1月9日、Phoronixが「Linus Torvalds: "The AI Slop Issue Is NOT Going To Be Solved With Documentation"」と題した記事を公開した。この記事では、Linuxカーネル開発におけるAI生成パッチ(AI Slop)への対応指針と、それに対するリーナス・トーバルズ氏の見解について詳しく紹介されている。
以下に、その内容を紹介する。
Linuxカーネルの開発コミュニティでは、現在、AI(大規模言語モデル)などのツールを用いて生成されたソースコードの投稿(パッチ)に関するガイドライン策定が進められている。この議論の背景には、コーディングアシスタントの普及により、AIが生成した不適切なコード(AI Slop)が大量に投稿され、開発現場の負担が増大することへの懸念がある。
これに対し、Linuxの創始者であるリーナス・トーバルズ氏は、メーリングリストにて極めて現実的な見解を示した。同氏は、AIを特別視してドキュメントを整備することに懐疑的であり、AIを「単なる一つの道具」として扱うべきだと主張している。
リーナス氏が投稿した主な見解は以下の通りだ。
- AI Slop(質の低いAI生成コード)の問題は、ドキュメントでは解決できない: 粗悪なコードを送りつける投稿者は、そもそも「これはAIで作成したものです」と正直に記載しない。そのため、ルールを明文化しても抑止力にはならない。
- ドキュメントは「善意の参加者」のためにある: 開発指針は、プロジェクトに貢献しようとするまともな開発者のためのものであり、悪意ある投稿者への対策としてドキュメントをいじるのは無意味なポーズである。
- AIに対する政治的なスタンスを排除する: 「AIが開発を破壊する」というパニック派と、「AIが革命を起こす」という熱狂派、どちらの極端な立場も開発ドキュメントに持ち込むべきではない。
- 「単なるツール」としての定義: AIを特別扱いせず、コンパイラなどと同様の「一つの道具」として定義することで、実務的なガイドラインに留めるべきである。
リーナス氏による実際のコメントは以下の通りである。
「LLMを『単なる別のツール』と考えることは、実質的にカーネルがこの問題に対して免疫があると主張するようなものだ。それは愚かな立場に思える」という意見に対し、リーナス氏は次のように反論した。
「いや。君の立場こそが愚かだ。
『AI Slop』について語ることには、一点の価値もない。それは単純に馬鹿げたことだ。
なぜか? AI Slopを送りつけるような連中が、自分のパッチをわざわざAIによるものだとドキュメントに明記するはずがないからだ。これはあまりにも明白な自明の理であり、なぜ誰もがAI Slopを話題に持ち出すのかさえ理解できない。
だから、このような愚行はやめるべきだ。
ドキュメントというものは『善意の参加者(good actors)』のためにある。それ以外を装うことは無意味なポーズに過ぎない。
別の場所でも個人的に述べたが、私はカーネル開発のドキュメントがいかなる『AIに関する声明』になることも望んでいない。私たちは、AIを脅威とみなす層と、革命とみなす層のどちらも十分に見てきたが、ドキュメントがいずれかのスタンスに寄ることは望まない。
私がこれを『単なるツール』としての声明にすることに強くこだわるのは、そのためだ。
そして、AI Slopの問題はドキュメントによって解決されるものではない。そう考える者は、単に世間知らずか、あるいは何らかの『声明』を出したいだけだ。
どちらもドキュメントを作成する正当な理由にはならない。」
リーナス氏の主張は、技術的な理想論ではなく、開発現場の運用に即した極めて合理的なものであると言える。現在も、LinuxカーネルにおけるAIおよびツールの取り扱いに関する議論は継続中である。
詳細はLinus Torvalds: "The AI Slop Issue Is NOT Going To Be Solved With Documentation"を参照していただきたい。