本連載は、「 エキスパートへの道しるべ(Load to Expert) 」をテーマとして、初級者がエキスパートになるためのヒントを、日本を代表するエキスパートの方々に伺う企画です。
XR(VR/AR/MR)という言葉が日常的に語られるようになって久しいですが、現場ではどのような進化が起こり、どのような技術が求められているのでしょうか。その答えを探るため、今回はXR技術の最前線を追い続け、WebXRの分野でも豊富な知見を持つikkouさんにインタビューを行いました。
本記事では、XR技術の現在地とその魅力、学習方法、情報収集の工夫、さらに今後の展望についても深掘りします。
(本インタビューは2025年3月25日に実施されました)

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XRとは何か、そして今どこにいるのか?
――自己紹介をお願いします。
ikkou: ikkouと申します。X(旧Twitter)などでは@ikkouというアカウントで活動しています。技術領域としては VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)を含むXR技術全体 を扱っていて、「xR Tech Tokyo」という開発者向けコミュニティの運営も行っています。
――近年のXR業界の流れについて教えてください。
ikkou: VRは、かつては視界を完全に覆うデバイスで仮想世界に没入する形式が主流でした。しかし最近では、カメラを搭載して現実の映像を取り込む MR(Mixed Reality)デバイスが一般化 しています。
特に注目なのは、Appleの「Vision Pro」の登場です。Appleがこの領域に本格参入したことで、市場の動きが一気に活性化しました。加えて、Googleも「Android XR」の名称で再始動を図っており、2025年は業界的にも転換点になると見ています。
ただし、これらが一般ユーザーの手に届くレベルまで普及するには、あと2〜3年はかかるかもしれません。今は、まさに 地盤を固めるフェーズ だと感じています。
XRの魅力とは何か?なぜ惹かれたのか?
――XRに惹かれたきっかけは何だったのでしょうか?
ikkou: もともとはWebフロントエンドエンジニアとして活動していました。HTML5系のイベントで「 WebVR 」に関心を持ち始めたのが最初です。特にThree.jsを用いたVR表現を見て、「WebとVRが結びつくのか!」と衝撃を受けました。
その後、 WebXR としてARにも対応するようになり、この分野全体に深く関わるようになりました。技術の進化が早く、ハードウェアとソフトウェアの両方が絡むため、ガジェット好きな人にはたまらない領域ですね。
――WebXRとネイティブXRの違いについても教えてください。
ikkou: まず 開発文化が完全に分かれている と言っていいかもしれません。
WebXRはJavaScriptを中心に、ブラウザ上で完結する開発が主 です。これに対し、 ネイティブXRはUnityやUnrealを用い、アプリとしてビルド・配布することが前提 です。使う言語やエコシステムがまったく異なるため、両者を横断できるエンジニアは実はあまり多くありません。
私はWebXRを中心に活動していますが、ネイティブ側も触れるようにはしています。とはいえ、やはり「餅は餅屋」だと思っていますので、その道の専門家との共同作業を重視しています。
エキスパートになるために必要だった技術と学び
――XRのエキスパートになるには、どんなスキルが必要ですか?
ikkou: よく「 XRは総合格闘技 」と言われます。
開発に使われるツールも多様です。例えばネイティブアプリでは Unity (C#)や Unreal Engine 、Webなら Three.js 、 Babylon.js 、 A-Frame 、3Dモデリングには Blender などがよく用いられます。
どのツールを使うかは、何を作るか次第です。私はWeb技術から入ったので、WebXR領域が強みですが、Unityでの開発や3Dモデルの扱いにもある程度は慣れました。
また、ネットワーク通信、ストアへのアプリ配信、ネイティブビルドなど、プロジェクトによっては必要なスキルが広がります。ただ、すべてを一人でカバーする必要はありません。 得意な分野を持ちつつ、他と連携する というのが現実的なスタイルです。

情報収集と学習法 ――AI時代の学び方
――情報収集はどうされていますか?
ikkou: SNS(特にX)でのアカウントフォローは基本です。 日本国内だけでなく、海外のXR関連アカウントも積極的に追っています。英語の情報が一次ソースであることが多いので、言語の壁は超えた方がいいですね。
また、メディアとしては次のようなものをよく見ています:
日本: Mogura VR
海外: Road to VR、UploadVR、The Verge
さらに、 RSS+AI要約 の組み合わせで効率よくチェックしています。プロダクトの情報はプレスリリースで得ることが多く、体験可能な展示があれば、すぐにカレンダーに入れて現地で試すようにしています。
――学習方法としてはどうでしょう?
ikkou: 最近では AIを活用するのが現実的 です。ChatGPTなどに3Dモデルやコードを書かせ、それをベースに学ぶという流れが当たり前になりつつあります。
たとえば、「ロゴが回転している3Dモデルを作って」とAIに頼むと、three.jsやBabylon.jsでベースコードを作ってくれます。そこから自分で改良したり、背景や演出を追加していくのが今のスタイルです。
もちろん、 AI任せにせず、自分で検証・判断する能力は不可欠 です。
今注目しているトピック3選
――XR以外で注目している技術はありますか?
ikkou: はい、3つほどあります。
まずひとつ目は AIを活用した開発スタイル です。かつては10年かけて蓄積してきた知識が、今ではAIによって一瞬で提供される時代です。この変化にどう対応するかが重要であり、課金できる人が先に進むという格差も感じています。
2つ目は 分割・自作キーボード 。健康面の改善や、生産性向上にもつながる分野です。また、XRにおける文字入力にも新しい可能性を感じており、キーボードを接続することでより快適な体験が実現できます。
3つ目は ジェネラティブアート(※)とXR のかけ合わせです。WebGLなどを使ってリアルタイムで生成される映像表現(VJ)は、XR空間と非常に相性が良いと感じています。
※ジェネラティブアート:コンピュータのアルゴリズムや数学的手法などを用いて、自動的に生成するアート作品
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初学者に向けたメッセージ
――最後に、これからXRを学びたい人へ一言お願いします。
ikkou: XRを学ぶには時間とお金の投資が必要 です。特にデバイスの購入にはコストがかかりますし、家庭やプライベートとのバランスを取る必要もあります。
それでも、 「犠牲を払ってでもやりたいと思える“好き”の気持ち」があれば、大体のことは乗り越えられます。 これに尽きますね。
参考リンク集
- ikkou(Xアカウント)
- xR Tech Tokyo
- three.js(WebGLライブラリ)
- Babylon.js
- A-Frame
- Blender(3Dモデリングツール)
- Apple Vision Pro
- Mogura VR
- Road to VR
- UploadVR
- The Verge
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