11月30日、Pete Warden氏が「I Know We’re in an AI Bubble Because Nobody Wants Me 😭」と題したブログ記事を公開し、海外で話題を呼んでいる。この記事では、AIバブルの過熱と、巨大なハードウェア投資と対照的にソフトウェア最適化への投資が顕著に不足しているという著者の問題意識について詳しく紹介されている。

以下に、その内容を紹介する。
■ 巨額のハードウェア投資と対照的な「MLインフラエンジニア不在」の現実
著者はこれまで、特にディープラーニング分野における最適化と高速化を自身のキャリアの軸としてきた。
著者が強い違和感を抱くのは、現在のAI市場が「GPU・データセンター・発電所」などの物理リソースには数千億ドル規模の投資を行いながら、効率化を担うソフトウェアエンジニアへの投資が著しく少ない点だ。
著者は自身でもスタートアップを立ち上げているが、市場からの需要は決して大きくないという。資金調達は容易ではなく、AI効率化を核にしたスタートアップが投資家から評価されにくい状況に直面している。2026年Q1にはキャッシュフロー黒字化の見込みだが、同種の企業が資金調達に成功する例は多くないと述べる。
■ 非合理な状況:GPU利用率は50%以下、それでも最適化には投資されない
記事では、以下の事実が指摘されている。
- GPU利用率は一般に50%を下回る
- 対話型アプリケーションではさらに低いことが多い(小さなバッチ、メモリ境界での律速など)
- 個人レベルでもNvidia純正より高速なカーネルを実装できる例が存在
(例:Scott Gray氏によるmaxasでの高速実装) - CPU推論でもコスト削減余地が大きい
つまり、巨大モデルの推論や学習にかかるコストは、ソフトウェア最適化によって大幅に削減できる余地があるにもかかわらず、その領域は資金がほとんど流れ込んでいない。
■ なぜ非効率な投資が続くのか:意思決定者の“シグナリング効果”
著者はこの現象を「シグナリング効果」で説明する。
- OpenAIなどはGPU購入量を“参入障壁”として提示し、覇権の正当性をアピールする。
- ハードウェア投資は管理が容易で、企業としても説明しやすい。
- 投資家も巨大プロジェクトに資金を投じる方が意思決定が簡単で、スタートアップ100社を精査するより心理的負担が小さい。
この構図はOpenAIに限らず、Oracle、Microsoftなど業界全体に見られ、ハードウェア投資の発表は株価にも好影響を与えるため、企業側のインセンティブも強い。
■ 著者の予測:このモデルは持続不可能、次は「安価なPC × オープンソース」の時代が来る
著者は、この投資構造は長く続かないと見る。
理由として、過去のドットコムバブルを例に挙げる。
当時、Sun Microsystemsの高価なワークステーションが“必須装備”とされていたが、Googleは安価なPCクラスタとオープンソースでスケールアウトの優位性を証明し、状況を一変させた。
著者は、現在のNvidiaの立ち位置が当時のSunに似ていると指摘し、次の数年で「安価なPC上で動くCPU推論 × オープンモデル」を採用するチャットボット企業が増えると予測する。
ただし、著者自身が2023年にも同様の予測をしており、その間にNvidiaの株価は4倍以上になったことから、「投資アドバイスとしては当てにしないでほしい」と自嘲気味に結んでいる。
詳細はI Know We’re in an AI Bubble Because Nobody Wants Me 😭を参照していただきたい。