7月7日、Maximilian Schreinerが「Chinese AI models regularly pass 30 percent on OpenRouter as cost gap widens」と題した記事を公開した。中国製AIモデルがOpenRouter上で急速にシェアを拡大しており、そのコスト優位性が米国企業の調達判断を変えつつある状況について詳しく報告している。
「60〜90%安い」が引き金に——OpenRouterで中国モデルが30%超
AIモデルの調達コストが意思決定の中心になりつつある。複数のLLMプロバイダーのAPIを一元的に束ねるルーティングプラットフォーム「OpenRouter」(2023年創業、数千のモデルとプロバイダーに対応)のデータによれば、2025年2月8日以降、中国製AIモデルが毎週トラフィック全体の30%超を占めるようになった。ピーク時には**46%に達したケースもある。2024年の同プラットフォームにおける中国モデルの平均シェアはわずか11%**だったことを踏まえると、1年足らずでの急変だ。
OpenRouterの社員Justin Summerville氏によれば、DeepSeekやZ.ai(中国発のオープンソースLLMプロバイダー)といった中国オープンソースモデルのトークン単価は、OpenAIやAnthropicと比較して60〜90%安いという。
スタートアップはすでに動いた
コスト差が実際の移行を促した事例として、AIオートメーションスタートアップ「Lindy」が挙げられている。同社はAnthropicのClaudeからDeepSeekへトラフィック全量を切り替えた。CEO Flo Crivello氏はこの切り替えにより「数百万ドルの節約が見込まれる」と述べており、実績としての確定額ではなく見込み試算として語っている点には留意が必要だ。
大手SaaSやエンタープライズ企業に比べ、スタートアップは調達先の切り替えが速い。コスト感度が高く、ベンダーロックインへの抵抗も少ないスタートアップが先行移行し、その実績が積み上がることで、より大規模な企業でも同様の動きが広がるかどうかが今後の注目点となる。
性能差は「6〜9か月」——実用水準には達している
では中国モデルは性能的にどこまで追いついているのか。ブルッキングス研究所のKyle Chan氏は、中国モデルと米国トップモデルの差を「6〜9か月」と見積もっている。
この評価と整合するのが、米国標準技術研究所(NIST)傘下のCenter for AI Standards and Innovation(CAISI)が2025年5月に公開した報告書だ。同報告書はサイバーセキュリティ・ソフトウェア開発・数学・科学・抽象的推論の各領域を評価し、中国AIモデルは米国トップモデルに対して約8か月分の遅れがあると結論づけた。
裏を返せば、「先端ではないが実用には十分」という位置づけが、コスト重視の選択を後押ししている構図だ。バッチ処理や社内ツール、プロトタイピングといったワークロードでは最先端性能を必須としないケースも多く、そこに中国モデルが入り込む余地が生まれている。
コスト優位が変える調達の論理
今回のトレンドが示しているのは、単なる「安価な代替品への乗り換え」ではなく、LLM調達における価格競争の本格化だ。OpenRouterのようなマルチプロバイダープラットフォームが普及したことで、モデルの切り替えコストは技術的に大幅に下がっており、価格差が意思決定に直結しやすい環境が整っている。
一方で、中国製モデルの採用にはリスク面も存在する。データのルーティング先やモデルの学習データに関するセキュリティ懸念、および米中間の輸出規制・コンプライアンス要件が企業によっては障壁となりうる。特にエンタープライズ向けや規制業種での採用においては、コスト試算と並行してリスク評価が求められる局面もあるだろう。
シェアの数字だけを見れば、2月以降30%超が「常態化」しているという事実は、一時的なブームではなく構造的なシフトの始まりである可能性を示唆している。OpenRouterのトラフィックデータは、LLM市場における競争軸がベンチマーク性能からコストパフォーマンスへと移行しつつあることの、一つの証左といえる。
詳細はChinese AI models regularly pass 30 percent on OpenRouter as cost gap widensを参照していただきたい。