AKIBA.AWS 第15回で「Amazon Braketのすごさを知ろう~量子コンピュータことはじめ~」について話しました #akibaaws

AWSをテーマにした勉強会、AKIBA.AWSの第15回目が開催されました。Amazon Braketと量子コンピュータについて話したので、その内容と時間があれば話したかった事についてまとめました。
2020.01.15

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気付いたら2020年が訪れてもう半月が過ぎていました。時の流れ、早すぎる。

▲ 明けましておめでとうございます

こんにちは、AWS事業本部のShirotaです。今年もどうぞよろしくお願いします。

本日は、AKIBA.AWSの第15回でお話しさせて頂きました、「 Amazon Braketのすごさを知ろう ~量子コンピュータことはじめ~ 」についてのまとめと時間があったらお話ししたかった事についてお話しさせて頂きたいと思います。
本イベントに関する概要は以下リンクからも併せてどうぞ。

【1/15(水)東京】「AKIBA.AWS #15 ガチ編〜re:Invent振り返り その1〜」を開催します

AKIBA.AWSについて

AKIBA.AWSは、AWSを利用しているエンジニアを対象とした勉強会です。

日々進化を続けるAWSの技術動向を追い、参加者が相互に情報交換し、スキルを高めていくことができる場所にしたいと思っています。一方的に情報提供をするのではなく、発表を通じて質問やディスカッションを行い、発表者・参加者の双方で議論を深めていくことをイメージしています。

AKIBA.AWSでは今後も違ったテーマでの開催を考えていますので、興味がありましたらぜひご参加ください。

登壇資料

喋った事や喋りたかった事

Amazon Braketより前に量子コンピュータの話をしたかった理由

▲ Braket云々の前にこれがあります

昨年のre:Invent2019で発表された Amazon Braket
「何かよく分からないけど凄い!」と思われた方も多かったのではないでしょうか。
かく言う私も「量子コンピュータじゃん!凄い!」と当時思ったわけですがその場で何が凄いのかを問われたら戸惑っていたと思います。
実際、今でも量子コンピュータの凄さを完全に理解できているかと聞かれたら 全く自信はありません
そもそも、量子コンピュータの凄さをより正確にイメージし理解する為には量子力学の理解が必要となります。
ですが、量子力学を理解する事は割と大変で、古典力学と全く異なる概念を改めて1から学び直す必要があります。

後述しますが、 量子コンピュータを利用する為に量子力学を完全に理解する必要は無いと考えています
古典コンピュータ(現在我々が利用しているコンピュータ)において、コンピュータの内部の仕組みを完全に理解していないとコンピュータが扱えないかと言ったらそうでも無いのと同じものです。
量子力学を完全に理解できなくても私たちは半導体の使われたコンピュータを利用していますよね?
ただ、理解していないよりは理解している方が勿論望ましいです。
量子コンピュータの凄さは、理解している事が多い方がよりダイレクトに伝わります。
量子コンピュータの凄さを少しでも共有したい、Amazon Braketが発表された時の喜びを共有したい、そう思い今回私は「 Amazon Braketのすごさを知ろう ~量子コンピュータことはじめ~ 」と名付けてお話しさせて頂きました。

今回お話ししなかった量子力学の話

▲ これでないと表せない世界があるんです

今回は、ブラケット記法を用いての量子論の話はしませんでした。
勿論、このような物を利用しないと量子の真の振る舞いを表現する事には近づけない事は承知しています。

▲ ちょっと落とし込みが強引過ぎた

量子ビットは観測された瞬間に初めて0であるか1であるかが決まり、しかもそれが確率的に決まります。(確率振幅と呼ばれる値を用いています)
このような量子ビットの状態を正確に表現するには、上手のような古典的な表現方法では正確に表すことが不可能です。 かと言っていきなりブラケット記法の式を書いていても、今まで見たことのある式との違いに理解が追いつかず、話の本質に辿り着けない可能性があります。
なので、今回は量子コンピュータを取り巻く量子力学の現象の説明についてはイメージを伝えるまでに留めました。
もし、今日の話を聞いて「もっと量子コンピュータの本質を知りたい!」と思われた方には最後に量子コンピュータや量子力学についての書籍を紹介させて頂くのでそちらを手に取って頂ければ幸いです。

スーパーコンピュータと量子コンピュータの違い

▲ 補足と言いつつぼんやりしている

スーパーコンピュータも量子コンピュータも「すごいコンピュータ」である事には変わりないです。
ですが、どちらの方がどれだけ優れていると言った話は基本的に難しいです。
なぜなら両方とも 得意な分野が異なりすごさの土台となっている技術が異なる からです。

