10月21日、Ed Zitron氏が「This Is How Much Anthropic and Cursor Spend On Amazon Web Services」と題したブログ記事を公開し、話題を呼んでいる。この記事では、AnthropicとAIコーディングツールCursorのAWS支出実態と、その収益性や価格戦略への影響について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
概要
筆者は複数の関係者から入手した請求情報に基づき、AnthropicおよびCursorのAWS支出額を月次で示した。結論として、Anthropicは2025年9月までにAWSへ約$2.66B(約4,043億円)を支出し、同期間の推定売上$2.55B(約3,876億円)を上回ったと報告している。
2024年通年のAWS支出は約$1.359B(約2,066億円)であり、2024年の売上推定$0.4〜$0.6B(約608〜912億円)に対して少なくとも2倍強に達しているという位置づけである。
前提と留意点
- 示された数字はAWSへの実支払額(割引・クレジット適用後)である。
- 本稿はAWS分のみで、AnthropicはGoogle Cloudも利用している。GCP分の支出は不明であり、総コストはこれを上回る可能性が高い。
- 売上は各種報道の年率換算から月次に引き戻して比較しているため、精緻さに限界がある。
- 人件費や先払い(データセンター使用権など)といったその他費用は別途存在する。
AnthropicのAWS支出
2024年(合計約$1.359B ≒ 約2,066億円)
月 | 支出額(USD) | 円換算(概算) |
---|---|---|
1月 | $52.9M | 約286億円 |
2月 | $60.9M | 約309億円 |
3月 | $74.3M | 約377億円 |
4月 | $101.1M | 約514億円 |
5月 | $100.1M | 約505億円 |
6月 | $101.8M | 約518億円 |
7月 | $118.9M | 約605億円 |
8月 | $128.8M | 約644億円 |
9月 | $127.8M | 約638億円 |
10月 | $169.6M | 約861億円 |
11月 | $146.5M | 約745億円 |
12月 | $176.1M | 約896億円 |
分析:2024年の売上を上限側の$0.6B(約912億円)と仮定しても、AWS支出は売上の約226%に相当する。
2025年1〜9月(合計約$2.66B ≒ 約4,043億円)
月 | 支出額(USD) | 円換算(概算) |
---|---|---|
1月 | $188.5M | 約287億円 |
2月 | $181.2M | 約275億円 |
3月 | $240.3M | 約363億円 |
4月 | $221.6M | 約337億円 |
5月 | $286.7M | 約436億円 |
6月 | $321.4M | 約489億円 |
7月 | $323.2M | 約491億円 |
8月 | $383.7M | 約583億円 |
9月 | $518.9M | 約789億円 |
要点:2025年9月までのAWS支出$2.66B(約4,043億円)は、同期間の推定売上$2.55B(約3,876億円)を104%で上回る。
また、GCP支出がAWSの25〜100%存在すると仮定した場合、総コンピュート費はさらに増大し、売上を圧迫している構図が見える。
「Service Tiers」と価格の転嫁
Anthropicは2025年5月末にAPIドキュメントへService Tiers(Priority / Standard / Batch)を追加した。
Priority利用には前払的コミットメントが伴い、プロンプトキャッシュ書き込み時の課金係数(例:TTL 5分で×1.25、TTL 1時間で×2)が導入された。
キャッシュ依存度の高いAIコーディング製品にとって負担が大きく、結果的にコスト上昇が顧客へ転嫁されると論じられている。
CursorのAWS支出(2025年1〜9月 合計約$69.99M ≒ 約106億円)
※CursorはAnthropic等に直接支払いも行っており、以下はAWS分のみの概算。
月 | 支出額(USD) | 円換算(概算) |
---|---|---|
1月 | $1.459M | 約2.2億円 |
2月 | $2.47M | 約3.7億円 |
3月 | $4.39M | 約6.7億円 |
4月 | $4.74M | 約7.2億円 |
5月 | $6.19M | 約9.4億円 |
6月 | $12.67M | 約19.3億円 |
7月 | $15.5M | 約23.6億円 |
8月 | $9.67M | 約14.7億円 |
9月 | $12.91M | 約19.6億円 |
記事は、Anthropicの価格・レート制御変更がCursorのコスト爆発を招いた可能性を強く示唆し、さらにAnthropic自身が競合しうる「Claude Code」を同時期に展開している点を指摘している。
資本政策・収益構造への含意
- 売上の拡大とともにクラウドコストも線形的に増大し、売上1ドル当たりの取り分が細る傾向が見える。
- GCP分の支出が加わると総コストはさらに膨らみうる。
- 収益性確保の道筋は価格転嫁・レート制御強化に寄るが、ユーザー維持とのトレードオフが大きい。
可視化(記事中の図版)
未解決の問い
- Anthropicの残余コスト(AWS以外のクラウド、人件費、前払費用など)の内訳はどこに向かっているのか。
- 売上が伸びるほど基盤コストも増える構造の中で、どのようにキャッシュバーンを止めるのか。
総括
結局のところ、生成AIビジネスの収益性はクラウドコストに強く拘束されるというのが実態である。Anthropicは2025年に入り売上規模を大きく伸ばしているが、AWSへの支出がこれを食い潰す構図が続いている。
GCP分を含めた全体像次第では、さらに厳しい損益が示唆される。
価格・レート制御の強化は収益改善策になり得る一方、主要顧客(Cursorなど)のコスト膨張と利用者負担増を招き、エコシステム全体の持続性に負の圧力を与える可能性があると結んでいる。
換算注記:本稿の円換算はすべて概算であり、レートは執筆時点(2025年10月22日)の市場実勢に基づく(例:1USD≒151.9〜152.0JPY)。
詳細はThis Is How Much Anthropic and Cursor Spend On Amazon Web Servicesを参照していただきたい。