6月22日、デジタルアーティストのDavid Revoyが「Why Drawing Tablet Brands Won't Collaborate on Linux FLOSS Drivers」と題した記事を公開した。描画タブレットメーカーがLinux向けFLOSS(Free/Libre Open Source Software、自由・オープンソースソフトウェア)ドライバの開発協力を拒否する、構造的かつ意外な理由が明らかになっている。
拒否の理由は技術的な困難でも、コストでもない。オープンソースのリポジトリ名に競合最大手「Wacom」の名称が含まれているから——それだけだった。「Pepperと友達」シリーズで知られ、Linuxコミュニティでも著名なRevoyだからこそ、メーカーとの交渉のリアルな顛末が記録に値する。
LinuxにおけるタブレットドライバはFLOSSへ移行中
Linuxデスクトップ環境の普及が進む中、描画タブレットのドライバサポートは長年の課題であり続けている。Steam Deckの普及でLinuxゲーミング環境が整備される一方、クリエイター向けデバイスのサポートは依然として遅れがちだ。従来はプロプライエタリドライバへの依存が主流だったが、近年はRed HatのエンジニアであるPeter HuttererとBenjamin Tissoireがudev-hid-bpfというBPF(Berkeley Packet Filter:Linuxカーネル内で動くサンドボックス型プログラム機構)ベースの新しいオープンソースドライバフレームワークを開発しており、カーネルレベルでの対応が進んでいる。
このプロジェクトには各タブレットのHIDディスクリプタ(デバイスとホストOS間の通信仕様情報)が必要であり、Revoyはそれを1台ずつ実機から取得してPeterらに提供するボランティア活動を続けてきた。
問題の核心:リポジトリ名に刻まれた「Wacom」
Revoyはより効率的な方法として、タブレットメーカーに直接仕様の共有を働きかけることにした。XpPen・Gaomon・Huionなどへ繰り返しメールを送った結果、Gaomon経由で「Shenzhen Huion Trend Technology Co., Ltd.」の技術担当者にたどり着く。調べてみると、Gaomon・XpPen・Huion・UgeeのDebianパッケージは構造が共通しており、実質的に1社が複数ブランドのドライバを管理していたことが判明した。
4ブランドを一気にオープンソース化できる可能性に期待したRevoyは、仕様の共有方法やプロジェクトの詳細を送付し、PeterとBenjaminへの連絡も促した。しかし、返ってきたのはGaomon広報部からの丁重な断りだった。
技術チームと再度協議した結果、現時点ではLinuxドライバプロジェクトへの参加を見送ることにしました。ご紹介いただいたwacom-hid-descriptorsを確認しましたが、これは主にWacomが主導するプロジェクトであり、GAOMONにとっての恩恵は限定的です。また、参加にはデバイス仕様をWacomと直接共有することが必要になります。それは受け入れられません。
問題となったのは、LinuxのタブレットサポートにおけるデバイスDB libwacomと仕様リポジトリ「wacom-hid-descriptors」のいずれもが、複数ブランドのデバイスを収録しながら「wacom」名義のままになっていることだ。これらの命名は歴史的経緯によるものであり、リネームすべきとの議論は長年続いているが、いまだ解決していない。
Revoyは「競合他社の名を冠したインフラに自社仕様を提供することは商業的に受け入れられない、という判断は理解できる」と述べた上で、命名という設計上の問題がせっかくの協業機会を潰したと指摘している。
個人活動の限界
Revoyが現状できることは、1台ずつタブレットを入手して仕様をダンプし、PeterとBenjaminに渡してドライバを書いてもらうという方法だけだ。現在はXpPenの27インチ・12インチモデルとGaomon 11インチモデルの3台が輸送中で、今後はudev-hid-bpfへの仕様報告チュートリアルの執筆も予定している。
ただし、この方法には明確な限界がある。FLOSSドライバが間に合わない場合はプロプライエタリドライバを使うことになる。Revoyは「その日が来たら、ハードウェアレビュー自体をやめることになるだろう」と書いている。
解決には資金と組織的な関与が必要
Revoyが記事で訴えているのは、この問題が個人の努力では解決できないという点だ。リポジトリのリネームや、フルタイムでリポジトリを管理する開発者の確保には、企業や団体からの資金投入が必要になる。「競合最大手の名を冠したインフラ上に、堅固な協業環境は築けない」というのがRevoyの結論だ。
Linuxにおける描画タブレットのドライバサポートは、少数のボランティアと薄いリソースに支えられている。今回の件は、命名という一見些細な問題が業界横断の協業を阻んでいる現実を改めて示した形だ。
詳細はWhy Drawing Tablet Brands Won't Collaborate on Linux FLOSS Driversを参照していただきたい。