スーパーコンピュータは、量子コンピュータと比較した時に「古典コンピュータ」と言われる現在私たちが使っているコンピュータと基本の仕組みは同じです。
その仕組みの各部分を増強して、計算能力を高めたものがスーパーコンピュータです。 量子コンピュータの計算能力の向上もそれぞれの仕組みを増強して成るものですが、 そもそもその仕組みが異なる存在 なのです。

ムーアの法則とネーヴンの法則

スーパーコンピュータがトランジスタを増やし性能が 指数関数的に成長する と言った法則を「ムーアの法則」と言います。

ムーアの法則 - Wikipedia

ただ、このムーアの法則は物理的な限界が来ると言われています。
トランジスタを増やすために極小化を続けていくと、いずれ量子力学効果の影響が生じる限界が訪れる事になると考えられるからです。

量子コンピュータについては、そもそも性能の向上の観点に量子ビットの保持可能な数や量子干渉による計算の正確性の向上などがあります。
従来のコンピュータのようなトランジスタが増えればより複雑な処理が可能になると言った考え方とは違います。

このような量子ビット数の増加や計算のエラー率の低下によって、量子コンピュータの性能が 二重指数関数的に成長する と言った法則を提唱者の名前をとって「ネーヴンの法則」と言うそうです。

Neven's Law: why it might be too soon for a Moore's Law for quantum computers

このように、それぞれの向上の法則の話からも分かるように、スーパーコンピュータと量子コンピュータはコンピュータとしての定義は同じくするものの異なるものなのです。

Noisy Intermediate Scale Quantum(NISQ)とは?

▲ 完全無欠なものなどないのだけれど

まだまだ改良の余地を大きく残しており、現在から近い将来には実現可能と考えられている「適度にノイズがある事からスケールを制限している量子コンピュータ」の事を NISQ(Noisy Intermediate Scale Quantum)デバイス と呼びます。
量子ビットの数が制限されている事から計算誤りの影響を回避しきれず、そのようなノイズが入ることから量子コンピュータとしてはまだまだこれからと言ったものです。
ただ、だからと言って全く実用できない訳ではなく、このようなNISQな量子コンピュータが量子演算の数を減らし、計算誤りの発生自体を抑える為のアルゴリズムを利用することでNISQデバイスの弱みをカバーする事は可能と考えられています。

Googleが発表した「量子超越性の達成」について

▲ 下部に補足はしました

Googleが設計した量子プロセッサ(量子ビットを集めたCPUのようなもの)である「Sycamore(シカモア)」が量子超越性を達成したと発表したのは割と記憶に新しい出来事です。
「量子超越性」とは、古典コンピュータと比較して量子コンピュータが古典コンピュータを凌ぐ能力を持っている事を指します。
今回だと、シカモアの乱数生成にかかった時間(200秒)がスーパーコンピュータでかかる時間(約1万年)を圧倒的に上回った事からGoogleは量子超越性の達成を発表しました。
これだけ聞くと、既に量子コンピュータは現在のコンピュータを遥かに上回ってしまい、量子コンピュータの実用化が進めば現在のコンピュータは不要になるかの如く感じられますがそれはちょっとした誤解です。
量子コンピュータと古典コンピュータでは、そもそもの計算の仕組みが異なる事などから互いに得意な領域が違います。
つまり今回の量子超越性の達成については、シカモアが得意な領域でスーパーコンピュータを上回ったと言う話なのです。
ですが何にせよ、量子コンピュータの進歩の1つである事には変わりありません。

クラウド界における量子コンピュータのサービスについて

▲ 早くお目にかかりたいです

先の話で出てきたGoogleも、クラウド上でのコンピューティングサービスを計画していると言う話はあるそうです。

Google’s Quantum Computing Push Opens New Front in Cloud Battle

また、この分野においてはIBMが「Q Experience」と言うクラウド上でのコンピューティングサービスを発表しています。

IBM Quantum - Experience

今回AWSがAmazon Braketを発表したことにより、この分野がますます盛り上がっていく事が期待されます。

より量子コンピュータに近づきたくなったら

▲ ボンゴが上手かったらしい。え?

スライドの最後に、量子コンピュータのアイデアのきっかけになったと言われているリチャード・ファインマンの言葉を載せました。
これは、「自然をシミュレーションしたいのなら、量子力学の仕組みで動くコンピュータを作らなければならない」と言った意味を持っています。
遅かれ早かれ、今以上に物事を理解する為に量子コンピュータが必要になる事をファインマン先生は気付いていたのでしょう。

もし皆さんがAmazon Braketに興味があり、また量子コンピュータについての理解を深めたいなと思ったら以下のリンクや書籍を参考にして頂ければ幸いです。

Welcome to Quantum Native Dojo! — Quantum Native Dojo ドキュメント

EMANの量子力学

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