7月2日、Joseph Coxが「Companies Are Throttling Employees' AI Use Because It's Too Expensive」と題した記事を公開した。AIの積極導入を推進してきた企業が今、コスト急騰を受けて従業員のAI利用を制限・絞り込み始めている実態を報じている。
Atlassian、Adobe、Amazon、Citi、GitHubといった大手企業で、AIツールのコスト管理が深刻な経営課題になりつつある。404 Mediaはこれらの企業の内部Slackログ、ダッシュボードのスクリーンショット、社内メールを入手し、複数業種にまたがる利用制限の実態を明らかにした。
「AI全力活用」の反動が来た
背景にあるのは、AIプロバイダーによる定額課金から従量課金への移行だ。GitHub Copilotは2024年6月に使用量ベースの課金モデルへ移行しており、同様の流れは他のサービスにも広がっている。定額制では見えなかった「1リクエストあたりのコスト」が可視化された結果、各社のAI支出が制御不能な水準に達しつつある。
トップダウンで「AIで生産性向上」を旗印に導入を推進してきた企業ほど、この反動が大きい。使用量に関わらず固定費だったものが、リクエストのたびにコストが積み上がる仕組みに変わったからだ。
Atlassian:8ヶ月でコストが3倍超に膨張
Jiraで知られるAtlassianでは、AIツールのコストが2025年8月の約500万ドルから2026年5月には1,500万ドル超に急増した。AWS、Google Cloud、OpenAIなどのLLM費用を合算した数字であり、このペースが続けば年間1億2,000万ドルに達する見込みだ。
同社はAI利用を無制限から有限制に切り替え、従業員が自分のAI利用コストをリアルタイムで確認できる社内ダッシュボードを導入した。ある従業員はこう語る。
「ワークフローをAI全振りに変えた人たちが、エージェントや高性能モデルを使うと2〜3日でトークンを使い切ってしまい、Slackに『これじゃ仕事できない』という投稿が溢れています。正直、これだけの支出を野放しにしていた方がおかしかったと思う」
Atlassianは404 Mediaに対し「この数字は実際のAI利用を正確に反映していない」と述べたが、どの数字が誤りでどう違うかは説明しなかった。
Citi:高性能モデルへのアクセスを一時遮断
最も踏み込んだ対応を取ったのがCitiだ。404 Mediaが入手した社内メールによれば、高性能・最新モデルへのアクセスを6月24日に完全停止(7月1日に再開予定)した。メールには「これらのモデルは1インタラクションあたりのAIクレジット消費量が著しく多く、エンタープライズ全体の消費量急増の主因となっている」と明記されている。
トークンは全社共有プールで管理されており、ヘビーユーザーがプールを食い潰すと他の従業員の利用にも影響が出る構造だ。遮断前には「軽量な質問にはコスト低めのモデル、アーキテクチャ設計など高度なタスクには高性能モデル」という使い分けを全従業員に周知する警告メールも送られていた。
なお、Citi広報は「モデルを無効化していない」と404 Mediaに回答しているが、同メディアは取得した社内メールとスクリーンショットがアクセス遮断を示していると報じている。
AdobeとAmazonでも制限の波
- Adobe:特定AIサービスへの無制限アクセスを6月30日付で終了。従業員には「それまでに使えることは全部やっておけ」という趣旨の通知が届いた。
- Amazon:AI利用量ランキングの社内リーダーボードを廃止(404 Mediaが以前報道)。廃止の背景には、ランキングが無駄な高コスト利用を促進していたとの見方がある。廃止からわずか2週間でトークン上限も発動し、ある社員はSlackに「こんなに早く来るとは」と投稿した。
- エンターテインメント系企業(匿名):今月初めてChatGPTのトークン上限に到達。1人の開発者が全社割り当ての約半分を消費したが、「明確なROIはなかった」という。
トークンを最も食うのは「コード生成」ではなかった
見落とされがちな事実もある。コンサルティング大手Accentureの内部音声を404 Mediaが入手したところによると、トークン消費の主因は「エンジニアによる大量コード生成」ではなく、PDFをプレゼンスライドに変換するような軽作業だという。高価なモデルがルーティン業務に浪費されている構図だ。
Accentureはクライアントに対してAIの早期全面導入を推進してきた当事者でもある。コストが問題化した今、同社は「トークンエコノミクスの最適化」を次のビジネス機会として売り込もうとしている——皮肉な展開だ。内部情報を持つ関係者はこう語る。
「あらゆるレベルで無理やりAIを押し付けてくる。誰もが新しい無駄を競い合っていて、ブレーキをかけるよう言う人がいない」
AI導入の「次のフェーズ」
今回の一連の動きが示す構造的な変化は明確だ。企業は「AIで生産性向上」を旗印にトップダウンで導入を推進してきたが、従量課金モデルへの移行により実際の利用コストが突然可視化・肥大化した。GitHub Copilotのように広く使われる開発ツールが従量課金に移行する流れが続けば、同様の問題は他社でも起きる。
エンジニアや組織としては、チームのトークン消費パターンを把握し、タスクに応じたモデル選択を意識することが求められる段階に入った。「どのタスクにどのモデルが適切か」というAIリテラシーが、今後のコスト管理の鍵になりそうだ。
詳細はCompanies Are Throttling Employees' AI Use Because It's Too Expensiveを参照していただきたい。