10月28日、Anthropicが「Claude for Excel」と題した記事を公開した。この記事では、Excelブック全体(入れ子の数式やタブ間の依存関係を含む)を理解し、セル単位で根拠を示しながら説明や修正提案を行うAI機能「Claude for Excel」の研究プレビュー版ベータ提供について詳しく紹介されている。
Excelモデル全体を文脈として理解する
Claude for Excelの最大の特徴は、ワークブック全体を一つの文脈として解析できる点にある。特定のセルの値がどのような数式や前提に基づくかを自然言語で説明し、その根拠をセル単位で明示する。
たとえば、財務モデルの計算ロジックを理解する際、ユーザーは「この値はどの前提に依存しているのか」と尋ねるだけで、対応するセル・式・参照元が一覧化される。これにより、論理構造を追跡しながらモデルの妥当性を検証できる。
前提条件の更新と影響範囲の可視化
さらに、前提条件を一括で更新しても、数式や依存関係を保ったまま再計算が可能だ。
Claudeは変更箇所を自動でハイライトし、影響範囲を説明つきで提示するため、シナリオ分析や感度分析に適している。モデル全体を俯瞰しながら、変更がどの数式や指標に影響するかを可視化できる点が特徴だ。
エラー解析と修正提案
Claude for Excelは、エラー診断にも強い。#REF! や #VALUE!、循環参照といった不整合を数秒で特定し、その原因と修正方針を明確に説明する。モデル全体を壊さず、整合性を保ったまま修復できるよう誘導する点は、従来のExcelアドインとは異なる。
モデル構築とテンプレート活用
新規の財務モデルをゼロから構築する機能も備える。
ユーザーが要件を入力すると、Claudeがドラフトのモデル構造と基本計算式を自動生成し、テンプレートへのデータ流し込みも可能だ。既存テンプレートの構造やフォーマットを保持したまま、最新データで更新できるよう設計されている。
記事では、「Q3の売上予測を左右する前提は何か」「売上成長率を2%上げたときの終端価値への影響」「セルG145でNPV計算が#VALUE!になる理由」といった、実務での想定質問例も紹介されている。
設計思想:透明性・整合性・セキュリティ
Anthropicは本機能の設計思想として、次の3点を挙げている。
- 透明性:変更や説明内容がリアルタイムで可視化される。
- 整合性:Excelの数式やフォーマットを損なわない。
- セキュリティ:企業利用を前提としたコンプライアンス対応を備える。
これにより、単なるAIアシスタントではなく、「説明責任を持つモデル分析ツール」としての性格を持つことを強調している。
提供状況と制限事項
現在は研究プレビューとしてのベータ提供段階で、Max・Team・Enterpriseプランのユーザー1,000名を対象に順次展開されている。
出力には誤りが含まれる可能性があるため、対外提出物に反映する際にはレビューが推奨されている。
対応形式は .xlsx および .xlsm。
なお、現段階ではピボットテーブル、条件付き書式、データ検証、データテーブル、マクロやVBAといった高度機能には非対応であり、今後の対応が予定されている。
まとめ
Claude for Excelは、「スプレッドシートを読むAI」から「スプレッドシートと共に考えるAI」へという方向性を示している。
分析者が行っていた依存関係のトレースや感度分析を自動化し、論理の説明責任までAIが補助するという発想は、これまでのオフィスAIツールとは一線を画すものだ。
詳細はClaude for Excelの公式ページで確認できる。