コンピュータグラフィクスのリーディングカンパニーによる標準化団体「Khronos Group」は8月4日(米国時間)、3Dモデルのための汎用フォーマット「gITF 2.0」をアナウンスしました。
これまで数多くの3Dフォーマットがグラフィクスの世界で誕生してきましたが、どれも業界標準の地位を手にすることはありませんでした。しかしgITF 2.0のリリースにより、「ようやく3Dフォーマットに存在してきたプラットフォーム間の壁を取り払うことができるかもしれない」と語るのはWebGLエキスパートのemadurandalさん。今回の「Ask the Expert」ではemadurandalさんにgITFの標準化が3Dグラフィクスの世界にもたらすインパクトについて聞いてみました。
今回話を伺ったエキスパート
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そもそもgITFとは何でしょうか?
glTFは3Dコンテンツの相互運用のための汎用3Dフォーマットです。業界標準化団体のKhronos Groupにより策定されたロイヤリティフリーのフォーマットで、仕様も完全に公開されているため、eコマース、地理空間、バーチャルリアリティ、拡張現実、ビジュアライゼーション、教育、デザインなど、さまざまな市場で利用が進んでいます。
glTFファイルはJSONデータとバイナリデータから構成されており、3Dフォーマットとしては仕様が比較的シンプルです。とくにJavaScriptであればJSONはネイティブデータ形式ですから、パーサーも容易に書くことができます。また、glTFは仕様の拡張が可能です。実際にKhronosGroupやその他の企業から多くの拡張仕様が提案されており、これらの活用により高度な3D表現が実現できます。拡張仕様の増加も考えると、glTFは世の中の要請の応じて成長し続けるフォーマットでもあるといえます。
gITFが今回標準化されたとのことですが、具体的にどういうことでしょうか? 経緯も教えていただけるとうれしいです。
標準的な立ち位置を目指す統合型の3Dフォーマットは、今までもさまざまなものが提案されてきました。VRMLやX3Dなどのフォーマットがそうですが、当時はWebGLのような標準化された3D実行環境もなかったため、あまり普及しませんでした。glTFはWebGLが普及した後に提案された、まさに絶妙なタイミングで登場した3Dフォーマットです。ロイヤリティフリーで無料で利用することができ、またランタイム再生に特化しているため非常に軽量です。おそらく策定のごく初期からインターネット標準になることを見越して開発されていたのだろうと思います。glTFの現行バージョンは2.0ですが、その前身となる1.0の時代からIANA(Internet Assigned Number Authority)によるMIMEタイプに登録されるなど、インターネット標準になるための準備が着実に進められていたようです。
さらに今回、新たにISO/IEC JTC 1標準になったことで、インターネットに限らず、情報技術産業全般に通用する国際標準規格となりました。これにより、産業界でのglTF採用の動機がより高まると思います。
gITFについて、残る課題があるとすると何でしょうか?
いくつか存在すると思います。ひとつは拡張仕様の数が増えてきて、すべてをサポートできる環境が限られてきていることです。拡張仕様を多く利用しているコンテンツは、拡張仕様をサポートしない環境では本来の表現を完全には再現できません。もちろん、その場合でも基本的なビジュアル表現ができるようにglTFはなっていますし、データ制作時でもそうなるように制作することが推奨されています。しかし今後glTFの拡張が増えれば増えるほど、利用する側に多少の混乱が生じる可能性はあるでしょう。個人的には、これらの拡張が新しい将来のバージョンのglTFに統合されることを期待したいですね。
他の問題としては、これはglTFそのものの問題ではありませんが、glTFの再生品質が3Dライブラリエンジンによって異なることです。glTFは物理ベースレンダリングを採用していますが、こうしたレンダリングの計算式はとても緻密であり、ライブラリエンジンによってどうしても差異が出てきてしまいます。すると、「Aさんの再生環境で表示した見た目と、Bさんの別の再生環境で表示した見た目が異なる」という問題が出てきます。これは表示品質が重要になるeコマースやデザインなどの分野では大きな課題です。
もっとも、KhronosGroupやglTF界隈の人たちも手をこまねいているわけではありません。たとえばKhronosGroupは3D Commerce Viewer認証プログラムという、一定の品質を満たした再生環境の認定するプログラムを開始しました。この認定を受けた再生環境では、不具合のない十分な品質での表示が得られることが期待されます。
また、Googleによるライブラリ間のglTF表示品質比較のプロジェクトRender Fidelity Comparisonなどの試みもあります。これらの試みと各ライブラリエンジン開発者の方々のたゆまぬ改善により、状況は改善されていくでしょう。
gITFが標準化されたことは、開発者にとってどのような影響があると思われますか?
glTFは元からオープンなフォーマットですので、直接の影響はあまりないと思います。ロイヤリティフリーで無料で活用できるところも今までと同様です。ただ、今回ISO/IEC JTC 1の国際標準になったことで、Web業界以外のより広い分野で採用が進むことが期待されます。今までglTFとは縁がなかったと思われていた技術者の方も、3D可視化などの業務の際に触れる機会が出てくるかもしれません。また、標準規格としてのステータスが高まることで、周辺ツールの整備がより充実することが期待されます。すると多くの開発者にとってより手軽に利用できるものになっていきますし、民生のソフトウェアが普及すれば、一般の方が利用する機会も増えるでしょう。実際に、MicrosoftのOffice製品やWindows付属の「ペイント3D」ソフトウェア、macOSのクイックルック機能などでもすでにglTFは再生できます。glTFは非常に身近なフォーマットになってきているのです。
gITFが標準化されたことは、業界全体にとってどのような影響があると思われますか?
3DフォーマットにはglTF以外にもAppleなどが推進しているUSDZなど、その他の選択肢も存在します。それらにも独自の特長とメリットがあるのですが、今回glTFが国際標準になったことで、企業によってはglTFを採用するより強い動機や安心感が生まれたと思います。glTFには拡張を定義することも可能なため、glTFに参加するプレーヤーが今後増加することで、その進化のスピードはより速くなっていくかもしれません。
さまざまなプラットフォーム間や産業間で相互運用できるような3Dフォーマットはこれまでも多くの人から望まれていました。その座を狙った多くの3Dフォーマットが今までに誕生しましたが、結局はone of themの1フォーマットに過ぎない存在に落ち着いてしまい、決定的な存在が長らく現れませんでした。glTFは、その壁をようやく乗り越えて世に受け入れられつつある、初めての3Dフォーマットと言えると思います。今後のいっそうの普及と発展が楽しみでなりません。
glTFについて説明させていただきました!