7月8日、Digit.inが「Tencent's Hy3 is free, open and almost as good as GPT-5.5: USA should be worried」と題した記事を公開した。Tencentが4月にプレビュー版を公開してからわずか74日で、オープンソースAIモデル「Hy3」は一部ベンチマークでGPT-5.5を超えるスコアを記録した。完全無償・Apache 2.0ライセンスでの公開という条件も相まって、「フロンティアAIは有料APIか高額サブスクリプション経由でしか使えない」という前提を揺るがす出来事として注目されている。
GPT-5.5に並ぶ性能を、無料・オープンソースで
7月6日、TencentはHunyuan 3.0モデルの製品版「Hy3」を公開した。パラメータ数は2950億(アクティブパラメータは210億)で、Apache 2.0ライセンスのもと完全にオープンソース化されている。ダウンロード、実行、ファインチューニング、製品への組み込みがすべて無償で行える。
Hy3はMixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャを採用している。MoEとは、入力ごとに全パラメータを使うのではなく、一部の「エキスパート」モジュールだけを選択的に活性化する設計手法で、計算コストを抑えながら大規模モデルに匹敵する性能を引き出せる。総パラメータ2950億に対してアクティブパラメータが210億にとどまるのはこの仕組みによるものだ。DeepSeekが2024年末に同様のアプローチで注目を集めたことは記憶に新しい。
Hy3が属するHunyuanシリーズはTencentが継続的に開発してきたLLMファミリーで、テキスト・画像・動画など複数のモダリティをカバーする製品群に展開されている。今回の製品版Hy3はその最新世代にあたる。
ベンチマーク数値が際立っている。
⚠️ 注記: 以下の数値はTencent自身による評価であり、独立した第三者機関による検証は記事執筆時点では完了していない。また、比較対象のモデル名については後述の「留保」セクションも参照のこと。
| ベンチマーク | Hy3 | GPT-5.5 |
|---|---|---|
| GPQA Diamond(STEM推論) | 90.4 | 93.6 |
| BrowseComp(検索エージェント) | 84.2 | 84.2(同点) |
| FrontierScience-Olympiad(科学研究) | Hy3が上回る※ | — |
| SWE-Bench Verified(コーディング) | 78.0 | — |
| SWE-Bench Pro(コーディング) | 57.9 | — |
※ FrontierScience-OlympiadにおけるHy3の具体的スコアは元記事に数値の明示がなく、「上回る」という記述にとどまっている。独立した検証が出揃った段階での数値確認が望ましい。
GPQAこそわずかに届かないが、検索能力では同点、科学研究ではGPT-5.5を超えているとされる。
「74日間」で起きたこと
Hy3のプレビュー版が公開されたのは2025年4月。そこからわずか74日で、ポストトレーニングデータの改善と強化学習の計算リソース投入により、モデルは大幅に性能を向上させ、一部のベンチマークでGPT-5.5を超えた。
この速度は、米国の輸出規制が「フロンティアAIの開発を遅らせる」という前提に疑問を投げかけるものだ。Hy3のアプローチはDeepSeekが証明したコンセプトと同じで、「最大のパラメータ数ではなく、最も効率的な設計で勝負する」というものだ。アクティブパラメータ数が3〜5倍多いモデルと対等以上に渡り合えるとすれば、ハードウェアアクセスの制限が競争力の決定的なボトルネックにはなりにくいことを示唆している。
すでに10億人超が使っている
Hy3はすでにTencentの主要製品群——WorkBuddy、Yuanbao、WeChat、QQ Browser——に展開済みで、10億人以上のユーザーが利用している。4月のベータ公開以来、トークンの1日あたり消費量は20倍に増加した。
具体的な数字も示されている。WeChat公式アカウントのAIアバターにおける意図認識精度は98.94%、QQ BrowserではAIによるプログラミングタスクの完了率が37.6%向上した。
ただし、数字には留保が必要
技術的な性能評価に際していくつかの留保点がある。
第一に、Tencentが比較対象として選んだのはDeepSeek-V3とGLM-4.5であり、より新しいとされるDeepSeek-V4やGLM-5.2との比較ではない。なお、DeepSeek-V4・GLM-5.2という名称は記事執筆時点(2026年7月)の元記事に登場するモデル名をそのまま引用したものであり、これらが記事執筆時点における最新版を指しているかどうかは独立した確認が必要だ。
第二に、前述のとおり第三者による独立した検証はまだ済んでいない。「中国のラボは自社に有利なベンチマークを選ぶ傾向がある」と元記事自身が率直に指摘している点は見逃せない。GPT-5.5超えの主張は、あくまでTencent自身による評価として受け取るべきだ。
これらの留保を踏まえたうえで、それでもHy3が示す方向性には技術的な意味がある。
オープン化の戦略的インパクト
米国の輸出規制の前提は「フロンティア計算資源へのアクセスを制限すれば、フロンティアAIも制限できる」というものだった。MoEによる効率的設計と今回のような急速な性能改善のサイクルは、その前提が当初想定されたほど堅固ではない可能性を示している。
GPT-5.5、Gemini、Claudeはいずれもクローズドで、APIや有料サブスクリプション経由でしか利用できない。一方Hy3は今日から無料でダウンロードできる。世界中の開発者、スタートアップ、政府機関が、米国企業のサーバーや利用規約に依存せず使える、法的にクリアな高性能AIを手に入れたことになる。
※編集部の考察:このオープン化の動きは、単なる技術競争を超えて「どの国・企業の標準に乗るか」という選択肢を世界の開発者に提供する地政学的な含意を持つ。ただし、その影響の実質的な大きさは、独立した性能検証と実用事例の蓄積を待って判断するのが適切だ。
詳細はTencent's Hy3 is free, open and almost as good as GPT-5.5: USA should be worriedを参照していただきたい。