7月6日、CNBCが「Nvidia's next-gen AI rack system delayed to 2028 on manufacturing snags, SemiAnalysis says」と題した記事を公開した。Nvidiaの次世代AIラックシステム「Kyber」が製造上の問題で2028年まで延期される見通しとなり、その空白期間にAMDとGoogleが主要AIラボからシェアを奪いつつあるという。ハイエンドAIインフラ市場の勢力図が揺れ始めている。
AMDとGoogleに生まれた「技術的な隙間」
調査会社SemiAnalysisの分析によると、Kyberの量産開始は当初予定から12ヶ月以上遅れ、2028年にずれ込む見通しだ。この遅延がもたらす最大の影響は、競合他社への市場機会の流出にある。
SemiAnalysisは、AMDとGoogle(自社開発TPUチップ)がすでにトップAIラボからビジネスを獲得しつつあると指摘する。NvidiaがKyberで提供するはずだったハイエンド性能に空白が生じることで、両社にとって「技術的な隙間」が広がり得るという見立てだ。AMDは次世代GPU「Instinct MI350」シリーズを擁し、GoogleはTPU v5シリーズを軸に自社クラウドおよび外販向けの展開を加速させている。Nvidiaが年次リリースサイクルの一角を欠いた格好となる今、この競合動向は無視できない。
「Kyber」とは何か
そもそもKyberとは何か。Kyberは、Nvidiaが2027年に投入予定だった次世代チップ「Rubin Ultra」向けに設計されたラックスケール・アーキテクチャだ。1つのサーバーキャビネットにNvidiaの最高性能チップを144基搭載し、それらを1台の巨大なコンピュータとして協調動作させる設計で、AIモデルのトレーニングや推論に必要な大規模な演算能力を提供する。
ここで言う「Rubin Ultra」は、Nvidiaのロードマップ上で現行の「Blackwell」アーキテクチャの次世代にあたる「Rubin」世代のハイエンド版に相当する。Rubinが標準グレード、Rubin Ultraがその上位に位置するフラッグシップという関係だ。Kyberはこのうち最上位のRubin Ultraを前提としたラック設計であり、Nvidiaの年次リリースサイクルにおける2027年の目玉製品として位置付けられていた。
GPUを水平ではなく垂直方向に配置したコンピュートトレイに実装することで実装密度を高めレイテンシを削減する構造が特徴で、前世代システムと比べて飛躍的なスケールアップを目指した設計となっている。
延期の原因:PCBミッドプレーンの製造困難
延期の核心にあるのは、PCBミッドプレーンの製造難易度だ。SemiAnalysisは「Kyber NVL144ラックアーキテクチャは、PCBミッドプレーンの製造可能性の観点から依然として課題が多く、2028年に延期された」と述べている。
PCBミッドプレーンとは、サーバーシャーシ内部でコンピュートトレイや電源モジュールなど複数のコンポーネントを相互接続する役割を担う多層構造の特殊基板だ。通常のプリント基板と異なり、高密度・高速伝送・大電流供給を同時に満たす必要があり、層数が増えるほど製造歩留まりの確保が難しくなる。Kyberのような144基規模のGPUを単一システムとして動作させるには、このミッドプレーンが極めて精密な設計・製造精度を求められるため、量産段階でボトルネックとなった。
さらに、8台のラックを光接続でつなぐより大規模なシステム「NVL576」についても、延期または少量出荷にとどまる可能性が高いとSemiAnalysisは指摘している。
代替策も頓挫
製造遅延への対策として、現行世代の2ラックを連結して同等の処理能力を確保するバックアッププランが検討されていた。しかしこちらも撤回された。クラウドサービスプロバイダー(CSP)やハイパースケーラーから「設計が不格好で運用負担が大きい」として強い反発を受けたためだとSemiAnalysisは説明している。
その結果、SemiAnalysisは「Rubin Ultraのスケールアップ規模を拡大するための実証済みのソリューションがNvidiaには存在しない」と断じている。代替案まで潰れた格好であり、ハイエンド向けの供給空白が現実味を帯びてきた。
足元の業績への影響は限定的
一方で足元のビジネスは堅調だ。現行世代のRubinシステムは量産体制に入っており、AWS、Microsoft Azure、Google Cloudを含む8社のクラウドパートナーに今秋から出荷が始まる。SemiAnalysisはまた、Nvidiaのデータセンター向けコンピュート収益が2027会計年度下半期においてウォール街のコンセンサス予想を20%上回ると予測しており、短期的な業績への影響は限定的との見方も示している。
CNBCの取材に対し、Nvidiaはコメントを返していない。この報道を受けてNvidiaの株価はほぼ横ばいで、取材時点で前日比0.1%未満の下落にとどまっていた。市場はKyber遅延を織り込み済みとみているのか、あるいは現行Rubinへの需要の根強さが支えているのか、しばらく注視が必要だ。
詳細はNvidia's next-gen AI rack system delayed to 2028 on manufacturing snags, SemiAnalysis saysを参照していただきたい。