本セッションの登壇者
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それでは「WCAG 2.2で追加される達成基準」というライトニングトークを始めます。
私は木達一仁と申します。ミツエーリンクスというWeb制作会社で仕事をしています。アクセシビリティにはだいたい20年ぐらい関わってきました。
WCAGとは何か - バージョン2.0→2.1→2.2までの変遷
そもそもWCAGとは何かということですが、これはW3Cが作っているWebアクセシビリティのガイドラインです。今、世の中的に広く使われているのは、2008年に勧告されたバージョン2.0と、2018年に勧告された2.1というバージョンなんですが、現在、2.2というバージョンが勧告に向けて作られています。
今年の9月に勧告される予定とW3Cのページには書いてあるんですけれども(2022年5月時点)、これまでだいぶ遅れに遅れているんですよね。そのあたりの事情に詳しい方が最近ブログに挙げた記事によると「ひょっとすると遅れるかも」ということがすでに書かれていたりもします。
WCAGのバージョン2は、4つの原則それぞれにガイドラインが決まっていて、さらにそのガイドラインの中に達成基準という具体的な話が書かれています。この達成基準ごとに適合レベルが定義されていて、その必要性や重要性が整理されています。
ただ、この達成基準だけを見てもなかなか実際に何をすればいいのかはわかりにくいです。残念ながら、WCAGは特定の技術に依存しないような書きっぷりになってるので、ご注意ください。
今使われている最新バージョン2.1は2018年に作られたんですが、モバイル対応、弱視、そして認知/学習障害といった領域を強化すべく、バージョン2.0に対して17個の達成基準が追加されました。バージョン2.1は日本語訳をWebアクセシビリティ基盤委員会でメンテナンスして公開していますので、日本語で読むことができます。
さらに今作ってる最中のバージョン2.2は、バージョン2.1に加えて9つの達成基準が追加予定になっています。また、既存の1つの達成基準の適合レベルを変更する(AAからAに変更する)予定になっています。
この9つの達成基準を、概要だけになりますが、皆さんと一緒に眺めてみたいと思います。
WCAG 2.2に追加される9つの達成基準
バージョン2.2の最新のドラフトは昨年5月に公開されたものなので、それにもとづいて紹介しますが、差分だけを特集したW3Cのページがあるので、これを見ていただくといちばん違いがわかりやすいかと思います。
まず、ガイドラインの「2.4 ナビゲーション可能」に追加されつつある達成基準が3つあります。そのうち2つがフォーカスの見た目(外観)に関するものです。コンポーネントがキーボードフォーカスを受け取ったときの色のコントラストとか最小面積などを定義しつつあります。改ページのナビゲーションは、ページメディア(ページごとに分割されたコンテンツ)については「行き来できるようにしなさいよ」ということが決められつつあります。
ガイドラインの「2.5 入力モダリティ」に関してはドラッグ操作に関する達成基準があります。ドラッグが難しい人もいらっしゃるんですよね。そういう方に向けて「ちゃんとシングルポインタ、つまり画面との接点が1カ所だけでも完結できるように操作系を作ってください」というのがひとつ。そして2つ目はターゲットサイズというもので、コントロールのタッチ/クリック可能領域に関してはCSSピクセルで24ピクセル四方であることが求められつつあります。
ガイドラインの「3.2 予測可能」に関しては2つの達成基準が追加されつつあります。ひとつつは一貫したヘルプです。いろいろなヘルプがあるのですが「ヘルプ機能を提供するなら、そのWebページの中では必ず同じ位置、相対的に同じ順序で登場するように作ってください」ということ。それから可視コントロールという、ふだんは隠れているんですが、ホバーとかキーボードフォーカスが当たったときにはじめて可視化/表示されるコンポーネントコントロールについてはどうあるべきか、ということが定義されつつあります。
ガイドラインの「3.3 入力支援」については、2つの達成基準が追加されつつあります。アクセシブルな認証は、よくジグソーパズルをはめるものがありますが、ああいったことが難しい方向けにも、ちゃんとそれ以外の手段を用意しましょう、ということ。冗長な入力は、同じプロセス/セッションにおいて、ユーザーが繰り返し入力をしなくても済むような、よりスマートな入力をさせましょう、ということが求められています。
WCAGのバージョン2にはどんどん達成基準が増えつつあるんですけれども、まだまだオープンなイシューが残っていて、本当に年内に公開できるだろうか、完成できるのだろうか、という点が気になります。
しかし、5月3日の会議ではISOの標準になる予定が明らかになったので、これはひょっとすると先々はJIS規格にもなるかもしれないですから、ますますこのWCAG 2.2の行く末について、皆さんもご注目いただきたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。本セッションのフォローアップ記事も公開しますので、よろしければそちらもご覧ください。