7月10日、CNBCが「Apple sues OpenAI alleging trade secret theft, says scheme was 'at every level'」と題した記事を公開した。AppleがかつてのパートナーであるOpenAIを営業秘密窃盗で提訴し、採用面接を通じてApple社員から機密情報を引き出すスパイ行為が「あらゆるレベルで」行われていたと主張している。
「あらゆるレベルで」営業秘密を盗んだとAppleが主張
Appleは北カリフォルニア連邦地裁にOpenAIを提訴した。訴状の中でAppleは以下のように述べている。
「技術スタッフのメンバーからチーフハードウェアオフィサーに至るまで、あらゆるレベルで、そしてビジネスパートナーと連携しながら、OpenAIはAppleの営業秘密と機密情報を盗んでいる」
訴訟の中心にいるのが、OpenAIのチーフハードウェアオフィサーであるTang Tanだ。TanはもともとAppleのバイスプレジデントとしてハードウェアエンジニアリング部門を担っていた人物で、2025年10月にOpenAIへ転じた。Appleの訴状によれば、TanはOpenAIの採用面接に来たApple在籍中の候補者に対し、「実際の部品(actual parts)」を持参させ、"show and tell"セッションを通じてAppleの機密情報を引き出すよう指示していたという。採用面接をスパイ活動の場として利用する構図だ。
さらにAppleは、OpenAIが退職予定のApple社員に対してセキュリティプロセスを回避する方法を指南していたと主張。元社員のChang Liuについては、OpenAIに移籍する際にAppleのノートパソコンを盗んだと名指ししている。TanとLiuはいずれも被告に名を連ねている。
訴状にはハードウェアメーカーに関する疑惑も含まれており、OpenAIがAppleの開発した金属表面処理技術(metal finishing technique)をパートナー企業に実施させ、「Appleから許可を得ている」と誤解させていたとも主張している。この技術はAppleのアルミ筐体など製品外装の品質を支える加工技術であり、製造ノウハウとしての機密性が高い。
2024年の蜜月から、なぜここまで対立が深まったのか
2社の関係を振り返ると、対立の背景が見えてくる。
2024年、AppleはiOSにChatGPTを統合すると発表し、Sam Altman自らAppleの本社を訪れた。当時は業界全体が注目する提携だった。
転機となったのは2025年だ。OpenAIが元Appleのデザイナー、Jony Ive(iPhoneやiMacをデザインした伝説的人物)が設立したハードウェアスタートアップ「IO Products」を64億ドル(約9,300億円)で買収し、コンシューマー向けAIハードウェア市場への参入を宣言した。Appleにとって、かつてのパートナーが直接の競合になるシナリオが現実味を帯びた瞬間だった。
関係悪化を裏付けるように、今秋リリース予定のSiriの新バージョンはChatGPTではなく、GoogleのGeminiモデルをベースに構築されることも明らかになっている。
IO ProductsもOpenAIとともに今回の訴訟の被告に含まれている。OpenAIはまだ具体的なハードウェア製品の発表をしていないが、Altmanは2025年11月に最初のプロトタイプが完成したと発言していた。
Appleが求めるもの
Appleは今回の訴訟において、以下の3点を求めている。
- 損害賠償
- 差し止め命令(injunction)
- OpenAIによる営業秘密の使用停止命令
なお、この訴訟がiOS上でのChatGPT統合(Apple Intelligence)に影響を与えるかについて、Appleはコメントを控えている。
パートナーシップの裏側で採用プロセスを通じた情報収集が行われていたとすれば、業界全体の転職・採用慣行にも波及しかねない問題だ。訴状が示す手口——面接時に現物部品の持参を求める、退職予定者にセキュリティ回避を指南するなど——は、エンジニアが転職活動を行う際に自らが知らぬ間に情報漏洩の当事者になるリスクを示している。在籍中の社員との接触を通じた情報収集は、企業法務上はもとより、関与した個人も被告に名を連ねうる点には注意が必要だ。また今回の訴状は元従業員の行動に焦点を当てており、企業間の知財保護と人材移動の境界線をめぐる今後の争いが注目される。
詳細はApple sues OpenAI alleging trade secret theft, says scheme was 'at every level'を参照していただきたい。