グーグルからSiFive(サイファイブ)に移籍したクリス・ラトナー。
Screenshot of TensorFlow YouTube Channel "The Power of Swift for Machine Learning"
- iOS/MacOS開発向けのプログラミング言語「Swift(スウィフト)」を生みだした元アップルのエンジニア、クリス・ラトナーがAIチップ開発を手がけるスタートアップ、SiFive(サイファイブ)にジョイン。
- ラトナーはAIチップのソフトウエア開発を担当する。
- 彼がこれまで働いた大手テック企業3社は、いずれも際立った企業文化をもっていた。
アップルのプログラミング言語「Swift」の生みの親であるクリス・ラトナーは、キャリアを通じて一貫して「ツールをつくり続けてきた」と語る。
アップルには12年近く在籍し、Swiftのような開発支援ツールや、その言語を使ってつくったアプリ開発ツール「Xcode(エックス・コード)」や学習アプリ「Swift Playgrounds」を生み出した。ラトナーの関心は、iOSアプリそのものではなく、それを開発するエンジニア向けのツールにあった。
グーグルでは、データサイエンティスト向けのAIツール「TensorFlow(テンソルフロー)」の開発プロジェクトに携わった(下の動画を参照)。
データサイエンティスト向けのAIツール「TensorFlow(テンソルフロー)」におけるプログラミング言語Swiftの活用について語るクリス・ラトナー(グーグル在籍時の動画)。
出典:TensorFlow YouTube Channel
2020年1月、テスラとグーグルを経て、ラトナーはAIチップ開発を手がけるSiFiveの上級副社長に就任した。ツールからチップへと重心は移ったが、やることは何も変わらないという。
「僕らはユーザーが何をどうしたいのかよくわかってる。だから、本当に大事な問題を解決することに全力を尽くすんだ。みんなには安心してツールを使ってほしい。僕らの仕事は、みんなの悩みごとを減らして気楽に生活を送ってもらうことだから」
そんなラトナーはいま、(半導体という)ハードウエアをつくる人たちの負担を減らすソフトウエアをつくっている。
「サイファイブにジョインしたのは、イノベーションを重視する企業文化が好きだから。エンジニアリングも大事にされている。ここにはエンジニアリングで世界を変えたいと思っている人たちがいる(現実にはそう滅多にできることではないけど)。そう思っている人を受け入れる文化があることも素晴らしい。
才能を持った人たちが情熱を傾けて働いている、それがサイファイブを選んだ理由のすべてだ。これから起こることを考えるとワクワクするよ」
サイファイブはこれまでにベンチャーキャピタルなどから1億2956万ドル(約143億円)を調達。インテルやアーム(ARM)、AMDといった巨大企業に挑む新興勢力として知られ、2019年6月には東京でもプライベートセミナーを主催している。
とにかく「ツール」をつくり続けたい
ラトナーを迎え入れたサイファイブの共同創業者たち。全員、米カリフォルニア大学バークレー校(UCLA)の博士号取得者。2010年からオープンソースの命令セットアーキテクチャ「RISC‑V(リスクファイブ)」の開発を続けている。
Screenshot of SiFive website
ラトナーはここ数年、サイファイブの動向に注目してきた。じつは、グーグルにジョインする前にも接触していたが、当時のサイファイブは本当に立ち上げたばかりで、具体的な話にはならなかったという。
最近になって再び接点が生まれ、サイファイブがいま何に取り組んでいるのか、深く知る機会になった。より高速で、より強力なチップを創り出せる可能性が目の前にあると感じたラトナーは「ものすごく感動した」という。
ラトナーは現在、プラットフォームエンジニアのチームを率いて、AIチップの設計に必要なソフトウエアとツールのコードを書いている。
「そう。コードを書いてるんだ。AIチップの開発に何でコーディング?と思う人も多いと思うけど、じつはチップの設計は最もソフトウエア集約的な世界。検証ツールの開発にはものすごい量のテストコードを書かなくちゃいけない。ツールと言語が不可欠なんだ」
ラトナーは、サイファイブがこれから直面する最大の問題は、いかにスピード感をもってスケール(規模拡大)できるかだと指摘する。ただ、そうした問題と向き合うことそのものはサイファイブにとって良いことだという。
「僕らのミッションは、ハードウエアエンジニアと半導体集積回路を設計する人たちがより幸せに、より生産的に仕事をできるようにすること。僕らは新しいテクノロジーを使って、古くからある問題を解決しようとしてるんだ」
「グーグルを辞める決断はかなり苦しかった」
ラトナーはグーグルを辞めることを決めたからサイファイブを選んだわけではない。サイファイブへの移籍が心底エキサイティングな挑戦だと考え、「ここでジャンプしないと」という気持ちになったのだという。
「グーグルを去る決断をするのはとんでもなく大変なことでした。いつもすごいことが起きている素晴らしい会社を辞めるわけですから、そりゃそうですよね。実際、グーグルはすべてうまくいっていて、安泰でした」
アップル、テスラ、グーグルという、テック界を代表する大手3社で働いた彼は、いずれも「際立った企業文化」をもった会社だったと評価する。
「アップルはきわめてプロダクトドリブンの会社で、ユーザーのことをものすごく考えていましたね。テスラは『地球温暖化を食い止めようぜ』みたいなミッションを何より大事にする会社でした。グーグルはとにかくテクノロジードリブン。そのひと言ですね」
そして、サイファイブはそれらの特徴をひとまとめにしたような会社だという。
「全部がいい感じでミックスされてる。ビジョンがまず素晴らしい。チップ設計をもっと速くしよう、それができたら新しい種類のチップをつくろう……そういうプロダクトの会社でもある。小さな会社だけど、とにかく世界を変えようと必死なんです」
(翻訳・編集:川村力)