7月1日、TechTargetが「Which IT jobs will AI change most? Tech leaders weigh in」と題した記事を公開した。AIによって今後3年間で最も変化するITジョブについて、6人のシニアITリーダーがそれぞれの予測を語っている。共通して浮かび上がるのは「AIがITの仕事を奪う」という単純な構図ではなく、実行(Execution)から判断・統治・オーケストレーション(Judgment / Governance / Orchestration)への移行という変容の姿だ。
AIはITの仕事を「削減」するのではなく「再定義」する
生成AIの普及に伴い、「AIがITエンジニアの仕事を大量に消す」という論調は絶えない。しかし本記事でインタビューに応じた6人のシニアITリーダーたちは、その見方に距離を置く。手を動かす実装作業がAIに代替されていく一方で、何を作るべきか、どう制御するか、どう安全を担保するかという判断の仕事はむしろ重みを増す——というのが彼らに共通した見立てだ。
TechTargetは6人の上級ITリーダーに同じ質問を投げかけた。「3年後、AIによって最も姿が変わるITジョブは何か?」。ソフトウェアエンジニア、インフラエンジニア、ITサポート、IAM(Identity and Access Management:IDおよびアクセス管理)管理者など、答えはばらけた。だが、仕事の本質がどう変わるかについては、大きく一致している。
「ラインコック」から「エグゼクティブシェフ」へ――インフラエンジニアの変質
CSGのCIOであるJoe Wilsonの比喩が秀逸だ。
Some of my strongest IT colleagues are now among the heaviest users of our engineering AI tools.
Joe Wilson(CIO, CSG)
今日のインフラエンジニアは、ファイアウォールのルールを手書きし、スイッチを設定し、一行ずつ接続を構築する。しかしWilsonは、3年後にその仕事はなくなると断言する。GeminiやClaudeのようなLLM(Large Language Model:大規模言語モデル)インターフェースに「こういうファイアウォールルールが必要だ」と伝えれば、推奨アクションが生成されるだけでなく、ルール自体を書いてくれる時代がすでに始まっている。
彼が使うのが「ラインコックからエグゼクティブシェフへ」という比喩だ。ラインコックは一つひとつの食材を刻み、一行ずつコードを書く。エグゼクティブシェフは複数のエージェントを使って複数のコンポーネントを生成させ、全体が整合するよう仕上げを施す。役割は「書く人」から「編集する人」へ移る。
この変化を乗り越えられるかどうかは、「好奇心」が分けると彼は言う。毎日時間のかかる作業をしていて「AIで解決できないか」と問わない人は、すでに遅れている。裏を返せば、既存のシニアエンジニアがAIツールの最重要ユーザーになっているという現象は、「AIに仕事が奪われる」という恐怖とは異なる実態を示している。
ソフトウェアエンジニアの重心移動
EmburseのCTO、Ken Ringdahlはソフトウェアエンジニアを挙げる。仕事が「コードを生産すること」から「アウトカムを指揮すること」に変わるという。
最も価値あるエンジニアは、最速のコーダーではなく、「何を作るべきか判断し」「AIエージェントへの指示を的確に出し」「プロダクションに出せる品質かを見極められる」人材になる。AIがコード生成・テスト・ドキュメントの機械的作業を担う分、エンジニアには顧客課題とビジネスコンテキストを技術実行に結びつける「プロダクトエンジニアリング」的素養がより求められる。
加えて、AIの使いどころを判断する能力も職人芸の一部になる。ソフトウェア開発ライフサイクル全体でAIコストが上がるにつれ、「どのAIを、どこで、どれだけ使うか」という経済的設計が重要なスキルになる。この「AIコスト感覚」はRingdahlだけでなく、後述するVundavalliも独立して強調しており、複数のリーダーが重視する共通項として浮かび上がっている。
「誰も登壇スライドに載せない」役職の急浮上――IAM管理者
最も意外な予測を述べたのが、C1のCISOであるWill Bengtstonだ。彼が挙げたのはIAM(IDおよびアクセス管理)管理者だ。
