7月4日、theguptalog.blogspot.comが「Godot bans AI-generated code contributions」と題した記事を公開した。オープンソースゲームエンジン「Godot」の開発チームが、AI生成コードによるコントリビューションを原則禁止する新方針を発表したことを伝える内容だ。
Godotは、MITライセンスで公開されているオープンソースの2D/3Dゲームエンジンで、UnityやUnreal Engineの代替として個人開発者やインディースタジオを中心に広く使われている。そのGodotチームが7月、コントリビューションポリシーを改定し、AIが生成したコードを含むプルリクエストを原則禁止すると発表した。違反した場合はGitHubリポジトリからのバンが継続・拡張される。チームの声明は率直だ。
「AIは責任を負えない。そして、AIを多用するコントリビューターが自分のコードを十分に理解して修正できるとは信頼できない」
何が問題だったのか
引き金となったのは、急増する粗雑なプルリクエストだ。いわゆる「バイブコーディング」(Vibe Coding)——元Tesla AI部門責任者のAndrej Karpathyが2025年初頭に提唱した、コードの中身を理解せずAIに丸投げして生成されたコードをそのまま提出するスタイル——による投稿が大量に流入したという。
GodotのメンテナーであるRémi Verscheldeは今年初め、AI由来のプルリクエストが「時間の無駄であり、チームの士気を著しく下げている」と発言していた。問題はコードの品質だけではない。レビュー担当者がフィードバックをコメントしても意味のある返答が返ってこないケースが多発した。コントリビューターがコードを理解していないため、議論そのものが成立しないのだ。あるゲームスタジオも「コードを提案している本人が内容を理解しておらず、ほぼ無価値だ」と述べている。オープンソースプロジェクトにとって、このコミュニケーションの断絶は深刻なダメージとなる。
新ポリシーの具体的な内容
発表された方針の主なポイントは以下の通りだ。
- 新規コントリビューターへの制限強化:マージ済みPRが3件以下のコントリビューターは、新機能追加や大規模なリファクタリングを行う際にメンテナーからの事前承認が必要になる。バイブコーダーやAIエージェントの排除と、コードベースを理解した貢献者の育成が目的だ。
- コミュニケーションの人間化:PRやイシューの議論は人間同士で行うことが必須となる。AIエージェントやボットによる自動投稿は、言語翻訳目的を除いて禁止。
- AI生成コードの開示義務:コード補完・正規表現生成・検索置換といった「補助的な用途」に限定した使用は認められる。ただし使用した場合はPRの議論欄への開示が必須となる。
「AIの使用はコード補完や正規表現、find-and-replaceのような些末な作業に限定されるべきだ」
つまり完全禁止ではなく「コントリビューターが内容を理解した上での限定的な補助利用」は許容される形だ。なお、ポリシーの正式な文書改定はまだ完了しておらず、現状はGitHub上での運用と口頭での周知にとどまっている。更新時期は未定とのことだ。
業界全体に広がる「バイブコーディング不要論」
Godotの動きは単独の事例ではない。データベース削除やストレージ消去といったバイブコーディングによる事故の報告が相次ぐなか、その限界を問い直す声が業界全体で高まっている。
ITコンサルティング大手Infosysの会長Nandan Nilekaniは最近の株主向け発言の中で、「バイブコーディングはプロが心配すべきものではない。優れたソフトウェアを書くことはコーディング以上のものだ」と述べ、「ソフトウェア開発においてコンテキストの把握こそが最重要だ」と強調した。GodotチームがAIプルリクエストで直面した混乱——コードの背景や設計意図を掴めないまま提出される大量のPR——は、まさにAIが「コンテキスト」を掴みきれていないことの証左とも言える。
オープンソースの世界では、コードそのものよりも「議論できる人間がいること」が長期的な品質を支えてきた。Godotの今回の決断は、その原則を改めて問い直す動きとして注目される。
詳細はGodot bans AI-generated code contributionsを参照していただきたい。