本連載は、「 エキスパートへの道しるべ(Load to Expert) 」をテーマとして、初級者がエキスパートになるためのヒントを、日本を代表するエキスパートの方々に伺う企画です。
モノとインターネットをつなげる「IoT(Internet of Things)」は、現実世界をハックする魅力的な技術領域です。本記事では、10年以上にわたってIoTコミュニティ「IoTLT」を主宰し、WebエンジニアからIoT分野に飛び込んだのびすけさんへのインタビューを通じて、IoTの概要と魅力、ハードウェア技術の進化、初学者のための学習方法、さらには注目トピックについて深掘りしていきます。

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自己紹介とIoTへの入り口
――では簡単に自己紹介をお願いします。
のびすけ: はい、IoTLTというIoTに関する技術コミュニティを10年ほど続けています。元々はWebエンジニアだったんですが、ハードウェアを触るのが面白いと思って、IoTの世界に入りました。 周囲にやっている人が少なかったので、自分で仲間を集めようとコミュニティを立ち上げた のが始まりです。
――WebエンジニアからIoTに。かなりジャンルが異なりますね。
のびすけ: そうですね。でも、ソフトウェアだけでは物理的な世界を動かせない。IoTは、アプリやWebから現実世界に影響を与える技術なんです。センサーやモーターを使って、 現実世界を「ハック」できる感覚がすごく魅力的でした。
IoTの概要と魅力
――IoTとは具体的にどのような技術領域なのでしょうか?
のびすけ: 「IoT(Internet of Things)」という言葉自体は、元々は誰かがメモに書いたのが誤解されたまま広まったという噂もあるんですが、 基本的には“モノをインターネットにつなぐ”という発想 ですね。ハードウェア(センサーやマイコンボード)、ネットワーク(Wi-FiやBluetoothなど)、ソフトウェア(クラウドやアプリ)が融合した分野です。
――その魅力とは?
のびすけ: 個人的にはやはり「 現実世界にアクセスできる 」ことですね。Webやアプリの世界だけでは見えない、物理的なデータを取ったり、物を動かしたりできる。それが表現の幅を広げてくれるんです。LEDを光らせたり、温湿度を測ったり、通知を送ったり。できることがすごく広がります。
近年のIoTデバイスとハードウェア事情
――IoTというと、最近ではどんなデバイスやプラットフォームが主流になっているのでしょう?
のびすけ: そうですね、9年ほど前に登場したESP32(※)というマイコンボードの登場が大きかったです。Wi-FiとBluetoothに対応していて、小型で安価、しかも日本の技適(技術基準適合証明)にも対応しているという、非常にバランスの良いデバイスです。
※ESP32:Wi-FiやBluetoothが使える小型のマイコンボード。Arduinoの後継的な存在として、IoT開発で人気。
――ESP32がベースになっている製品も多いんですか?
のびすけ: そうなんです。たとえばM5Stack(※)というシリーズは、ESP32をベースにした外装付きモジュールで、ブロックのように積み上げて拡張できるんです。
※M5Stack:ESP32をベースにしたIoT開発向けモジュールシリーズ。センサーやディスプレイ、ボタンなどを積み重ねて拡張可能。
――IoT関連での最近のトレンドについて教えて下さい。
のびすけ: ここ1〜2年で注目されているのは、 ローカルLLM(大規模言語モデル)(※)をマイコンボード上で動かす 動きですね。たとえばNVIDIAのJetsonや、M5StackにLLMモジュールを載せたものも登場していて、AIとIoTの融合が進んでいます。
※ローカルLLM:ChatGPTのような大規模言語モデルをクラウドではなく、ローカルの端末上で実行する技術。エッジAIとして注目。
エキスパートが語る、IoT初学者におすすめの学習方法
――これからIoTを始めたい初学者は、どこから始めれば良いのでしょう?
