6月11日、Normal Tech社が「Why AI hasn't replaced software engineers, and won't」と題した記事を公開した。
2023年のChatGPT登場以降、「AIがソフトウェアエンジニアの仕事を奪う」という予測が飛び交い、実際に複数の企業がAIを理由としたレイオフを発表した。しかし、この記事では驚くべき事実が明らかにされる:AIによる大量解雇の多くは「AI洗浄」であり、実際の雇用データは全く異なる現実を示しているのだ。
AI主導のレイオフは「AI洗浄」だった
記事は、注目を集めた企業のレイオフが実際にはAI導入とは無関係だったという事実から始まる。
Block社のケースでは、ジャック・ドーシーCEOが4,000人のレイオフをAIによる「新しい働き方」によるものと説明した。しかし、その後の報道で全く異なる実情が明らかになった。同社のデータサイエンティスト、竹田直子氏は、会社が「AIを押し付けてきたが、生産性の向上はほとんど見られなかった」とLinkedInに投稿し、75%の引き留め昇給を断って退社した。
Snap社では、CEOがAIが新規コードの65%を生成していると発言しながら約1,000人をレイオフした。しかし実際は、アクティビスト投資家がコスト削減を要求したことが原因で、AR部門の150職種にわたる削減内容は、AIによる置き換えで予想される削減パターンとは一致していなかった。
Intuit社では3,000人の削減が発表されたが、CEO自身が「AIとは一切関係ない」と明言し、「調整の多い役職」と管理層の削減が目的だったと説明した。
決定的なデータが示す実態
米国の採用担当者の**59%**が、財政的制約よりもAIを理由にした方がステークホルダーの受けが良いため、採用凍結やレイオフの説明でAIを強調していることを認めている。
より決定的なデータもある。ニューヨーク州は2025年3月、WARN法(大量レイオフ報告義務)の届出にAI関連のチェックボックスを追加した。1年間で160社以上が届出を行ったが、AIボックスにチェックを入れた企業は1社(ネスプレッソ)のみだった。約25,000人の解雇者のうち、AIが原因だったのはわずか46人、**全体の0.2%**に過ぎない。
連邦準備制度理事会の経済学者による重要な研究では、ChatGPT登場後もソフトウェアエンジニアの雇用は依然として成長しているが、成長率がAI導入前と比べて年間約3ポイント低下していることが示された。つまり、大量解雇ではなく、採用の減速という形で影響が現れている。
コード生成率65%が無意味な理由
多くの技術リーダーがAIによるコード生成率を報告するが、記事はこの指標が労働力の置き換えとはほぼ無関係だと指摘する。
2019年のMicrosoft研究によると、開発者がコーディングに費やす時間は**9%から61%**に過ぎない。GitHub CopilotやCursorなどのコーディングエージェントが広く使われ始めた2025年後半には、「コードを書くことがボトルネックではなかった」ことに気づいた開発者たちのブログ記事が相次いで投稿された。
実際のボトルネックは何なのか?記事は「決定・実行・提供のサンドイッチ」という概念を提示する。
サンドイッチモデル:AIが変えられない領域
ソフトウェア開発は3つの層で構成される:
- 決定層:問題の枠組み設定、仕様策定、計画立案
- 実行層:設計と実装
- 提供層:テスト、検証、統合、保守
AIは真ん中の「実行層」を圧縮したが、両端の層は自動化に抵抗している。
この理論を裏付ける証拠として、全米経済研究所(NBER)の「Writing Code vs. Shipping Code」という研究が紹介されている。GitHub上の10万人の開発者を対象とした調査で、AIエージェントによりコード行数は8倍に増加したが、リリース数は**30%**の増加にとどまった。
あるHacker Newsユーザーは「AIでコードは素早く書けるようになったが、そのコードが正しく動作するかの確認に結局同じ時間がかかる」とコメントしている。
なぜ決定層と提供層は自動化できないのか
決定層では、開発チームは何を構築するかを決める必要がある。要件仕様には、ユーザーニーズ、市場シグナル、組織の優先順位、規制上の制約を考慮する必要があり、これらは深い理解と判断を要求する。
提供層では、責任の問題が重要になる。エンジニアは自分が送り出すコードに対して責任を負う。AIが生成したコードであっても、最終的な品質保証、セキュリティ検証、パフォーマンス最適化は人間が行う必要がある。
記事は、AIの能力向上により委譲できる決定の種類は増えるが、最終的な責任は常に人間のチームが負うと指摘する。特に、本番環境での障害やセキュリティインシデントが発生した際の対応は、AIには任せられない領域だ。
需要拡大がもたらす楽観的展望
記事は、ソフトウェアエンジニアリングの需要について慎重ながらも楽観的な見通しを示している。AIによる能力向上で、より少ないエンジニアでより多くの価値を創造できるようになるが、同時にソフトウェアへの需要そのものも急速に拡大している。
Andreessen Horowitzの「Software is Eating the World」から15年が経ち、今やあらゆる業界でデジタル変革が加速している。AIツールにより開発コストが下がることで、これまで実現困難だったプロジェクトが現実的になり、新たな需要を創出している。
ただし、記事は個々のエンジニアのキャリアが全体的な需要の健全性とは別の課題に直面する可能性があることも示唆している。スキルセットの変化や専門分野の再定義が求められる可能性があり、これについては次回の記事で詳しく扱う予定だという。
詳細はWhy AI hasn't replaced software engineers, and won'tを参照していただきたい。