本連載は、「 エキスパートへの道しるべ(Load to Expert) 」をテーマとして、初級者がエキスパートになるためのヒントを、日本を代表するエキスパートの方々に伺う企画です。
Googleが主導するフロントエンドフレームワークとして長く進化を続けるAngular。TypeScriptを活用し、堅牢な実装と最新のアーキテクチャを備え、企業の大規模開発にも個人の学習にも適した柔軟性と安定性を誇っています。本記事では、Google Developer ExpertとしてAngularに精通し、日本のコミュニティを率いるlacolacoさんに、Angularの概要や学習法、情報収集のポイント、そしてこれから始める人へのメッセージをお聞きしました。

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エキスパートが語るAngularの概要と魅力
――まずは簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか?
lacolaco: インターネット上ではlacolacoと名乗っています。現在、Classi株式会社でフロントエンドエンジニアとして活動しており、Googleから「Google Developer Expert」の認定を受けています。また、Angular日本ユーザー会の代表も務めています。
GitHub上では、Angular関連のオープンソースプロジェクトにパッチを送付したり、翻訳プロジェクトに携わったりしています。また、個人的な活動としてポッドキャストも運営しています。
――Angularという技術の概要と魅力について、詳しく教えてください。
lacolaco: Angularは、Googleがメインで開発しているオープンソースのWebフレームワークです。 主にWebフロントエンドのアプリケーション開発、特にシングルページアプリケーション(SPA)の構築に非常に適していますが、最近ではサーバーサイドレンダリング(SSR)の機能も強化されており、SPAに限定されない柔軟性も備えています。
Angularの最大の特徴は、TypeScriptをベースとした開発環境で、クラスベースのコーディングに高い親和性があります。Java、C#などで使われている一般的なプログラミング手法をそのまま適用できるのが大きな利点です。
実際Google Gemini、Googleアナリティクス、Googleクラウドの管理画面など、多くのGoogleサービスでAngularが採用されています。 これは、フレームワークの信頼性と実用性を示す何よりの証といえるでしょう。
――lacolacoさんはAngularのどういったところに惹かれたのか、理由を教えてください。
lacolaco: Angularに限らず、Web技術やTypeScript、JavaScriptなど、歴史のある技術に魅力を感じるたちなんです。 人類の歴史からすると短いですけど、ソフトウェアの歴史からするとまあまあ長い。
Angularは今年で約10年、AngularJSの時代を含めると実に15年の歴史があります。この長い期間、一貫した思想もあれば、時代に合わせて変わってきた部分もあります。そういう変化も、長いスパンで追っていくと大きな流れが見えてくる。その辺が魅力だ、面白いなと思って追いかけています。
Angularエキスパートが語る、初心者からエキスパートへの道のり
――初心者の方々へ、効果的な学習方法についてアドバイスをお願いします。
lacolaco: Angularというフレームワークをただ使うだけならそんなに難しくないと思っています。まずは触ってみるということがいいと思います。
あとはドキュメントや動画など、公式が発信している一次情報を確認することをオススメします。僕が書くブログのような二次情報は、一次情報の補足に使うのがいいのではないでしょうか。
最近だとAngularも公式サイトの中で、チュートリアルとか、ドキュメンテーションもかなり充実してきたので、それを丁寧に読んで写経したり、手元で動かしながら試していけば、つまずくことはあまりないかなと思っています。
――では、もしそこから一歩踏み込んで、エキスパートと呼ばれるぐらいに詳しくなりたい場合はどうしたらいいでしょうか?
