7月3日、The Decoderが「Meta's AI agent push is moving slower than Zuckerberg planned」と題した記事を公開した。この記事では、MetaのAIエージェント戦略が当初の計画より遅れていることをZuckerberg自身が社内で認めたことについて詳しく紹介されている。1,450億ドル規模のインフラ投資、トップ人材の大量招聘、組織の大規模再編——それでも「エージェント開発の軌道が期待どおりに加速していない」という現実が、トップ自らの口から語られた。
Zuckerbergが認めた「計画との乖離」
Reutersの報道によると、Zuckerbergは社内タウンホールで「少なくとも過去4ヶ月間、エージェント開発の軌道は期待どおりに加速していない」と述べた。さらに、組織再編への賭けは「まだ実を結んでいない」とも語った。
この発言が重みを持つのは、Metaがここ1年でAIに大規模な投資をしてきた文脈があるためだ。ZuckerbergはScale AIのFounder/CEOだったAlexandr WangをAI部門トップに据え、部門名をMeta Superintelligence Labsに改称。Meta Superintelligence Labsはその名称が示すとおり、汎用人工知能(AGI)の実現を射程に入れた研究開発拠点と位置づけられており、OpenAIやGoogle DeepMindからの引き抜きを含む業界トップクラスの研究者を集めた。競合他社からの獲得には9桁(=1億ドル超)の報酬が提示されたケースもあるとされる。
5月には全従業員の約10%をレイオフし、約7,000人をAIチームに再配置。高コストなAIインフラの資金を確保しつつ、AI活用による業務効率化を狙う動きだった。今年のAIインフラ投資額は最大1,450億ドルに達する見込みで、大手テック企業全体で合計7,000億ドル超とされる業界規模の投資の一角を占める。
計画が動き出した1〜2月時点では、幹部らはAnthropicのClaude Codeのようなツールに対して「超楽観的」だったとZuckerbergは説明した。結果として、その期待が実態を先行しすぎていた格好だ。
AIチーフが「軌道修正」に動く
タウンホールでは、AI責任者のAlexandr Wangが異なるトーンで発言した。Business Insiderの報道によると、Wangは「コードネーム『Watermelon』の次期モデルが、OpenAIの最上位モデルGPT-5.5に追いついた」と述べた。詳細なベンチマーク名は明かさなかった。
なお、MetaのモデルコードネームはWatermelon(スイカ)、Avocado(アボカド)といったフルーツ系の名称が採用されているが、これは内部管理上の命名規則によるものとみられ、公式製品名とは別に使われる開発コードである。
Wangはモデルの開発状況についても言及した。
- 4月にリリースされたMuse Spark(内部コードネーム:Avocado)は、OpenAIやAnthropicには及ばなかったが、ベンチマークでは堅実なスコアを記録した最初の新世代モデルである
- 次世代のWatermelonは現在学習中で、「Avocadoより1桁多いコンピュートを使用している」
- AnthropicのClaude Opusに匹敵するコーディングモデルも「近いうちに」登場するとした
Wangはその後XでZuckerbergの発言を補足し、「あれはMeta固有の話ではなく業界全体の進捗を語ったもの」と説明。Muse Sparkのアップデートでコーディングとエージェント機能に大幅な改善が加わる予定だとも投稿している。
背景:AIエージェントへの業界的な期待と現実のギャップ
「AIエージェント」とは、人間の指示を受けながら複数のタスクを自律的に実行するAIシステムの総称で、2024年後半から2025年にかけてOpenAI、Google、Anthropicなど各社が競うように開発を進めている領域だ。単なるチャットボットや画像生成とは異なり、ブラウザ操作・コード実行・外部APIとの連携といった複合的なタスクを連続して処理できる点が特徴で、次世代AIの中核技術と目されている。Metaもこれを次の主戦場と位置づけていたが、今回の発言はその難しさを改めて示した形だ。
Zuckerbergは今後3〜6ヶ月以内に具体的な成果が出ると期待を示している。またBloombergの報道では、Metaは余剰AIコンピュート容量を外部企業に販売するクラウドビジネスの構築も進めているという。
物議を醸した「マウストラッキング」問題
タウンホールではCTO Andrew Bosworthが、別の火種にも言及した。Metaが導入した従業員のマウス操作・PC操作を記録するソフトウェアだ。このツールはAIの学習データ生成を目的としており、4月に米国の従業員端末へ導入された際、オプトアウト手段がないとBosworth自身が説明していた。
その後、センシティブなデータが露出する可能性が判明しプログラムは一時停止された。内部レビューの結果、従業員データがAI学習に使われた事実はなかったとBosworthは述べた。再開する場合はオプトイン形式に変更するとしている。この問題はAIエージェント開発そのものとは直接関係しないが、Metaが「AIのためにどこまでやるのか」という社内外の懸念を象徴するエピソードとして、今回のタウンホールで取り上げられた。
詳細はMeta's AI agent push is moving slower than Zuckerberg plannedを参照していただきたい。