のびすけ: まずは自分が「何をしたいか」が大事で、それによって変わります。LEDを光らせたいとかならまずはArduinoからが良いかと思います。たくさん書籍やキットがあるのでソフトウェア系のエンジニアの方なら入門しやすいと思います。。
エンジニアなどではない方であれば、ブロックプログラム環境からスタートでき、子供向けの教材としても使われるmicro:bitから入ってみるのもオススメです。
ただ「ネット経由で通知を送る」とか、「LINEにメッセージを送る」みたいなことがやりたいなら、obniz(オブナイズ)がオススメです。これは、Webブラウザ上で制御できて、最初からインターネットに接続する前提で作られているので、学習コストが下がります。
※obniz:JavaScriptで制御できるIoTプラットフォーム。ハードとクラウドが統合されており、初心者でもWebから簡単に操作可能。
――のびすけさんご自身は、どうやってIoTを学ばれたのでしょう?
のびすけ: 最初は本当に何も知らなくて。でも、面白そうだからやってみた。それでイベントを立てて、ライトニングトーク(LT)(※)で発表してみたんです。すると詳しい人たちが教えてくれて。僕はずっと「初心者です」って言いながらやってたら、だんだん人が集まってきて、コミュニティができていきました。
※ライトニングトーク(LT):短時間(5分程度)でプレゼンを行う形式の発表会。技術コミュニティでは頻繁に開催される。

初心者におすすめの学習リソース
――初心者が使える学習リソースがあれば、教えてください。
のびすけ: いくつかありますね。たとえば
- IoTLTのYouTubeチャンネルには過去のLT動画がたくさんあります。
- プロトペディアには、いろんなIoT作品が載っていてインスピレーションが湧きます。
- エルチカというサイトは、電子工作に特化したQiitaのような投稿サイトです。
- あと、困ったらX(旧Twitter)で #iotlt タグを検索して、界隈の人をフォローするのもおすすめです。
注目している最新トピック
――最近の注目トピックがあれば、教えてください。
のびすけ: まず1つはやっぱり「 ローカルLLM 」ですね。特にM5StackのLLMモジュールや、Raspberry Pi(※)上で小型版のLLaMA(※)のようなモデルを動作させる取り組みなどにはとても興味があります。音声UI(VUI)やカメラなどと連携して、家庭内のデバイスに組み込む未来を感じています。
※Raspberry Pi:小型のシングルボードコンピュータ。Linuxが動作し、IoTや教育、プロトタイピングに多用される。
※LLaMA(ラマ):Meta社(旧Facebook)が開発した、オープンソースの大規模言語モデル(LLM)
のびすけ: もう一つは エッジカメラ領域 が気になっています。IoTなどは現実世界のセンシングが面白いと思ってますが、セキュリティやプライバシー、帯域やストレージ容量など気にしないといけないところが多く、個人では触りにくい印象でした。
SonyのAITRIOSはエッジ側でカメラで撮影した画像をパラメータ化してクラウドに送ってくれたり、SeeedさんのreCameraはエッジ側でプログラム可能なカメラデバイスだったりと個人でも触りやすいデバイスや環境が整ってきていますね。
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初学者へのメッセージ
――最後に、IoTに興味を持っている初学者へメッセージをお願いします。
のびすけ: IoTは、うまくいかないことも多いです。電源が足りない、ネットに繋がらない、ドライバが認識しない。でも、それはみんなが通る道です。
だからこそ、 「『動かなかった』という記録」を残すことはすごく大事 だし、わからないことは人に聞いていい。コミュニティに飛び込めば、助けてくれる人はたくさんいます。 怖がらずに、まずは1個、LEDを光らせてみてください。 そこから世界が広がります。
参考リンク集
- IoTLT公式サイト(connpass)
- IoTLT YouTubeチャンネル
- obniz公式サイト
- プロトペディア
- エルチカ(elchika)
- M5Stack 公式
- Raspberry Pi公式
- Meta LLaMAモデル
- のびすけさん(X / Twitter)
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