7月15日、Open Web Advocacyが「Apple’s Browser Engine Ban Persists, Even Under the DMA」と題した記事を公開した。この記事では、Appleが自社の利益を守るため、iOS上で事実上すべてのサードパーティ製ブラウザエンジンを排除し続けている構造について詳しく紹介されている。
以下に、その内容を紹介する。
「許可した」ように見せて、使えないようにするAppleの戦略
EUのデジタル市場法(DMA)は、Appleのような「ゲートキーパー(アプリの市場投入やインストールを管理・監督できる存在)」に対し、 Webブラウザエンジンの選択を不当に制限することを禁じている。 Appleは一見これに従っているように見える。形式上は「サードパーティ製のブラウザエンジン使用を許可した」と主張するからだ。
しかし現実には、GoogleやMozillaを含むすべての主要ブラウザベンダーが、DMA発効から15か月が経過しても自社エンジンのiOS対応を断念したままである。記事の著者によればその理由は単純で、Appleが技術的・契約的な制限を巧妙に仕掛け、他社にとって移植を“実質的に不可能”にしているからである、と述べている。
Appleが課している「事実上の排除措置」
Appleは以下のような手段で競争を封じ込めているという。
既存ユーザとの断絶を強制
サードパーティが独自エンジンを使うには、既存のアプリを捨ててEU専用の新アプリをリリースし、ゼロからユーザ基盤を再構築しなければならない。 これは商業的に破綻している条件であり、移植のインセンティブを完全に削ぐ。EU外からの開発・テストが不可能
世界中のWeb開発者は、iOS上で第三者エンジンが動作する環境をインストールして検証する術を持たない。Safariでは可能なことが、他のブラウザでは不可能である。OSアップデートと結びつけたアップデート制限
Appleは、ユーザがEU外に30日以上滞在すると、EU専用のブラウザエンジン版にセキュリティパッチが適用されない可能性を排除していない。一方的かつ敵対的な契約条件
「ブラウザエンジンの使用許可契約」は、Appleがすべての裁量権を握る構成になっており、ベンダーにとってリスクの高い取り決めとなっている。ホーム画面Webアプリの独占
Safariのみがホーム画面Webアプリをインストール・管理できる設計となっており、競合ブラウザはこの重要な機能にアクセスできない。
なぜAppleはここまでして競争を阻むのか
その答えは明快な経済的動機にあり、SafariはApple史上もっとも利益率の高いプロダクトであり、Webエンジンの覇権が同社の収益構造を支えているから であるという。
- Safari経由のGoogle検索契約によって、Appleは年間約200億ドルを得ている。これは同社営業利益の14〜16%に相当する。
- App Storeの年間売上は910億ドル超、うち約274億ドルが手数料収入と見られており、ネイティブアプリによる囲い込みが収益の根幹となっている。
- Webアプリが自由に競争できるようになれば、これらの収益源を奪いかねない。
Appleは過去にHTML5を「App Storeに対する脅威」と認識していた記録もあり、Webによる中間業者を排除したオープンな配信モデルが、Appleの戦略と真っ向から対立することを自覚している。
この記事が出た背景
Open Web Advocacy(OWA)が今回の記事を公開した直接のきっかけは、6月30日にブリュッセルで開かれたEUデジタル市場法(DMA)ワークショップと、その場でのApple側の発言にある。Appleの法務責任者は「GoogleやMozillaが自前エンジンをiOSに持ち込まないのは“彼らが選ばなかっただけ”だ」と主張し、技術的・契約的障壁の存在を事実上否定した。ワークショップの録画と議事資料が7月上旬に公開されたのを受け、OWAは「Appleは障壁を熟知しながら放置している」という反論を行ったのが本記事である。
加えて、DMA施行から15か月が経過しても競合エンジンを積んだiOSブラウザが一本も出ていない現状が決定的な証拠となった。The VergeやAppleInsiderなど複数のメディアも同時期に「依然として移植ゼロ」と報じ、注目が高まっていた。
OWAはこのタイミングを逃さず、
- Apple発言と実態のギャップを明示する
- 依然残る具体的障壁を列挙する
- 欧州委員会に本格調査と是正命令を促す
という三つの狙いで記事を執筆した。とくにEU側はワークショップ後、提出済みの「自主是正計画」の実効性を再評価する段階に入っており、世論と規制当局双方へ圧力を高める好機と判断したとみられる。
要するに、「Appleはもう十分時間を与えられた。それでも動かない以上、強制措置が不可欠だ」というメッセージを可視化すること――これがOWAが今この記事を出した最大の動機である。
詳細はApple’s Browser Engine Ban Persists, Even Under the DMAを参照していただきたい。