本連載は、「 エキスパートへの道しるべ(Load to Expert) 」をテーマとして、初級者がエキスパートになるためのヒントを、日本を代表するエキスパートの方々に伺う企画です。
近年、クラウドネイティブという概念がソフトウェア開発の中心に据えられるようになってきました。クラウド上で大規模サービスを運用するための基盤技術として注目される一方、初学者からすると「どこから手をつければいいのかわからない」と感じる場面も多いかもしれません。
本記事では、サイバーエージェントに所属しながらマネージドKubernetesサービスのプロダクトオーナーを務め、複数の技術顧問を兼務する青山真也さんへのインタビューをお届けします。クラウドネイティブ領域におけるエキスパートとして活躍される背景や学習の流れ、さらに最新の注目トピックやコミュニティとの関わり方までを詳しく伺いました。
(本インタビューは2025年3月17日に実施されました)

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クラウドネイティブ技術の特徴と魅力
――まずは簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。
青山: はい、サイバーエージェントに所属している青山と申します。社内ではマネージドKubernetesサービスのプロダクトオーナーを担当しておりまして、その他にもいくつかの企業の技術顧問として関わっています。
クラウドネイティブ全般を強みとしていまして、コンテナやKubernetesを中心とした基盤の設計・開発・運用について、アーキテクトの立場で日々活動しています。サイバーエージェントにはデベロッパーエキスパート制度というものがありまして、そちらにも認定されています。
また、日本最大級のクラウドネイティブ関連カンファレンスであるCloudNative Daysで、co-chair(共同議長)を10年ほど務めてきました。今年開催されたKubeConというグローバルイベントが日本に初上陸した際にも、co-chairに任命していただきました。
――クラウドネイティブ技術の概要と魅力について教えて下さい。
青山: クラウドネイティブはもともとコンテナ技術や分散システムのアイデアから始まっていて、Kubernetesが象徴的な役割を果たしています。ですが、実際にはそれだけに留まりません。
CI/CDやネットワーキング、オブザーバビリティー、セキュリティーなどの様々なトピックを包含していて、現代のアプリケーションやサービスを実行する基盤としても当然ながら、ビジネス的な優位性を確保するためにも、非常に重要な技術領域です。
Kubernetesそのものも、ただコンテナを管理するだけの仕組みではありません。宣言的APIとリコンサイルループという、非常に強力な仕組みによって、安定性と拡張性を両立しています。
※CI/CD:ソフトウェア開発を高速化するため、ビルドやインテグレート、テストなどを自動化し、すぐに本番環境にリリース可能な状態にする手法のことです。
※リコンサイルループ(Reconciliation Loop):あるべき理想の状態へと収束する機能。Kubernetesではコントローラーにより自動的に処理がされるが、その時にコントローラー内で行われているループ処理のこと。Observe(現状を確認)、Diff(理想と現実の差分を計算)、Act(差分に対する処理を実行)という処理が繰り返し行われている。具体的には、クラスタの状態を見ながら、コンテナが作成されたり削除されたり、ロードバランサーの管理がされたり、多岐に渡る処理が行われる。
クラウドネイティブを学ぶ過程と初学者へのアドバイス
――青山さんがエキスパートになるまでに心がけてきたことを教えて下さい。
青山: クラウドネイティブ自体は、非常にふわっとしている領域で、しかも日々進化していて、新しい技術や手法がどんどん出てきます。新しい概念や手法、OSSに関しては、出てきたら積極的に試すということを重視してきたかなと思います。
――青山さんが初学者だった頃は、どのように学んでこられたのでしょうか。
青山: 自分の興味があるものをとりあえず動かしてみるというところをスタートにしています。
そもそもクラウドネイティブの考え方自体に、開発者体験を良くするという考え方が根底に含まれているので、そのもの自体も試しやすいようになっているんです。コンテナ化も既にされているので、まずはインストールコマンドを打つだけで、サービスがデプロイされて使える状態になって出てきます。
なので、まずは実際に試してみるっていうのをファーストステップにしてきましたね。「どう動くのか」っていうのを知った後に、ドキュメントや、それが元々何をするためのものなのかというのを見てみたほうが、ピンと来やすいかなという気がしています。
――クラウドネイティブは今やとても広い概念だとのことですが、青山さんはどこから始められたのでしょうか。
青山: 私はコンテナを最初に学び、ほぼ同じくらいのタイミングでKubernetesを勉強しました。コンテナ系だと、メジャーなのはDockerですね。この2つはクラウドネイティブ領域のまさに中心にある技術なので、避けては通れない部分です。まずはDockerとKubernetesを学ぶのが間違いないと思います。
