7月23日、Python 3.14 RC1がリリースされた。
この記事では、Python 3.14 の最初のリリース候補版(3.14.0rc1)の概要、新機能、移行時の注意点について紹介する。
リリース候補フェーズの位置付け
3.14.0rc1 は正式版直前のプレビューであり、今後は明白なバグ修正しか取り込まれない。ABI は凍結され、ビルド互換性は保証される。
次に予定されている 3.14.0rc2 は 2025‑08‑26、 正式版 3.14.0 は 2025‑10‑07 にリリースされる見込み だ。プレビュー版ゆえ本番適用は推奨されないが、テスト環境での動作確認とフィードバックが求められている。
3.14 で加わる主な新機能
Free‑threaded Python の正式サポート(PEP 779)
グローバルインタプリタロック(GIL)を排除し、オブジェクト管理をスレッド単位で分離することで、本格的なマルチコア並列実行を実現する。CPU バウンドなワークロードで線形スケールが期待できる。型アノテーション評価の遅延(PEP 649)
アノテーションを実行時ではなく必要時に解決する仕組みへ移行し、起動時間と循環依存の問題を低減する。from __future__ import annotations
が不要になり、コード互換性も向上する。テンプレート文字列リテラル “t‑strings”(PEP 750)
f""
と同じ軽量構文でカスタム処理を挿入できる新リテラルを導入する。国際化メッセージや SQL DSL など、コンテキスト依存文字列生成の安全性と可読性が高まる。標準ライブラリ内の複数インタプリタ API(PEP 734)
同一プロセスで独立インタプリタを生成・管理する公式手段を提供する。プラグイン実行やテスト分離など、サンドボックス用途が簡潔に書ける。Zstandard 圧縮を提供する
compression.zstd
(PEP 784)
高圧縮率と高速解凍で定評のある Zstandard を依存なしで使用可能にする。ログ・バックアップのストレージ効率が向上する。except
/except*
の角括弧省略(PEP 758)
例外グループ構文の冗長さを排し、except ValueError as e:
のように自然な書式で多重例外を扱えるようになった。CLI/REPL のカラー表示強化(PyREPL ハイライト ほか)
unittest
・argparse
・json
などが ANSI カラーをサポートし、エラー位置や差分を視覚的に認識できる。ゼロオーバーヘッド外部デバッガ API(PEP 768)
実行速度へ影響を与えずに内部状態を取得でき、APM やライブトレースの精度と性能を両立する。UUID v6–v8 サポートと高速生成(ドキュメント)
時系列ソート性を備える v7 など最新仕様に対応し、既存バージョン 3–5 は最大 40 % 高速化した。finally
ブロック外へ抜ける制御文の禁止(PEP 765)
リソース解放ロジックが意図せずスキップされるバグを未然に防ぎ、信頼性を底上げする。改良された C API 構成インタフェース(PEP 741)
埋め込み・組込シナリオでの初期化が宣言的に書けるようになり、長大なPyConfig
設定を簡素化する。実験的高性能インタプリタ(ドキュメント)
特定コンパイラ向けビルドでテールコール最適化などを徹底し、マイクロベンチで二桁%の高速化を実証。形式検証済み HMAC 実装の標準化(ドキュメント)
HACL* 由来コードでセキュリティと速度を両立し、外部依存なしで安全なメッセージ認証が利用できる。pdb
の遠隔アタッチとasyncio
プロセス観測 CLI(ドキュメント)
稼働中サービスの内部状態を安全に検査でき、運用環境でのデバッグ効率が向上する。
ビルドプロセスの変化と Windows 向け install manager
パッケージ検証方法が PGP 署名から Sigstore へ移行するため、CI の署名チェックを行っている組織は対応が必要だ。また Windows と macOS の公式バイナリには実験的 JIT コンパイラが同梱され、条件次第で JIT アクセラレーションが利用できる。Windows 版インストーラはストア配布型の install manager に段階的に置き換わるが、従来の MSI/EXE も 3.15 系までは併存する。
詳細はPython Insider: Python 3.14 release candidate 1 is go!を参照していただきたい。