7月8日、CNBCが「Lawmakers probe growing use of Chinese AI models in U.S. companies」と題した記事を公開した。米国企業による中国製AIモデルの採用が静かに拡大するなか、米議会が本格的な調査に乗り出した。だが専門家からは「完全禁止は憲法上の問題にもなりうる」という声が上がっており、規制の実効性には早くも疑問符がついている。
議会調査の発端:CursorとAirbnbへの書簡
米下院の国土安全保障委員会と中国特別委員会は今年4月、中国製AIモデルの採用拡大を共同調査すると発表した。その最初の動きとして、両委員会の委員長はAIコーディングツールのCursorと宿泊プラットフォームのAirbnbに対し、中国製AIを通じた「リスクへの関与」について書簡を送った。
Cursorは、中国のMoonshot AIが開発したKimiというモデルを用いて自社の「Composer 2」モデルを構築していた。本調査についてはコメントを拒否している。
Airbnbは「AIの処理は圧倒的に米国製モデルで動いている」と説明しつつ、「限定的な数の中国製オープンウェイトモデルを使用しており、すべて米国内の承認済みサービスプロバイダ経由で運用し、データと業務を分離・保護している」と回答した。
なぜ中国製モデルが広がっているのか
背景にあるのはコストだ。中国製モデルは米国製の競合に対してパフォーマンスの差を縮めながら、利用コストが安い。CoinbaseのCEO Brian ArmstrongやAIスタートアップLindyのFlo Crivelloら著名な経営者が、コスト削減を目的に中国製モデルの活用を公言している。
この流れを決定的に加速させたのが、2025年初頭のDeepSeekショックだ。中国のDeepSeek社が公開したDeepSeek-R1は、OpenAIのo1に匹敵する推論性能を持ちながら、開発コストが桁違いに低いとされ、世界中のAI開発者の注目を集めた。以降、中国製の高性能モデルが次々と登場し、米企業によるコスト目的での採用が広がっている。
一方で、国土安全保障委員会委員長のAndrew Garbarinoは「中国のオープンウェイトモデルが、脆弱性発見やサイバーセキュリティタスクで米国製トップモデルに匹敵するという報告は非常に憂慮すべき事態だ」と述べた。
なお、DeepSeekをはじめとする中国製AIモデルはすでに一部の政府機関で使用禁止となっているが、民間企業による使用は現時点で禁止されていない。
「オープンウェイト」という壁:規制が難しい理由
調査は「採用拡大の実態把握」にとどまらず、「米国がこの流れを十分に抑制できているか」の検証にも及んでいる。
ここで重要な概念が「オープンウェイトモデル」だ。これは学習済みモデルの重みパラメータ(モデルの「頭脳」にあたる数値データ)をインターネット上で無償公開したモデルを指す。「オープンソース」がソースコードの公開を意味するのとは厳密には異なるが、いずれも誰でも自由にダウンロード・改変・再利用できる点で共通している。DeepSeekのモデルはこの形式で公開されており、一度インターネットに出回った重みデータを回収・制限することは技術的にきわめて難しい。
ブルッキングス研究所のKyle Chan氏は、政府調達における禁止措置が選択肢として考えられると指摘する。しかし同氏はこう付け加えた。「中国のオープンウェイトAIモデルを完全に禁止することは事実上不可能だ。モデルの重みはインターネット上で無料で公開されているからで、修正第1条(言論の自由)の問題にも発展しうる」。
安全保障系シンクタンクCNAS(Center for a New American Security)のDaniel Remler氏も、規制の難しさを認める。「トランプ政権はリスクを明らかに懸念しているが、中国製モデルへの規制強化は、それを使うスタートアップを傷つけたり、オープンモデル全般への支持を冷やしたりするリスクがある」と述べた。
現実的なアプローチとして挙がっているのは以下の2点だ:
- 政府との取引を望む企業に対し、中国製AIモデルの不使用を条件とする調達要件の導入
- 中国製モデルに関連するリスクや脆弱性の知見を、民間企業に広く共有する情報提供施策
米中両国の思惑
米国務省のスポークスパーソンはCNBCに対し、「中国製AIモデルは北京のナラティブを推進し、反体制的意見を検閲し、中国共産党のイデオロギーを反映するよう設計されている」と述べた。
一方、中国側(在英中国大使館)は「根拠のない言いがかりと悪意ある中傷に反対する」と反発し、「中国のAI産業は自立と科学技術の実力によって築かれている」と主張した。
また、トランプ政権は4月に中国が米国のAIシステムを大規模に模倣していると非難。Reutersの報道によれば、北京側も中国の主要AIモデルへの海外からのアクセス制限を検討しているという。
Cybersecurity and Infrastructure Protection小委員会委員長のAndy Ogles氏は「安価で使いやすい選択肢が中国製である限り、世界中がその上に構築してしまう。中国モデルがグローバルデジタル経済の基盤になれば、検閲や安全性の不確実性、そして我々の研究所から蒸留されたにもかかわらずセーフガードが取り除かれた能力を世界に埋め込むことになる」と警告した。
詳細はLawmakers probe growing use of Chinese AI models in U.S. companiesを参照していただきたい。