5月21日、Deno社が「Denoの死去に関する報道は誇張されている(Reports of Deno's Demise Have Been Greatly Exaggerated)」と題した記事を公開した。この記事では、Denoに関する衰退の噂を打ち消すいくつかの事実について詳しく述べられている。

以下に、その内容を紹介する。
本記事は、以下のエキスパートに監修していただきました:
古川さんからのコメント:
昔から、衰退したとか、もう流行ってないとかOSSやツールやサービスは言われたりしますけど、Node.jsもそうでしたからね。2011/2012年の一時的流行とその後の衰退は僕も記憶にあって、2015年にフロントエンドツールとして復興するまで流行ってないとか言われてましたね。
最初のリリースから持て囃されるのはアーリーアダプターの人たちが使っているからで、そこからサイレントマジョリティーに該当する大多数が使うようになるまでにはどんなものでも若干のラグがあるんですよね。今はその時期に来てるだけじゃないかなと思っています。
Denoチームが日本に来てたのでお話させてもらいましたが、 Deno Fresh2 や JSR の開発で本人たちは非常に忙しそうであり、これからのサーバサイドJSプラットフォームを作るつもりで活動をしていました。
私自身はライアンダール氏も外野のコメントにわざわざブログで反応しなくてもいいのになぁと思いました。見てる人は見てるし、そこで衰退したんじゃないかと騒いでいる人たちは結局何もしない人たちなので、気にしないでほしいですね。
Denoは--allow-net=domain
でリクエスト先のドメインを制限する機能があり、昨今流行っているローカルにMCPサーバを作る時に目的のサーバにしか接続しないようにする仕組みが入れやすいなど、ユースケースが増えてる気がします。この仕組みはサプライチェーンアタックがMCPサーバのどこかにあったとしても効果的だなと思っています。Node.jsにもリクエスト先を制限する機構自身は入れられてもいいのになと思っています。
そもそもなぜ「衰退説」が広まったのかをまとめると以下のようになる。
Deno Deployリージョン削減
2021年の25リージョンから35へ拡大後、23年に12、25年初頭に6へ削減。RedditやHacker Newsでは「インフラ縮小=需要減」と解釈する声が目立った。公式情報の空白期間
ブログ更新やロードマップ共有の間隔が空き、「開発停止では」と憶測が拡散。Redditでも「チームが静か過ぎる」とたびたびスレッドが立った。Fresh 2・KVのリリース遅延
Fresh 2が予告から長期ベータのまま、KVもβ継続となったことで「プロダクトが握ばっている」との懸念が生じた。Redditでは「Freshは死んだのか?」との投稿が注目を集めた。競合ランタイムとの比較論
BunやCloudflare Workersの高性能・高話題性に比べ、Denoの採用事例や露出が少ないと感じる開発者が増加。「勢いを失った」との比較論が拡散した。
Deno社はこの点を認め、「発信不足が誤解を生んだ」として今後は透明性を高める方針を示した。
衰退説の否定
月間アクティブユーザーは2倍超に拡大
実際には、Deno 2を昨年10月にリリースしてからわずか半年余りで、月間アクティブユーザー数は2倍以上に増加した。Node互換性の強化により主要な障壁が取り除かれ、パフォーマンスや開発体験も向上した結果、採用の裾野が広がったという。
Deno Deployのリージョン削減は後退ではなく最適化
提供リージョンを35から6へ縮小した点が議論を呼んだが、理由はコスト削減だけではない。多くのアプリケーションは単一リージョンのデータベースにアクセスしており、未使用リージョンの維持はレイテンシ変動を招いていた。
今後リリース予定の新バージョンでは、サブプロセスやバックグラウンドタスク、OpenTelemetry、セルフホスティングリージョンを含むフルスタックアプリケーション基盤へ進化する。アプリを固定リージョンに配置したり、独自クラウドで実行したりする機能も提供予定だ。
Deno KVの開発もβ版のまま継続中
Deno KVは、設定ゼロで使えるキー・バリューストアである。
HTTPセッション、フィーチャーフラグ、リアルタイム協調プレゼンスなど「軽量かつ高一貫性が必要なデータ」を簡単に扱える。Denoランタイムに標準同梱されているため、外部サービスなしで簡単に利用が可能だ。
しかし汎用データベースではないため、Deploy上で従来型RDBを簡易に扱える仕組みと、Durable Objects的に計算と状態を密結合させる新プロジェクトの二本立てで拡充を図る。そのためKVは当面β版のまま維持される。
Fresh 2は年内リリース予定
FreshはDeno公式のフルスタックWebフレームワークで、「USP=ビルドなし・即時エッジ配信」という思想を持つ。従来版は次の特徴で支持を得た。
- Island Architectureに基づく最小限ハイドレーション
- TypeScript標準・Deno Deployとシームレス連携
- ルーティングとデータフェッチをES Modulesだけで記述
Fresh 2では内部アーキテクチャを全面刷新し、
- 静的ビルドパイプラインの高速化
- Devサーバのホットリロード最適化
- 新Hooks APIと細粒度キャッシュ制御
などの機能を備えて、年内にリリースを予定している。公式は「社内すべてのサイトをFreshで運用しているため品質を妥協しない」と強調した。
Denoは今後も拡大を続ける
JSRは、パフォーマンスや互換性の向上を継続しつつ、独立したコミュニティ主導の財団へ移行準備中である。
またTC39やWinterTCでの標準化活動、OracleによるJavaScript商標問題への対抗など、エコシステム全体の発展にも注力する。
DeployとKVで得た知見を基にした新たな永続・分散アプリケーション向けプロダクトも近日発表予定だ。
Deno社は「縮小」どころか、標準化活動と新規プロダクトの両面で攻勢を強める段階に入ったと宣言している。
詳細はReports of Deno's Demise Have Been Greatly Exaggeratedを参照していただきたい。