10月19日、THE DECODERが「Leading OpenAI researcher announced a GPT-5 math breakthrough that never happened」と題した記事を公開した。この記事では、OpenAIの研究者がGPT-5による数学的ブレークスルーを誤って発表し、批判を受けて撤回した騒動について詳しく紹介されている。
以下に、その内容を紹介する。

GPT-5が「未解決問題を解いた」と発表、しかし誤解だった
発端は、OpenAIの幹部ケヴィン・ワイル(Kevin Weil)による削除済みの投稿だった。
彼はX(旧Twitter)上で「GPT-5が、これまで未解決とされてきたエルデシュ問題(Erdős problems)10件を解決し、さらに11件で進展を見せた」と発表した。
これに他のOpenAI研究者も同調し、まるでGPT-5が独自に高度な数学的証明を導き出したかのような印象を与えた。
注釈:エルデシュ問題(Erdős problems)とは?
20世紀を代表する数学者ポール・エルデシュ(Paul Erdős, 1913–1996)が提起した、数論・組合せ論・確率論などに関する多数の未解決問題群の総称。
これらは「簡潔に書けるが、解くのは非常に難しい」ことで知られ、数学界の難問として多くの研究者を魅了してきた。
エルデシュは各問題に懸賞金(1ドル〜1万ドル)をかけたことでも有名で、これらの問題集は現在も数学の挑戦リストとして受け継がれている。
しかしこの主張は、すぐに数学界からの反論を招いた。
数学者トーマス・ブルーム(Thomas Bloom)は、自身が運営するerdosproblems.comに掲載していた問題群が「未解決」とされていたのは、「自分がその解法を知らなかっただけ」であり、実際にはすでに研究コミュニティで解かれているものだったと説明した。
つまり、GPT-5は未解決問題を解いたわけではなく、既存の研究を発見したにすぎなかった。
DeepMindとMetaの研究者も批判
DeepMindのCEOであるデミス・ハサビス(Demis Hassabis)はこの件を「恥ずべき誤報」と批判。
さらにMetaのチーフAIサイエンティスト、ヤン・ルカン(Yann LeCun)は「OpenAIは自らの誇大宣伝に酔っている」と指摘し、X上で「Hoisted by their own GPTards(自分たちのGPTに吊るし上げられた)」と辛辣にコメントした。
この一連の投稿はすぐに削除され、関係したOpenAI研究者らは誤解を認めて訂正を行った。
しかし、この騒動はOpenAIが急成長と注目の中でプレッシャーにさらされ、検証よりも話題性を優先してしまう傾向を露呈したものとして波紋を呼んでいる。
実際の価値は「文献探索支援」にあり
本件の本質は、GPT-5が未解決問題を解いたという誤報ではなく、研究支援ツールとしての有用性にあるとされている。
GPT-5は、広範に散らばった学術論文を検索・照合する補助として役立った。特に、問題ごとに異なる表記や用語が使われている数学分野では、文献探索を効率化する力がある。
著名な数学者テレンス・タオ(Terence Tao)も、AIの当面の価値は「難問を解くこと」ではなく「研究の下支え」にあると述べている。
彼は、生成AIが数学を「産業化」し、研究速度を飛躍的に高める可能性を評価しているが、同時に「人間の専門家による検証と分類が不可欠」であると強調した。
まとめ
- OpenAIの研究者らは、GPT-5が未解決の数学問題を解いたと発表したが、実際には既知の研究を再発見しただけだった。
- この誤報に対して、数学者トーマス・ブルームやDeepMind CEOデミス・ハサビスらが強く批判した。
- GPT-5の真価は、数学的洞察の創出ではなく、研究者が文献を探索・整理するための補助ツールとしての活用にある。
詳細はLeading OpenAI researcher announced a GPT-5 math breakthrough that never happenedを参照していただきたい。