7月1日、The Decoderが「Anthropic launches Claude Science, an AI workspace built specifically for researchers」と題した記事を公開した。AIが科学研究の現場に本格浸透しつつある中、研究者が直面するのは「高機能だが汎用的すぎる」ツールと「使い勝手を優先して機密データを外部に送らざるを得ない」というジレンマだ。Anthropicが発表した「Claude Science」は、この二つの課題を正面から解決しようとする研究者専用のAIワークスペースとして注目を集めている。AlphaFold(Google DeepMind)が構造予測という単一タスクで研究現場を変えたように、Claude Scienceはより広範な研究ワークフロー全体をAIで統合することを狙う。
ゲノミクスから創薬まで、60以上のスキルを搭載
Claude Scienceは、科学者向けに設計されたAIワークスペースだ。文献解析、多段階分析、グラフ作成、論文草稿の作成まで、研究者の一連のワークフローを一つのインターフェースに統合する。
最大の特徴は、**ゲノミクス(ゲノム全体を対象とした遺伝情報解析)・プロテオミクス(細胞内タンパク質の網羅的解析)・ケモインフォマティクス(化学情報学:化学データへの情報科学的手法の適用)をカバーする60以上のプリセットスキル**を搭載していることだ。AlphaFoldやMicrosoft ResearchのBiomedical NLP系ツールが特定の領域・タスクに特化しているのに対し、Claude Scienceはこれら複数分野のスキルを単一ワークスペースで横断的に扱える点が差別化のポイントとなる。
さらに、検証エージェントが引用文献や計算結果を自動でチェックする機能も備わっており、研究の再現性や正確性を担保する仕組みが組み込まれている。研究者は自分のパイプラインを保存して再利用可能なスキルとして登録することもでき、チームや将来のプロジェクトへの横展開も容易になっている。
データは手元から出ない設計——その仕組みと留意点
企業・研究機関がAIツール導入をためらう最大の理由の一つが、未公開の実験データや創薬候補化合物といった機密情報の外部送信リスクだ。Claude Scienceはこの点を意識した設計になっている。
アプリはmacOSまたはLinux上でローカル動作し、SSH経由でリモートマシンやHPCクラスター(高性能計算クラスター:大量の並列計算処理を可能にする計算機群)にも接続できる。モデルに送信されるのは「Claudeが実際に必要とするコンテキストのみ」とAnthropicは説明しており、センシティブなデータをラボの外に出す必要がない構造になっている。
ただし、「送信されるコンテキストの範囲」の技術的な定義や第三者監査の有無についてAnthropicは現時点で詳細を公開しておらず、機密性の高い環境への導入にあたっては自組織のセキュリティポリシーとの照合が必要になるだろう。※編集部の考察
スケーラビリティも備えており、処理負荷に応じてシングルGPUから数百GPU規模まで自動スケールする。大規模なゲノム解析や分子シミュレーションといった計算負荷の高いタスクにも対応できるとしている。
NvidiaのBioNeMoとの連携
Claude ScienceはNvidiaが提供するBioNeMo Agent Toolkitと統合されている。このツールキットには以下のモデルが含まれており、計算生物学・構造生物学の領域で即戦力となる。
- Evo 2:ゲノム基盤モデル。DNA配列の生成・解析に特化
- Boltz-2:タンパク質構造予測モデル。AlphaFoldと同領域をカバーするオープンな代替手段として注目されている
- OpenFold3:タンパク質折り畳みモデル。オープンソース実装として研究コミュニティでの利用が広がっている
これらのモデルをClaude Scienceのワークフロー内から直接呼び出せる点は、従来であれば別々のツールチェーンを組み合わせる必要があった計算生物学の研究プロセスを大幅に効率化する可能性がある。
ベータ提供と研究支援プログラム
Claude Scienceは現在、Pro・Max・Team・Enterpriseユーザー向けにベータ提供中だ。
加えて、Anthropicは最大50件の研究プロジェクトに対し、それぞれ最大3万ドル(約450万円)分のAPIクレジットを提供する支援プログラムを実施している。学術・非営利研究機関を主な対象として想定しているとみられ、申請は2026年7月15日まで受け付けている。応募は申請フォームから可能だ。
AI×科学研究のプラットフォーム競争はAlphaFoldの成功以降に急速に加熱しており、Google・Microsoft・NVIDIAがそれぞれ独自のバイオ・創薬向けAI基盤を整備している。Claude Scienceはその中で「汎用LLMの対話能力」と「ローカルデータ保護」「科学特化スキル群」を組み合わせた差別化軸を打ち出している格好だ。研究者コミュニティの実運用からどのようなフィードバックが生まれるかが、今後の注目点となる。
詳細はAnthropic launches Claude Science, an AI workspace built specifically for researchersを参照していただきたい。