ワイヤレスな分割キーボードCaravelleをつくったおはなし

「キーボード #1 Advent Calendar 2019」14日目の記事です。

adventar.org

今年は2台目のキーボードであるCaravelleを設計したので、そのときの経緯をざっくりとまとめてみました。
去年の記事は少し長すぎたので、今年はなるべく短めです。

Caravelleとは?

Caravelleは1台目のキーボードであるComet46をベースに色々と改良したキーボードです。自分がキーボードにほしい機能(ワイヤレス、分割、カラムスタッガード等)と打鍵感の良さを両立することを目標に設計しました。

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きっかけとコンセプト

Comet46が完成した当初はほしかった機能を上手く詰め込めたこともあり非常に満足していたものの、半年ほど使用している間に色々と不満な点が出てきたため、それらを改善した新しいキーボードをつくることにしました。

1. 打鍵感向上
Comet46ではPCBがボトムプレートに常に接触しているような極限までに薄いサンドイッチ構造にしていたため、打鍵感が非常に固く、またタクタイル感がひときわ強いBox Royalを使用していたこともあり、一日の終わり頃には指が痛くなることもしばしばでした。そこでCaravelleでは、打鍵感を柔らかくするため、海外のカスタム系キーボードで一般的に採用されているトップマウント構造を採用しました。*1

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Comet46側面(スイッチのピンを切ることで厚みを減らしているためPCBとボトムプレートが接触している)
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トップマウント構造(プレートがケースに吊り下がるような構造をしているため打鍵感が柔らかくなる。図はThomas Baartさん作、完全版はこちら

2. 配列の最適化
Comet46を設計する際にはキーキャップを並べ自分が押しやすいキー配列を決めましたが、それでもキーボードとしてタイピングしてみると気になる点が2つほど出てきました。

  • 小指キーの位置をもう少し下にしたい
    Comet46ではボタン電池を設置するスペースの関係上、小指側2列が自分にとって押しやすい位置よりやや上にありました。Caravelleで電池をボトムケース内の窪みに移動することで小指キーの位置をより下側に移動することができました。

  • 4つ目の親指キーがほしい
    自分で押しやすい位置にしかキー配置しないというコンセプトのもと、Comet46では親指キーを3つだけ配置していました。しかし、実際に使ってみると多少押しづらい位置でもいいのでモディファイアを割り振るためのキーがもう一つあったほうが便利だと考えるようになり、Caravelleでは4つ目の親指キーを追加しました。*2

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左:Caravelle、右:Comet46(カラムスタッガードの度合いと親指キーの配置が変わっている)

ケース設計

トップマウント構造のケースをつくることを決めたのはいいものの、良質なガイドがたくさん公開されているPCBとは違い*3、トップマウント構造のケースの設計方法に関する資料が当時見つけられなかったため*4、まずはケースの構造について調査することとしました。具体的にやったことは2つ。

  • カスタムキーボードのGBに参加する
    いい感じのキーボードは数秒で売り切れたり、GBに参加できたとしても予定より大幅に遅れて発送されたりと入手するのが大変ですが、実物があると構造の細かい部分まで知ることができるのでとても勉強になります。

  • カスタムキーボードのビルドストリームを見る
    いくら勉強になるとはいえ、カスタムキーボードは買うたびにお財布が深刻なダメージを受けてしまうので、購入する代わりにTaeha Types等のビルドストリームを見るのも一手です。実物とは違い細かい構造については知ることができないものの、そのキーボードの特長については大抵解説が入るので、それだけでも勉強になります。

ケースの構造について理解したら次は設計です。自分ははじめに手書きのスケッチでケースのおおよその形状を決めた上で、CADでモデリングしていきました。

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かなり初期の段階における設計途中のトップケースとプレートのモデル

モデリングで一番苦労したのは、スイッチとベゼル内壁の距離*5、ベゼルの高さ*6といった細かい部分の寸法を決めることでした。このとき役に立ったのが3Dプリンタです。実際にものとしてケースを印刷し組み立てることで、モニタを見ているだけではなかなかわからないような点を検証することができたため、効率良くケースの設計を行うことができました。履歴が全部残っていないため正確な数はわかりませんが、おおよそ30回ほど3Dプリンタで試作品を印刷した末に最終的なモデルが完成したようです。

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試作品を印刷するのに使用したPrusa i3 MK3。キーボードを設計するための道具のはずが、一時期3Dプリンタの改造そのものにドハマリすることに。結果、オリジナルのパーツがほとんどなくなってしまいました。。。

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最終的に出来上がった形状

今後やりたいこと

去年の記事にも書いていましたが、まずはアルミケースをつくってみたいです。Caravelleをそのまま3D Hubs等に発注してみてもいいのですが、USBポートがついていない尖りすぎた無線キーボードなため、金属ケースのせいで無線通信が上手くいかない場合、数万円/個の文鎮が2個できてしまう恐れがあり、少し躊躇しているというのが本音です。なので、まずはUSBポートがついたキーボードを設計してアルミケースを発注しようかと思います。(春節に入る前になんとかしたいですが、間に合うかな。。。)

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*1:キーボードのプレートのマウント法についてはai03さんのまとめ記事Thomas Baartさんのまとめ記事が参考になります。

*2:なお、キーとキーの隙間が露出する面積を減らした方がかっこいいという理由で外側2つの親指キーを1uではなく、1.25uとしました。

*3:キーボードのPCB設計はai03さんのガイドfoostanさんの書籍がとても参考になります。

*4:PCBと違ってケースの設計方法は秘密なこと多いです。ケース設計をはじめた頃は見つけられませんでしたが、Kyuu等の設計者であるQuantrikさんの動画Project Keyboardsが再現したAliceのCADファイル(ページ下部"Open source case files"を参照)とかは参考になりそうです。

*5:プレートの開口部の端からベゼル内壁までを3mm程にすると、スイッチがぐらついたときにキーキャップがベゼルに擦れることがない良い感じの隙間ができます。

*6:使用するキーキャップの種類やベゼルの面取りの大きさにもよりますが、プレート上面からベゼル上面まで7~8mmあるとキーキャップの裾とベゼルが並ぶので丁度良いと思います。