7月7日、PYMNTSが「US Treasury Report Warns AI Bubble Could Trigger Economic Shockwaves」と題した記事を公開した。米財務省のアナリストが作成した草案報告書が調査報道メディアNOTUSによって入手・報道されたもので、AIバブルが崩壊した場合には株式市場・プライベートクレジット市場・データセンター建設を資金調達している企業・クラウドプロバイダー・半導体メーカー・電力会社にまで連鎖的なショックが波及すると警告している。その衝撃的な内容を以下に紹介する。
ドットコムバブルの再来か——財務省アナリストが警告
この草案報告書を作成したのは、米財務省のキャリアアナリスト(政治任用ではなく専門職として採用された職員)たちだ。NOTUSがその内容を入手し報道したことで広く知られることとなった。
報告書の核心にあるのは、「AI企業は25年前のドットコム企業よりも米国経済の深部に組み込まれている」という判断だ。インターネット黎明期の投機的なドットコム企業は、崩壊しても電力網や金融インフラへの影響は限定的だった。しかし現在のAI産業は、データセンターの大規模建設を通じて電力会社に依存し、プライベートクレジット市場(私募形式で機関投資家から資金を調達する非公開の貸付・信用市場)を通じた資金調達で半導体・クラウドインフラ産業とも深く結びついている。アナリストたちはこの構造的な組み込まれ方こそが、崩壊時の影響範囲を当時よりもはるかに広いものにすると指摘している。
ドットコムとの類似点と相違点
報告書はいくつかの共通構造を指摘している。
- データセンターなどインフラ投資への資金が枯渇するリスク
- 持続的な成長期待が達成されなかった場合の投資家心理の悪化
- 少数の企業への産業集中と、プライベート市場ファイナンスへの過度な依存
- サプライチェーン問題、地政学的緊張、電力ボトルネックなどによる成長阻害要因
一方で違いもある。現在の主要AI企業の多くは、1990年代後半の投機的なドットコム企業と比べてより成熟しており、収益性が高く、財務基盤も強固だと報告書は認めている。
ただし報告書の結論は厳しい。元記事(PYMNTS)が引用するかたちで紹介している論点として、金融システムの多くが、AIが約束した生産性向上と収益化を実際に達成することに賭けた状態になっているという指摘がある。これはドットコムバブル崩壊時に「業績のない企業への夢が弾けた」のとは異なり、すでに現実の資金フローと金融インフラに深く組み込まれたリスクであるという点で、深刻度が増している。
個人投資家より機関投資家への打撃が大きい
注目すべき構造的リスクがある。ドットコムバブルに比べ、AI分野を支持する個人(リテール)投資家の割合が少ないという点だ。
一見すると、これは「一般市民が直接巻き込まれにくい」という意味で安全に見えるかもしれない。しかし実態はその逆だ。AI投資の主体は年金基金・保険会社・大手金融機関といった機関投資家であり、こうした主体が大きな損失を被れば、その影響は間接的に広範な一般市民の資産形成や信用供与にも波及しうる。さらにプライベートクレジット市場(非公開の私募貸付市場)は、ドットコムバブル時代にはほぼ存在感がなかった市場だ。現在はAI関連インフラへの資金調達に深く関与しており、この市場の急拡大と高集中度こそが、今回のリスクのユニークな側面として報告書が特に警戒する点となっている。
報告書の位置づけと当局の反応
この文書は、財務長官スコット・ベッセント、FRB議長ケビン・ウォーシュ(元記事に記載された肩書きであり、本稿公開時点での在職状況は元記事の記載に依拠する)および連邦金融規制当局向けに作成されたもので、現時点では一般公開前の最終承認待ちの状態だ。財務省のスポークスパーソンは「内容は精査されておらず、省の政策や見解を代表するものではない」とNOTUSに対してコメントしている。
AIの過大評価に対する懸念はこの報告書だけに限らない。イングランド銀行(Bank of England)や国際通貨基金(IMF)、そしてウォール街の複数の著名人もすでに警鐘を鳴らしている。さらに5月にFRBが公表したサーベイでは、金融市場参加者がAI関連株の評価額と、借入で賄われたデータセンター投資を金融システム全体を不安定化させるリスクとして挙げる割合が増加していることが示された。これらの懸念が相次ぐなかで今回の草案報告書が流出したことは、当局内部でもAIバブルへの警戒感が着実に高まっていることを示す一つのシグナルといえる。
詳細はUS Treasury Report Warns AI Bubble Could Trigger Economic Shockwavesを参照していただきたい。