11日、Noema Magazineが「China's Open AI Models Are Advancing Its Global Soft Power」と題した記事を公開した。中国のオープンウェイトAIモデルが米国の閉鎖的なモデルに対してグローバルなソフトパワー競争で優位を築きつつある実態を、複数の専門家の証言を交えて詳しく論じている。
逆説:閉じた社会が、開かれたAIで世界に浸透する
記事の核心は一つの逆説だ。権威主義的な閉鎖社会である中国が、オープンソースAIモデルで世界市場を席巻しつつある一方、最も開かれた社会である米国は、高価でカスタマイズ困難なクローズドソースモデルを主力にしている。
この問題を提起するのは、Andrew Ng——Google Brainの共同創設者であり、中国の大手テック企業・BaiduのチーフサイエンティストをつとめたAI研究者だ。OpenAIのSam AltmanもAnthropicのDario Amodeiも、かつて彼の下で働いている。その人物が「中国の戦略は brilliant move(巧みな一手)だ」と言う。
Ngはこう説明する。
「オープンウェイトモデルとは、AIの学習で得られた数値(重み)をすべてインターネット上で無償公開するものだ。誰でもダウンロードして自分のラップトップで動かせる。OpenAI、Anthropic、Google Geminiのようなクローズドモデルは、その数値を誰にも見せない。プロンプトを送って応答をもらうだけだ。」
オープンウェイトモデル(open-weight model)とは、学習済みモデルのパラメータ(重み)を公開するもの。LlamaやDeepSeekがその代表例で、ローカル環境での実行やファインチューニングが可能な点がクローズドAPIとの本質的な違いだ。
アフリカで起きていること
Ngが具体的に言及したのがアフリカだ。アフリカ各国では、中国のDeepSeekをはじめとした中国製モデルが米国製モデルをはるかに上回る普及率で使われているという。
なぜか。理由は二つある。
第一は、ソフトパワーの問題だ。 「1989年の天安門広場で何が起きたか」とAIに問えば、どのモデルを使うかによって答えが変わる。モデルはその開発国の価値観を反映する。世界の人々がどの国のAIを使うかは、情報空間における影響力の問題に直結する。
第二は、サプライチェーンの問題だ。 AIは現代のソフトウェア開発における基盤インフラだ。世界の開発者が中国製モデルを基盤に製品を作るようになれば、技術の発展方向に対する米国の影響力が低下する。
ホワイトハウスの輸出規制が裏目に
この構造をさらに加速させた出来事として、記事はホワイトハウスによる特定の米国製AIモデルへの海外アクセス遮断措置(その後、審査を経て解除)を取り上げている。
※編集部の考察:記事中で言及されているモデル名の表記については、元記事の原文を直接確認されたい。
Ngはこれを「米国が輸出規制を発動してAI技術へのアクセスを突然遮断できることを、世界中に示してしまった」と批判する。その結果、多くの国が「一度入手すれば誰にも奪われない」オープンウェイトモデルの確保を急ぐようになっているという。
この懸念はNgだけではない。トランプ大統領の科学技術諮問委員会(PCAST)共同議長のDavid Sacksも最近、中国のオープンウェイトモデルが「現在公開されているOpenAIやAnthropicのモデルと同等の性能を持つ」水準に達したと警告している。記事が言及するモデルの開発元・正確な名称については元記事の原文を参照されたい。
「検閲」は中国だけの問題ではない
中国モデルの普及に対して「検閲による歪み」を懸念する声がある。記事はこの点についても踏み込んでいる。
台湾出身のコンピュータ科学者、Kai-Fu Leeはこう述べる。
「LLMはどこでも文化的・政治的価値観の刻印を持つ。中国は党批判を検閲するが、西側では人種やジェンダーに関する発言への文化的な検閲がある。イスラム圏では預言者への冒涜が規制される。それぞれが自分たちの感性に合わせてアルゴリズムの許容範囲を決める。」
この視点は重要だ。「検閲があるから中国モデルは使えない」という論理は、西側モデルへの信頼を自動的に正当化しない。
「核軍縮」に学ぶ透明性の原則
記事はAIガバナンスの国際的枠組みについても論じており、元Google CEOのEric Schmidtの見解を引用している。Schmidtはかつて同誌の取材に応じており、オープンソースAIの拡散リスクについてこう述べている。
「私がより懸念しているのはオープンソースの拡散だ。中国も同様の懸念を共有しているはずだ——自国政府に対して悪用されるリスクも含めて。オープンソースモデルは、安全化された後に悪意ある者が安全装置を外せないよう、RLHF(人間のフィードバックを用いた強化学習)で適切に調整する必要がある。」
この文脈を踏まえた上で、記事が提示するのが「ノーサプライズルール」だ。AIフロンティアで新たな学習を開始する場合、相手国に事前通知することを義務化するという考え方で、冷戦期の核軍備透明化プロセスに倣ったものだ。オープンウェイトモデルの拡散が進む今だからこそ、その開発プロセス自体に透明性の規範を設けることが急務だという文脈で提案されている。
記事は、米中AI競争が「収束点」に差し掛かりつつある今こそ、共通のガードレール設置に向けた合意形成の好機だと締めくくる。
詳細はChina's Open AI Models Are Advancing Its Global Soft Powerを参照していただきたい。