lacolaco: エキスパートは単に深い知識を持っているだけではなく、周囲から「その分野に精通している」と認められる必要があると思います。そういう意味でいうと、 発信することの意義は非常に大きい と思っています。
私の場合、技術カンファレンスでの登壇や技術ブログの執筆などを継続的に行ってきました。そういった活動を通じて、周りからの評価が「Angularに詳しい人」となっていったのではないかと思います。
実際には、僕より詳しい人はたくさんいるかもしれません。でも、 知識があるだけではなく、自分の知見を発信していくというところがセットになっている 点で、エキスパートとして認められているじゃないかと思います。
また、エキスパートを目指すのであれば、 「どうして動いているのか?」という仕組みは分かっておきたい ですね。そのためには、フレームワーク自体のコードを読むといいと思います。
僕自身もAngularに限らず、「大体の動きは知っているけど、どういうふうに作られているんだろう?」っていう疑問からソースコードを読みに行くことで、どんどん引き出しが増えていきました。中の仕組みを理解することで、他の使い方も模索できるようになり、その結果、応用が利くようになったり、知識の幅が広がっていきます。
なので、まずはフレームワークとして普通に使いつつ、この動きはどうやって実現されているんだろうっていうような視点で、ソースコードを読みに行くといい のではないでしょうか。

Angularエキスパートはどう情報収集しているのか
――技術情報をどのように収集していますか?
lacolaco: 僕は基本的に、一次情報をメインに収集しています。 一番信頼しているのはGitHub上でのコミットやリリースの情報 ですね。そういったものはRSSフィードで読んでいることが多いです。後は海外のエキスパートのブログとかが出てきたら、たまに読むという感じです。
――そういった情報は、Xとかで収集していらっしゃる感じですか?
lacolaco: 僕の場合、必ず読むブログなどはRSSで購読しています。SNSで拾うとしたら、Angularと関係ない周辺の話題についてですね。例えばTypeScriptの話題とか、Chromeに新しい機能がついたとか、そういった話題に関してはあまりアンテナが定まっていないので、流れてきたものはなるべく目を通すようにしています。
――もし学習用とか情報収集用にみておくべきサイトやアカウントがあれば、教えていただきたいです。
lacolaco: 僕の場合Angularですけど、もし学びたいと思っているライブラリや、フレームワークのような技術があったら、そのリリースノート(例: Angular v20のリリースノート)は絶対に見るようにしたほうがいいと思います。
1回見るだけだと、差分しか載っていないのであんまり意味がないんですが、ただ、継続して読んでいくと、差分の意味が分かってきて、そこから流れが見えてきます。そうすると、点ではなく流れで進化の方向性を掴めるようになってくる。
フレームワークは時代とともに変化していくので、フレームワークの進化を追うことは、時代の変化を追うことに繋がります。そういう意味で、継続して出てくるリリースノートはとても重要だと考えています。
同じような理由で継続性のあるものを僕は結構好んでいて、JSer.infoも毎週の見出しだけでも見ておけば、なんとなくの業界の流れ、動きがわかります。
海外のものだと、Frontend Focusっていうメールニュースフィードのサイトを僕はよく見ています。これも毎週新しいニュースがまとめて上がってくるのでおすすめです。
注目の最先端 - 今後のWeb技術のトレンド
――現在、最も注目しているトピックについて教えて下さい。
lacolaco: 現在、2つの大きな技術トレンドに注目しています。1つは、 HTMLとCSSの進化による「脱JavaScript」の流れ です。popover要素、dialog要素のように、HTMLだけで表現できることが増えました。最近もボタンやクリックで何か別のことをする、 command属性やcommandfor属性 のような新しい機能がHTMLに入っています。
あとはCSSだけで関数を書いたりif文が書けるようになったりと、JavaScriptなしで、複雑なものを書けるようになってきました。Tailwind CSSなども、設定ファイルがJSファイルからCSSファイルに変わったりしていて、脱JavaScriptの流れを感じています。
もう1つは、 ブラウザに組み込まれるAI技術 です。去年の2024年のGoogleI/Oで発表された、ChromeにAI(Gemini)を乗っけるよっていう話がありました。そこから一年以上経って、そろそろ大きな動きが出てくるんじゃないかと楽しみにしています。
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これからAngularを学ぼうとする方々へのメッセージ
――最後に、これからAngularを学ぼうとする方々へメッセージをお願いします。
lacolaco: Angularは10年以上の歴史を持つ、安定性と信頼性の高いフレームワークで、これからも技術としては続いていくでしょう。
その10年の間に、フロントエンド技術も大きく進化してきました。そうした全体的な進化の文脈の中で Angularがどのように適応してきたのか、その全体像を捉えたうえで学んでもらえると、もっと楽しめる と思います。ぜひ、楽しみながら学んでいってください。
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