7月7日、CNBCが「Chinese AI models are gaining ground with U.S. companies as OpenAI, Anthropic costs surge」と題した記事を公開した。OpenAIやAnthropicのコスト高騰を背景に、米国企業が中国製AIモデルへの移行を加速させているという実態を報じたものだ。価格差は最大90%、性能差も急速に縮まりつつあるという状況は、AI調達の意思決定に根本的な変化をもたらしつつある。
コスト差が意思決定を動かしている
記事の核心は単純だ。中国製のオープンソース・オープンウェイトモデルは、AnthropicやOpenAIの主力モデルと比較して60〜90%安い。この価格差が、米企業のモデル選定の判断軸を変えつつある。
OpenRouterのデータアナリティクス担当Justin Summerville氏によると、OpenRouter経由で米国企業が中国製AIモデルに使用するトークンの割合は、2月8日以降、毎週30%以上を維持しており、最高で46%に達した。直近12ヶ月の平均はわずか11%、2025年前半は4.5%だったことを踏まえると、急激な変化だ。
Brookings研究所のKyle Chan氏はCNBCにこう語っている。「以前は採用するモデルを問わずAI導入を優先していたが、今はコスト意識が高まっている」。
実際に移行した企業の声
AIスタートアップのLindyは、6月にAnthropicのClaudeモデルからDeepSeekへトラフィックを100%移行した。CEOのFlo Crivello氏はCNBCに「コスト曲線が地面に叩き落とされるように下がった」と表現し、数ヶ月以内に数百万ドルの節約になると述べた。さらに元記事が「DeepSeek V4」と記載する最新モデルへの切り替えは、多くのコアユースケースでパフォーマンスも向上したという(※なおDeepSeekの公式バージョン体系としては「V3」「R1」等が広く知られており、「V4」という表記は元記事の記載をそのまま引用したものである)。
Vercel(開発者向けアプリ・サイトのデプロイ基盤)では、Z.ai(Zhipu AI)の「GLM 5.2」が6月のリリース後、2026年にVercelが追跡したモデルの中で最速の採用スピードを記録した。「初週のフル稼働で、日次トークン量が約27倍、利用顧客数が約80倍に成長した」とVercelのHarpreet Arora氏は語る。
「タスクに最高のモデルが不要な場合、チームは十分に機能する最安モデルにルーティングし始めている」とArora氏は指摘する。
性能差は「6〜9ヶ月」に縮小
コストだけでなく、性能面でも差が縮まっている。Chan氏はトップの米国モデルとの差を現在「6〜9ヶ月」と推定する。
GLM 5.2は、注目されているエージェント型ベンチマークでAnthropicの「Opus 4.8」と1ポイント差以内のスコアを記録し、価格は約5分の1だ(※「Opus 4.8」という型番表記はAnthropicの既存の命名規則とは異なる形式であり、元記事の記載をそのまま引用している)。一部の研究者はサイバーセキュリティ関連のベンチマークにおいてGLM 5.2がトップ米国ラボと同等の性能を示すとも述べている。
Summerville氏も「最も複雑なLLMタスクを除けば、新しいオープンソースモデルはほぼすべてのケースで十分な能力を発揮している」と評価する。
規制業界向けAIエージェントプラットフォーム「LaunchLemonade」では、ClaudeとChatGPTが依然として利用量トップを占めるものの、GLM 5.2は上位5モデルに入った。CEOのCien Solon氏は「成熟したAI戦略を持つ企業は、技術的・商業的に合理性がある場面では中国製モデルを積極的に採用している」と述べる。
政策との緊張
この動きは、米国政府の規制強化の動きと真っ向から衝突する構図でもある。
CNBCの別報道によると、OpenAIは6月末、政府の要請を受けて新モデル群のロールアウトを一部制限したとされる。AnthropicのMythosおよびFableモデルへの輸出規制はトランプ政権との緊張状態を経て6月に解除されたばかりだという。元記事はこれらの経緯を踏まえ、米国のAI政策が産業界の調達行動に与える影響を問題提起している。
Hugging FaceのML責任者Yacine Jernite氏は、この構造的なリスクをこう表現した。
「ユーザーが、価格と可用性が急変しうる高性能な米国プロプライエタリモデルか、コストを抑えてAIスタックをコントロールしたい場合に唯一の現実的な選択肢となる中国製モデルか、どちらかしか選べない状況に追い込まれるリスクが現実にある」
中国勢が存在感を高める「オープンウェイト」モデル
本記事で頻出する「オープンウェイトモデル」とは、モデルの重みパラメータが公開されているものを指す。完全なオープンソースとは異なる場合があるが、ローカル実行やファインチューニングが可能な点でエンジニアにとって扱いやすい。DeepSeekや Z.ai(Zhipu AI)、Alibaba傘下のQwenといった中国勢が、このカテゴリで急速に存在感を高めている。米国企業の調達行動の変化は、こうしたモデルの実用レベルへの到達と切り離せない。
詳細はChinese AI models are gaining ground with U.S. companies as OpenAI, Anthropic costs surgeを参照していただきたい。