6月30日、Computer Weeklyが「Gartner declares 'agentic AI' the next step function」と題した記事を公開した。GartnerがエージェントAIを企業データ基盤と分析の次の変曲点と宣言し、複数のアナリストがその具体像と課題を示したことについて詳しく紹介されている。
「単一のAIモデルに頼るのは過去も今も間違い」
シドニーで開催されたGartner Data and Analytics Summitで、Gartner AIリサーチ部門チーフのErick Brethenioux(ブレテニュー)氏は7つのAIトレンドを提示し、IT責任者に対して単一のAIアプローチへの依存を強く戒めた。
「私はこれまでに2度のAI冬の時代を経験した。次が来るまでの時間が長ければよいと思っている」
Brethenioux氏はこう述べたうえで、「生成AIはある程度の前進をもたらしたが、エージェントAI――自律的なソフトウェアエンティティを構築し、人間や機械に代わって仕事をこなす能力――こそが真の変曲点(ステップ関数)だ」と断言した。
エージェントAIとは、単一の大規模言語モデルが質問に答えるのではなく、複数のAIエージェントが自律的に連携して複雑なタスクを完遂するアーキテクチャを指す。近年、OpenAIのOperatorやAnthropicのComputer Useなど、各社が実用化を急ピッチで進めているカテゴリでもある。
「エージェントのインターネット」という概念
Gartnerが最も破壊的なトレンドと位置づけるのが、「アダプティブ集合AI(Adaptive Collective AI)」、通称「エージェントのインターネット」だ。
意思決定を複数のシステムに分散させて複雑な問題を解くアプローチで、Brethenioux氏はGartnerのクライアント事例を挙げた。北海の洋上風力タービンをドローンの群れで点検するシステムで、各ドローンは独立してひび割れや色劣化を撮影し、基地に戻った後に集合的に問題を判断し、レポートを自律生成するという。人間が介在しないEnd-to-Endの自律処理だ。
そのほかBrethenioux氏が示したトレンドには以下が含まれる:
- コンポジットAI/ニューロシンボリックAI:ニューラルネットワークと記号論理(シンボリックAI)を組み合わせ、推論の透明性と信頼性を高める手法だ。ディープラーニング単体では説明が難しい「なぜその結論に至ったか」を論理的に追跡できる点が特徴で、医療診断や法令解釈など説明責任が求められる領域での活用が期待されている。ただし劣化速度の異なるモデルを統合する難しさは残る。
- ワールドモデルAI:物理的現実を包括的にシミュレートするモデルを構築し、現実世界の因果関係を内部で再現することで幻覚(ハルシネーション)を低減する。ロボティクスや自律走行など、現実との整合性が不可欠な用途での研究が進んでいる。
- 第一原理AI:機械学習と科学的法則を組み合わせ、「過去に起きたことがない事象も方程式で捉える」設計。
ピアジェの引用が示す「生成AIの限界」
Brethenioux氏は、スイスの発達心理学者ジャン・ピアジェの言葉を引用した。
「知性とは、どうすればよいかわからないときに使うものだ」
元記事ではこの引用を、生成AIが「既存パターンの統計的再現」にとどまる限界を指摘する文脈で位置づけている。すなわち、過去のデータから学習したパターンを組み合わせることは得意でも、まったく前例のない状況への対応には人間の判断が依然不可欠だという論点だ。エージェントAIが自律化を進める一方で、人間の役割は依然として残るというのがBrethenioux氏の立場であり、「人間なしで完結する」という単純な未来像を戒めるものでもある。
メタデータの爆発:人間では追いつかない
Gartnerリサーチ担当バイスプレジデントのMark Beyer氏は、エージェントAIが「不可避」である理由をデータ管理の観点から論じた。
鍵となるのはメタデータの増殖だ。「データを再利用するたびに、そのデータに関する新たなメタデータが100件生成される。アクセス頻度が100倍・1000倍になれば、数週間でメタデータに押しつぶされる」とBeyer氏は警告した。
この指数関数的な増加に人間は追いつけないため、AIエージェントがコネクティビティ・オーケストレーション・データガバナンスを担う時代が来るとBeyer氏は主張する。具体例として、「毎週火曜日にデータ品質が一定程度低下することをAIエージェントが検知し、その日生成されたレポートに自動で警告注記を付加する」シナリオが示された。
Beyer氏のまとめは明快だった。「我々はもはや、分析やAIのためにデータパイプラインを構築しているのではない。データがどのように使われ、誰が使い、望む結果につながっているかを認識するエージェントを構築している」。
コスト最適化にも「フォード式生産ライン」を
エージェントシステムのスケールに伴い、コストも膨らむ。Gartnerリサーチ担当バイスプレジデントのAdam Ronthal氏は、データ管理にヘンリー・フォードの自動車生産ライン的な発想――すべてのステップにコストと成果を測定可能な形で紐づける――を持ち込む必要があると訴えた。
特定のSQLクエリやレポートの実行コスト計算は「ほぼ解決済みの問題」だが、そのデータが生み出す価値の測定が最大の課題だとRonthal氏は指摘する。解決策として同氏が提案するのは実証的アプローチだ。
- アクセス頻度は価値の強い代理指標になる。毎日多くの人が使うダッシュボードは明らかに価値が高い。
- 逆に、データウェアハウスから大量データをローカルにダウンロードするユーザーが多い場合、そのデータは求められる価値を提供できていないサインだ。
ワークロードを価値で実証的にランク付けした後、エージェントによる最適化フレームワークを展開する。たとえば毎朝9時に必要なレポートがあれば、AIがコスト効率の良いクラウドインスタンスを自動選択し、SLAを人手なしで保証する。
Ronthal氏は向こう12ヶ月でのアクションとして、「ログファイルを中心にメタデータへの投資を始め、価値の実証的導出とランク付けのパイロットを実施せよ。価値をめぐる議論が減れば、前進している証拠だ」と締めくくった。
詳細はGartner declares 'agentic AI' the next step functionを参照していただきたい。