7月8日、The Decoderが「China eyes export curbs on its top AI models, and Europe is caught in the middle」と題した記事を公開した。中国が自国の先端AIモデルへの海外アクセスを制限する方向で検討を進めており、その影響がとりわけ欧州のAI調達戦略に及ぶ可能性について詳しく紹介されている。
中国がAIモデルの輸出規制を検討
Reutersの報道によると、中国の商務部は先月、Alibaba・ByteDance・スタートアップのZ.ai(Zhipu AIが運営するプラットフォーム)といった主要テック企業を集め、自国の先端AIモデルへの海外アクセスを制限する可能性について協議した。対象は公開済みモデルだけでなく、未リリースのモデルも含まれる。
検討されている規制の骨格は段階的な管理体制だ。基本的なオープンソースツールは登録のみで利用可能とし、高度な技術には安全審査を課し、最も機密性の高いフロンティアモデルは国内限定または非公開とする——という三層構造が専門家パネルで提案されている(その概要は最高人民法院の関連誌に掲載された)。また、AI技術の窃取や移転を中国の国家安全保障法の適用対象に含めることや、国内AIスタートアップへの出資規制も議論されているという。
具体的な規制範囲はまだ検討中で、将来モデルにのみ適用される可能性もあり、発効の時期・有無は未定だ。
米国が先に前例を作った
この動きは、米国がすでに取った措置を中国が鏡のように追う構図でもある。トランプ政権は今年6月、Anthropicの最先端モデル「Fable」と「Mythos」への外国人アクセスを禁じた。国籍をリアルタイムで確認する手段がなかったため、Anthropicは一時的に両モデルを世界全体で停止する事態となった。Fableはその後、新たな安全策の導入を経て世界向けに復活したが、サイバーセキュリティ専門家向けに設計されたMythosは現在も一部の信頼された米国組織とパートナーのみに限定されている。
中国当局はMythosが中国のシステムの脆弱性を突くために使われることを懸念しており、セキュリティ企業360の創業者・周鴻禕氏は中国版Mythosの開発を呼びかけている。
「安価な中国モデル」という代替手段が消える
欧州にとって、この動きは他人事ではない。
DeepSeekのR1登場以降、Alibaba製のQwenやZhipu AIのZ.aiプラットフォームが提供するGLM-5.2など、中国モデルはコストの低さと性能向上を武器に世界規模で普及してきた。欧州の多くの企業・開発者にとって、これらは高価な米国サービスへの「主権的な代替手段」と見なされてきた。
しかし、中国が最も高度なモデルを国内限定にする方針を打ち出せば、その代替手段は失われる。米中両国がそれぞれ自国の最先端AIを戦略資産として囲い込む構造が確立されつつあり、欧州はその狭間に置かれている。
欧州独自の競争力ある選択肢は、フランスのMistralを除いてほぼ存在しない。元ECB総裁マリオ・ドラギによる欧州競争力報告書は、EUがデジタル製品・サービス・インフラの80%超を外国プロバイダーに依存している実態を指摘している。
欧州が抱える「二重の流出」
問題は外部依存だけではない。欧州は「ブレインドレイン(頭脳流出)」という古くからの課題を抱えている。DeepMindやARM、さらに2024年にAMDが6億6500万ドルで買収したフィンランドのSilo AIなど、有望な欧州企業は繰り返し外資に買われてきた。欧州投資銀行のデータによると、EUにおける大型資金調達の5件中4件以上で外国投資家がリードを取っている(サンフランシスコでは14%)。
さらにAIはもう一つの流出経路を開きつつある。Mercorのようなプラットフォームが専門家とAIラボをつなぎ、欧州の専門家の知識が高品質なトレーニングデータとして外国モデルに吸収される。製造業のオフショアリングになぞらえれば、今度は知的資本が外国のAIモデルへ流出している構図だ。
欧州の反撃——ただし規模の差は歴然
欧州も動いてはいる。欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は2025年初頭にInvestAIイニシアチブを発表し、AI向けに約2000億ユーロの動員を目標に掲げた。そのうち200億ユーロはフロンティアモデルの学習を可能にする「AIギガファクトリー」最大5か所に充てられる予定だが、正式入札は2026年夏にずれ込み、初期施設の建設開始は2027年の見込みだ。
この規模感を米国と比べると差は明らかだ。Amazon・Alphabet・Microsoft・MetaのUS大手4社が2026年単年で投じるAI投資の合計は推定7000億ドルとされており、欧州の多年度計画の総額の約3倍に相当する。
先端AIモデルをめぐる米中の管理強化は、技術の調達戦略を根本から問い直させる出来事だ。「オープンで安価な中国モデル」という前提が崩れるとすれば、欧州の企業や開発者は選択肢を早急に再点検する必要がある。
詳細はChina eyes export curbs on its top AI models, and Europe is caught in the middleを参照していただきたい。