今日のIAM管理者の仕事は「人間の配管工事」に近い。従業員のプロビジョニング、アクセスレビュー、誰がどのリソースにアクセスできるかの管理だ。しかし今後3年で、この仕事の難所は人間の管理ではなくなる。難所はAIエージェントだ。
AIエージェントは、資格情報を持つ非人間のアイデンティティだ。自律的にアクセスをリクエストし、マシンスピードで動作し、さらに別のエージェントを生成することもある。Bengtstonは以前Netflixでクラウド上の侵害されたIDを検出し、HashiCorpではインフラとマシン資格情報のセキュリティを担当していた。その経験から言えば、「過剰な権限を持つエージェントは、かつて自分が追いかけていたものとよく似ている」。
過剰権限のエージェントは、過剰権限の新入社員より爆発半径がはるかに大きい。IAM管理者の役割は消えるのではなく、より重要になる。AIエージェントの普及が加速する今、IAMは「地味な運用業務」から「エンタープライズセキュリティの最前線」へと格上げされつつある。
ITサポートは「デジタルエクスペリエンスオーケストレーター」へ
JA WorldwideのグローバルテクノロジーヘッドであるBoris Kolevは、ITサポートの変容を指摘する。「サポート」という名称自体、何かが壊れてから始まる受動的な仕事というニュアンスを持つ。AIによってこの職種はより能動的になり、「デジタルエクスペリエンスオーケストレーター」や「AIサービスコンシェルジュ」のような役割に進化すると彼は予測する。
Kolevの言葉が印象的だ。「ITはかつて地下室のメカニックだった。AIはITを航空管制塔に変えつつある」。
チケットを捌く「障害対応係」から、AIツールの活用状況を監視し、組織全体のデジタル体験を設計・改善していく役割へ——この変化は、ITサポートを組織の中で最も戦略的な職種の一つに押し上げる可能性を秘めている。
ITマネージャーは「意思決定アーキテクト」に
ZeroAviaのIT・デジタルトランスフォーメーション責任者Sergei Irisovは、エンタープライズプラットフォームを担うITマネージャーの変質を語る。システム納品やベンダー調整を評価軸にしてきたITマネージャーは、3年後には「人・プラットフォーム・AIワークフローをオーケストレーションして、組織がより速く意思決定できるようにする」能力で評価される。技術知識は依然重要だが、差別化要因はデータオーナーシップ、プロセスアーキテクチャ、AIガバナンスといった「運用モデル設計」の能力になる。
従来のITマネージャーが問われてきたのは「プロジェクトを期日通りに届けられるか」だった。次の3年で問われるのは「AIを組み込んだ意思決定の仕組みをどう設計するか」という、より上流の問いになる。
Harish Vundavalli:AIを「経済的に使う」判断力と、オーケストレーションの見極め
Strategic Education, Inc.のシニアテクニカルアーキテクトHarish Vundavalliは、スキル需要の変化を具体的に示す。他の5人がそれぞれ特定の職種を挙げたのに対し、Vundavalliはより横断的な視点でスキル変容を語る点が特徴的だ。
彼が強調するのは二点だ。第一に、エージェント環境におけるセキュリティ。AIエージェントが組織内で自律的に動作するようになれば、そのアクセス制御や監査ログの設計は不可欠になる。第二に、トークン消費を抑えてAIを経済的に使えるエンジニアは市場から高く評価されるという点だ。LLMの推論コストは使い方次第で大きく変動する。「安く、速く、正確に」AIを動かす技術は、それ自体がエンジニアリングの専門性になる。
そして最大の課題として彼が指摘するのが、「どのワークフローにAIオーケストレーションが本当に必要か」を組織レベルで判断することだ。AIを導入すること自体が目的化しがちな現状に対し、費用対効果と業務適合性を見極める判断力こそが、次の3年で最も希少なスキルになると彼は主張する。
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詳細はWhich IT jobs will AI change most? Tech leaders weigh inを参照していただきたい。