情報収集のポイントと役立つ学習リソース
――初学者におすすめの勉強方法や、学習する上でのやる気を持続させるコツなどはありますか。
青山: クラウドネイティブ領域は分野としては中々広かったりもするので、まずはカンファレンスや勉強会などに参加して、自分が気になるトピックを見つけるということを、まずファーストステップにしていくのがいいんじゃないかと思いますね。モチベーションが上がりそうなもの、自分が興味あるところを見つけるのが重要かなと思います。
色々軸はあると思うんですが、シンプルに自分が技術的に面白そう、楽しそうみたいなものを見つけるのでもいいですし、「こういう機能をうちのプロダクトに取り入れたら面白そう」「これなら業務に役立ちそう」という、そういうベースで新しい技術を探すっていうのも個人的にはいいかなと思っています。新しい手法やプロダクトが出てきたときに、自分たちに生かせると、事業的にも会社的にもメリットがあると思うんですよね。そうなると評価もされやすいので、個人的には結構いいかなと思っています。
――クラウドネイティブ領域は新しいニュースが次々に出てきますが、どうやって情報をキャッチアップしているのでしょうか。
青山: カンファレンスや勉強会がまず大きな情報源になります。大きなカンファレンスの場合、プロポーザルを出して選考のフェーズが入るため、より厳選されたトピックや、まだ未発表の情報が選ばれる率が高く、良質な情報を収集するのに非常に効率が良いです。
勉強会であれば、実際に足を運べなかったとしても、登壇資料やアーカイブ動画が公開されていることも多いため、そういったものにも目を通すようにしています。
それ以外では、SNS、特にXで流れてくる発言やブログ記事などから拾い上げています。おすすめのリストアップは大変なのですが、私はクラウドネイティブ技術のキャッチアップや、発信している人を中心にフォローしているので、私のフォロー先などを見ていただくのが一番手っ取り早いかもしれません。
――初心者向けに「ここは見ておくべき」といった具体的なサイトやドキュメントはありますか。
青山: クラウドネイティブ関連の主要なOSS、たとえばKubernetesやOpenTelemetryなどは公式ドキュメントが非常に充実しているので、まずはそこを参照するのがいいと思います。実際の導入手順やサンプルコードまで載っているケースが多いので、学習にはぴったりです。
完全な初心者に向けては、サイトやアカウントを確認するより、書籍を読んでいただくのが一番だと思います。公式ドキュメントをかいつまんで体系化し、分かりやすくしたのが書籍という認識でいますね。

クラウドネイティブ界隈の最新トピックと今後の展望
――クラウドネイティブ領域で青山さんが現在注目しているトピックを教えてください。
青山: (本インタビューの2025年3月17日実施時点では)大きく三つあります。まず一つ目はOpenTelemetryです。メトリクスやログ、トレース、そして最近ではプロファイルまでを一貫して扱えるようにするための標準化プロジェクトで、現在メトリクスの仕様やプロトコルが飛躍的に充実してきています。
OpenTelemetryからは少し離れるんですが、Prometheus側でデータを転送するためのプロトコルであるPrometheus Remote-Writeがメジャーアップデートを行い、2.0が出てきました。また、メトリクスの仕様でOpenMetrics2.0も出てきていて、そのあたりとOpenTelemetryの持つOTLPというプロトコルとの共存が今後どうなっていくのだろうか、というところは特に注目して見ています。
二つ目はマルチクラスタ領域です。プラットフォームエンジニアリングの文脈でマルチクラスタ関連を注視していますが、kcpやmulticluster-runtimeなど、複数のクラスターをより効率的に扱う仕組みがかなり整備されてきました。
三つ目はeBPFやWebAssemblyなどのランタイム系技術になります。Kubernetesや、Kubernetesをベースとしたプラットフォームとのインテグレーションが進むことで、より効率的な運用ができるようになるのではないかといったところに興味を持っています。
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初心者の方々に向けたメッセージ
――お話をお伺いしていると、クラウドネイティブの裾野がどんどん広がっていくことを感じさせられます。最後に、これからクラウドネイティブを学ぼうと考えている読者に向けてメッセージをお願いします。
青山: クラウドネイティブ領域はコミュニティ活動がとても盛んで、いろいろなOSSや概念がオープンに議論されながら成長しているところが魅力です。ぜひ初心者のうちからコミュニティや勉強会に飛び込んでみてください。コミュニティで運営しているSlackなどもあるので気軽に交流はできると思いますし、質問を投げると、誰かが親切に答えてくれることが多い世界だと思います。是非コミュニティで交流しながら、一緒に学びあい、事業や組織をよくしていく、というところに注力していただけたらな、と思っております。
――本日は貴重なお話をありがとうございました。
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