7月31日、Spacebar.newsが「I tried Servo, the undercover web browser engine made with Rust」と題した記事を公開した。この記事では、Rust製の次世代ウェブレンダリングエンジン「Servo」の技術的特徴と現在の実装状況、さらにはブラウザエンジン市場における意義について詳しく紹介されている。以下に、その内容を紹介する。
Servoとは何か
Servoはマルチスレッド処理とメモリ安全性を核とするRust製エンジンである。Linux Foundation Europe配下の技術運営委員会によりコミュニティ主導で開発が進められており、以下の点で従来エンジンと一線を画す。
- 並列レンダリングへの最適化
現代CPUのマルチコア構成を前提に描画処理を分散し、高速化を目指す。 - メモリ安全な言語基盤
Chromium開発チームが「重大バグの約7割がメモリ安全性問題」と指摘した課題に対し、Rustの所有権モデルでリスク低減を図る。 - 組み込み用途を想定
ブラウザ以外にもElectron代替やAndroid WebView置換など、軽量レンダラーとしての活用を狙う。
ナイトリービルドの実力
現在提供されているWindows/macOS/Linux/Android向けナイトリースナップショットは、最低限のUIを備えた試験的ブラウザである。同期・拡張機構などは未実装で、多くのサイトで描画崩れが発生する。
サイト | 動作状況 |
---|---|
Wikipedia / CNN Lite | 良好 |
Google検索 | 要素が重なり可読性低下 |
MacRumors | スクロール中にクラッシュ |
ベンチマーク・デモ
- Servo公式のDogemaniaテストでは、M4 Pro搭載MacBook Proで約400枚の画像まで60 FPSを維持。Safari 18.5は1,500枚超でも60 FPS前後を記録した。
- Particle Physicsでは平均55 FPS(Safariは約60 FPS)。なおARMネイティブ版が未提供のため、Rosetta 2エミュレーションによる性能低下を考慮する必要がある。
Acid3テスト
結果:83 / 100

開発ロードマップ
公式ロードマップによると、今後は以下の仕様実装が優先される。
- Shadow DOM
- CSS Grid
- WebGPUを含む最新グラフィックスAPI群
- モバイル向け安定版(特にmacOS ARMビルド)
これらが整えば、主要サイトのレイアウト崩れが大幅に減少すると期待される。
Mozillaとの縁と分岐
Servoは2012年にMozillaで誕生し、サムスンも参加した。当初はFirefoxのGeckoを段階的に置換する計画だったが、Mozillaは2017年以降、CSSエンジン“Stylo”など個別コンポーネントをFirefox Quantumへ移植する形に方針転換した。
ところが2020年の大規模レイオフでServo開発陣が離脱。プロジェクトはLinux Foundationに移管され、2023年にはIgaliaなどの支援を得て再活性化した経緯がある。
市場独占へのカウンターパート
Chromium系エンジンの寡占は、標準仕様の事実上の単一実装化・セキュリティバグ共有という二重のリスクを孕む。ServoはSafari(WebKit)・Firefox(Gecko)に続く第四の選択肢となり得るだけでなく、Electron代替や組み込みレンダラーとして多様な実装エコシステムを促す可能性がある。
Servoはなお発展途上であり、現状では実運用に耐えるブラウザ体験を提供できない。しかしRustベースでゼロから設計された唯一の新世代エンジンとして、その進化はウェブの多様性確保に向けた重要な布石である。今後の機能実装とパフォーマンス最適化の成果が注目される。
詳細はI tried Servo, the undercover web browser engine made with Rustを参照していただきたい。