9月3日、海外のテクノロジーメディア「The Register」が、Rust for Linuxプロジェクトのメンテナーであるウェドソン・フィーリョ氏が辞任したことを報じた。
彼は、4年間にわたりプロジェクトを率いてきたが、「技術的でない無意味な議論」に対するフラストレーションが原因で辞任を決意した と、Linuxカーネル開発メーリングリストにて表明した。「私はこのプロジェクトから退く」とフィーリョ氏は宣言し、彼が抱えていたエネルギーと情熱が失われたことを理由に挙げた。「これ以上このような事態に対応するのは無理なので、まだ余力がある人々に任せる方が良い」と述べている。
フィーリョ氏は、RustをLinuxカーネルに統合するプロジェクトを通じて、C言語ベースのLinuxカーネルにメモリ安全性をもたらすことを目指していた。
メモリ安全性のバグは、CやC++で書かれた大規模プロジェクトにおいて深刻な脆弱性の主要な原因として頻繁に挙げられている。そのため近年では、マイクロソフトやグーグルといった大手開発者や、米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)などの政府機関によって、Rustのようなメモリ安全なプログラミング言語の使用が推進されている。
そうした流れから、RustをLinuxに統合する議論が2020年に始まり、2022年後半にLinux 6.1のリリースで実現された。
辞任に至った理由の一つとして、フィーリョ氏は、Linuxカーネルのメンテナーであるテッド・ツォー氏との間で生じた意見の不一致を挙げている。フィーリョ氏は、Rustバインディングにファイルシステムインターフェースのセマンティクスを静的にエンコードする方法を提案したが、ツォー氏はこれに反対した。彼の反対理由は、Cコードが進化し続け、その変化がRustバインディングを破壊する可能性があり、その修正の責任を負いたくないというものであった。
オープンソースプロジェクトにおける人間関係の対立は一般的であり、特にボランティアベースで働く人々の間では異なる背景や期待が混在し、議論のプロセスに対する認識の違いが生じやすい。
フィーリョ氏は、Linuxカーネルコミュニティでの不調和が続く中で、「技術的な問題に対して反発があるのは予想していたが、それに対処するためのエネルギーを使い果たした」と述べている。彼の辞任に対して、他の開発者からも同情の声が寄せられている。
詳細は「Rust for Linux maintainer steps down in frustration」を参照していただきたい。