12月18日、AIコードレビュー/検索ツールを提供する Greptile が「State of AI Coding 2025」 と題したレポートを公開した。

本レポートは、Greptile が収集した GitHub 上の実開発データをもとに、AI コーディングツールがソフトウェア開発に与えている影響を定量的に分析した調査レポートである。
PR サイズや変更行数、SDK の利用状況など、感覚論ではなく 数字で語っている点が特徴だ。
AIは生産性を上げたのか?
レポートによると、AI コーディングツールの普及以降、
- PR あたりの変更行数は約 30% 増
- 開発者 1 人あたりのアウトプットは約 76% 増
- 6〜15 人規模のチームでは最大 89% 増
という結果が示されている。
注目すべきは、単にコミット回数が増えたのではなく、
1 回の PR がより大きく、より多くの作業を含むようになった
点である。
ボイラープレート生成、補助コードの追加、既存コードを踏まえた修正提案などを AI が肩代わりすることで、これまで後回しにされがちだった変更にも手が届くようになった。
一方で、PR の巨大化はレビュー負荷や影響範囲把握の難しさも招く。AI は生産性を高めると同時に、チーム開発の前提そのものを変え始めている。
AI開発の裏側:「どれを使うか」より「どう組み合わせるか」
AI コーディングの裏側では、複数の技術レイヤーが組み合わされている。
興味深いのは、どの分野も まだ「これ一択」と言える決定版が存在しない点だ。
Vector DB:意味検索を支える基盤
Vector DB(ベクターデータベース)は、文章やコードを「意味の近さ」で検索するためのデータベースである。
代表的なツールとしては、以下のようなものが挙げられる。
- Pinecone:マネージド型で導入が容易。プロダクト組み込み用途で多い
- Weaviate:スキーマ管理や検索機能が豊富
- Qdrant:OSS で軽量。自前運用やローカル利用向き
- Chroma:シンプルでプロトタイピング用途に強い
- pgvector:PostgreSQL 拡張として使え、既存 DB と統合しやすい
これらは高速性、運用形態、既存システムとの親和性などに大きな違いがあるため、用途ごとに選ばれており、一強は存在しない。
AI メモリ層:AIに「過去の文脈」を持たせる試み
AI メモリ層は、 AI が過去の会話、設計判断、前提知識を継続的に参照できるようにする仕組み である。
この分野では、まだ実験的なライブラリが多い。
- mem0:何を覚え、いつ忘れるかを抽象化したメモリ管理
- LangChain Memory:LangChain に組み込まれたメモリ機構
- LlamaIndex Memory:ドキュメントや履歴の構造化に強み
ただし、「どの情報を永続化すべきか」「どのタイミングで要約・削除するか」といった設計の正解はまだ定まっていない。有力候補はあるが、標準は未確定という段階だ。
AI ルール定義(CLAUDE.md など):AIに「チームの前提」を守らせる
一方で、比較的早く定着しつつあるのが AI ルール定義である。代表例が CLAUDE.md だ。
これは、「このリポジトリで AI はどう振る舞うべきか」を自然文で書いたルールファイル というシンプルな仕組みである。
この分野では、他にも AGENTS.md(OpenAI / Codex 系ツール向け)、**.cursorrules(Cursor 向けルール定義)などもあり、AI にプロジェクトの暗黙知を明示する**という運用が広がっている。
特別なツールを必要とせず、Git 管理もしやすいため、「まずはルールファイルを置く」という形が事実上のデファクトになりつつある。
モデル競争の現在地:OpenAI一強時代は終わりつつある
モデル提供者の動向を見ると、
- OpenAI は依然として最大手
- Anthropic 系 SDK は急成長
- Google 系モデルはやや苦戦
という構図が見える。
ここで重要なのは、「一番賢いモデル」ではなく「開発フローに自然に組み込めるモデル」が選ばれている 点である。
CLI との相性、ルール定義のしやすさ、チームでの再現性といった 開発体験(DX) が、モデル選定の大きな判断軸になっている。
まとめ:AI時代、エンジニアの価値はどこにあるのか
「State of AI Coding 2025」が示しているのは、
- AI によって 書ける量は確実に増えた
- 同時に 設計・判断・レビューの重要性も増している
- AI コーディングは「魔法」ではなく 構成要素の組み合わせである
という現実だ。
AI はコードを書く仕事を奪うのではない。「何を書くべきかを決める責任」を、より強くエンジニアに突きつけている と言えるだろう。
詳しくは 「State of AI Coding 2025」 を参照していただきたい。