6月30日、Anthropicが「Claude Science beta」と題した記事を公開した。この記事では、科学研究者向けに特化したAI統合研究環境「Claude Science」のベータ版リリースについて詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
「生データから論文品質の図まで1セッションで」
Claude Scienceが他の汎用AIアシスタントと一線を画す点は、研究の再現性(Reproducibility)を中心設計に据えていることだ。
生成されたすべての成果物(図、表、ノートブック)には、それを生み出したコードの完全な履歴、実行環境、そして至るまでの会話ログが自動的に紐づけられる。数ヶ月後に別のチームメンバーが同じ結果を再現したい場合も、その場で再実行・編集が可能だ。
Manifold BioのComputational BiologistであるMike Nichols氏はこう述べている。
「Claude Scienceを使えば、生データから論文品質の図まで1セッションで到達できる。分析、探索的プロット、その精緻化がすべて1プロジェクト内で完結する。各図にコードと会話が"溶接"されているため、完全に再現可能で、反復・巻き戻し・フォークが自由にできる。」
MITホワイトヘッド研究所のIain Cheeseman教授(生物学)は、計算生物学のバックグラウンドを持たない立場からこう語る。
「正直なところ、本当に変革的だ。何年もずっと気になっていた疑問が頭に浮かぶたびに、すぐにClaude Scienceでプロジェクトを始めたくなる。」
何が「普通のAI」と違うのか
FAQ欄に明記されている通り、Claude Scienceはモデルではなくアプリだ。使用するClaudeのモデル自体はプランに含まれるものと同一で、差別化の本体は「周辺環境」にある。
具体的には以下の要素が組み合わさっている。
- 60以上の科学データベースへのネイティブ接続(PubMed、タンパク質構造データベース、ゲノミクス系DBなど)
- タンパク質構造・アライメント・化学構造・ゲノムトラックのネイティブレンダリング(追加インストール不要)
- PythonおよびRカーネルの永続化:変数・データフレーム・ロード済みモデルがセッションをまたいでメモリに保持される
- HPCクラスタへのSSH越しジョブ管理:バッチスクリプトの生成・投入・監視まで対応。Modalアカウントとの連携も可能
- バックグラウンドレビュワー:引用の不正確さ、数値のトレース不能、図とコードの不一致を自動フラグ
ゲノミクス、シングルセル解析、プロテオミクス、構造生物学、ケモインフォマティクスといった領域に対応した「スペシャリスト」が最初から組み込まれている。また、NVIDIA BioNeMoのAgent Toolkitと連携し、Evo 2、Boltz-2、OpenFold3といったライフサイエンス特化モデルへのネイティブアクセスも提供される。
研究現場での実績
UCSFのStephen Francis PIは、1年近く原因不明だった実験上の問題をClaude Scienceが即座に解決した事例を報告している。
「バルクRNA-seqデータにラボウイルスのコンタミネーションが混入していた。われわれは1年近くこの問題に手を焼いていたが、Claude Scienceが最初の重要な発見としてそれを見つけた。」
Every CureのDirector of Pipeline StrategyであるElliott Sharp氏は、新たなファクトチェック機能によって医療アウトプットへの信頼性が高まったと述べており、トリアージおよびメディカルレビュー業務への適用を挙げている。
利用条件と価格
現在macOSおよびLinux向けのパブリックベータとして提供されており、Pro・Max・Team・Enterpriseプランが対象。TeamおよびEnterpriseでは管理者による事前有効化が必要だ。
学術機関・非営利研究機関の研究室向けには割引が用意されている。対象は、主任研究員(PI)を通じて資格確認が行われる。生物医学・基礎科学系ラボが優先対象とされており、化学・数学・CS・物理も含まれる。
企業・CRO・産業R&Dチームには通常のTeam/Enterpriseプランが案内されている。
研究データのプライバシーに関しては、「Claude Scienceアプリは自分のインフラ上で動作し、生データとコンピュートはローカルに残る」と明記されている。ただし、プロンプトやモデルの応答に含まれるコンテンツはAnthropicの標準ポリシーで処理される点は留意が必要だ。
詳細はClaude Science betaを参照していただきたい。