7月1日、PYMNTSが「AI Effect Showing Up in US Employment Numbers」と題した記事を公開した。AIによる雇用喪失がこれまで「言説」の域を出なかった中、金融・IT分野での月平均2万8,000人減という数字が米政府の公式統計に刻まれた。だが同時期に、AIへ積極投資した企業では採用が10.2%増加したという逆説的な研究結果も示されており、「AIが雇用を奪う」という単純な図式では捉えきれない実態が浮かび上がっている。
金融・ITで月2万8,000人減、統計に現れたAIの影
ブルームバーグが米政府データを引用して報じたところによれば、AIの導入が最も早かった金融サービスとIT分野において、今年の雇用減が月平均2万8,000人のペースに加速している。
2026年前半の米国全体の雇用市場は、最初の5か月間で11万3,000人の純増と底堅い状況を維持している。しかし、この数字は金融・テクノロジー業界の落ち込みによって押し下げられたものだ。AIの影響による弱さが、それ以外の堅調な雇用市場の中で際立って見えている点が重要である。
人員削減動向を調査・追跡するChallenger, Gray & ChristmasのCEO、John Challengerは次のように述べている。
「現時点で、これほどのインパクトをリアルタイムで与えているテクノロジーはこれまでなかった」
同社の集計では、2026年内に発表されたAI起因の雇用削減はすでに約10万2,000人に達しており、テクノロジーセクターが今年発表された人員削減全体の3分の1を占める。Challengerはさらに「次に最も影響を受けるセクターは金融かもしれない」と付け加えた。
JPモルガン、シティ、ゴールドマンも明言
大手金融機関のトップもAIと人員削減の関連を公言している。JPMorgan Chase、Citigroup、Goldman SachsといったメガバンクのCEOたちが、AIが一部の雇用削減につながるとの見方を示している。テック企業でも同様の傾向で、人員削減の理由としてAIへの言及が増えている。
「使い方」によって雇用への影響は真逆になる
スタンフォード大学のDigital Economy Labの研究は、AIが労働市場に与える影響が「どう使うか」によって大きく変わることを示している。同ラボはスタンフォード大学経済学部に設置された研究機関で、デジタル技術と雇用・生産性の関係を専門に分析している。AIがタスクを自動化する職種では雇用が弱まる一方、AIが労働者の業務を補助する役割にとどまる職種では雇用は堅調を維持しているという。
この研究と対になる形で、法人カード会社Rampと労働力分析会社Revelio Labsによる共同研究「A New Look at AI's Impact on Jobs」が別の側面を浮かび上がらせる。2021年1月から2026年2月にかけての米国企業2万1,559社を対象に、AIベンダーへの支出と従業員数の推移の相関を分析したものだ。なお本研究は観察データに基づく相関分析であり、AIへの投資が採用増を引き起こしたという因果関係を直接証明するものではない点には留意が必要だ。
その結果、AIへの投資が高い企業は採用後2年間で従業員数が10.2%増加したことが判明した。この成長をけん引したのは高強度の支出企業であり、低強度の採用企業では統計的に有意な変化は見られなかった。さらに高強度採用企業ではエントリーレベルの雇用が12%増加している。
つまり、AIを積極的に導入した企業が必ずしも人を削っているわけではなく、大量にAIへ投資した企業ほど人も増やしているという逆説的な実態がある。
統計に刻まれた転換点
AIによる雇用影響が政府の公式雇用統計に痕跡として現れ始めたことは、一つの歴史的な転換点と言える。これまでAIと雇用の関係は、経営者の発言や民間機関の試算として語られることが多く、マクロ統計レベルでの可視化は難しいとされてきた。それが今回、政府データという最も信頼性の高い指標の中に、特定セクターへの影響として浮かび上がってきた点は重い。
金融とテクノロジーという、ソフトウェアエンジニアにとってなじみ深い2つのセクターが最前線にあることも見逃せない。一方で、AI投資企業における採用増というデータは、業界全体の動向と個別企業の戦略の間に大きな分断が生じている可能性を示唆している。雇用が「奪われる側」と「増える側」に分化しつつあるとすれば、その境界線がどこにあるかを見極めることが、今後のキャリア形成においても重要な視点になるだろう。
詳細はAI Effect Showing Up in US Employment Numbersを参照していただきたい。